夜明けの曳航

銀行総合職一期生、外交官配偶者等を経て大学の法学教員(ニューヨーク州弁護士でもある)に。古都の暮らしをエンジョイ中。

国籍法改正

2008年12月10日 | profession
2008年6月4日の最高裁の違憲判決を受けて、改正国籍法が12月5日に成立した。

1.最高裁判決の意義
すなわち、現国籍法3条1項によると、日本人を父とし、外国人を母として誕生した婚外子(非嫡出子という言葉は政治的に正しくない)については、認知後、父母が婚姻しなければ日本国籍を取得できなかった。

もっとも、生前認知によってなら日本国籍が取得できるので、柳美里も妻ある恋人との間の子に日本国籍を与えるために、出生前に不実な男に認知手続をしてもらう苦労や、区役所での対応の冷淡さを「命」シリーズで切々と描いていた。

「命」シリーズについては下記のエントリーを参照。

http://blog.goo.ne.jp/otowa1962/e/f31d26632cce6085733c82502578cf29

フィリピン人が母親のケースで、この条文が憲法14条に違反し違憲無効だと争われたケースで、最高裁が10対5で違憲判決を出したのである。

最高裁は実は違憲判決を出すことについては非常に謙抑的で、特に14条違反と認めたケースは、過去、尊属殺についてのものと、一票の価値に関するものの二例だけであった(そんなことも知らずに素人が人権でもないものについて14条違反の訴えを起こし、当然のように負けると、イデオロギー上の理由だというのが笑止である)。在外邦人の選挙権の問題すら、14条違反という主張は取り上げず、15条(選挙権)違反という理由で違憲としたのである。

だから、この違憲判決は憲法上非常に意義のあるものだといえる。

また、この判決は、さらに一歩進んで、国籍法が国籍取得を認めていないケースに国籍取得を認める判決を出せるとまで多数意見は述べて、「司法による立法権の侵害では?」という批判を呼んだ。

この点について、多数意見は、父母の婚姻という要件を不要と解釈することにより、合理的理由のない差別の解消が可能となるとし、これは本件区別に係る違憲の瑕疵を是正するため,国籍法3条1項につき,同項を全体として無効とすることなく,過剰な要件を設けることにより本件区別を生じさせている部分のみを除いて合理的に解釈したのであって、立法作用を侵すことにはならないとしている。

2.仮装認知への対策
これを認めると、仮装認知による不正な国籍取得が増加するのではないか、という批判があるが、多数意見は、

「なお,日本国民である父の認知によって準正を待たずに日本国籍の取得を認めた
場合に,国籍取得のための仮装認知がされるおそれがあるから,このような仮装行
為による国籍取得を防止する必要があるということも,本件区別が設けられた理由
の一つであると解される。しかし,そのようなおそれがあるとしても,父母の婚姻
により子が嫡出子たる身分を取得することを日本国籍取得の要件とすることが,仮
装行為による国籍取得の防止の要請との間において必ずしも合理的関連性を有する
ものとはいい難く,上記オの結論を覆す理由とすることは困難である。」と述べた。

また、国籍法改正においては、この懸念を配慮して、日本人男性に金銭を払うなどして虚偽の認知をしてもらい国籍を取得する「偽装認知」を防ぐため、偽装認知による届け出を行った場合は1年以下の懲役または20万円以下の罰金を科す規定を新設した。

3.他の婚外子差別撤廃の可能性

私が期待するのは、この判決が以下のように、婚姻した者としない者の区別は、国籍法成立時は合理性があったが、今日の社会情勢や結婚観の変化や、諸外国で法律婚の選択率が低下し、婚外子が増加していること(実際に事実婚でも法律婚と同様の法的扱いがなされている国が特にヨーロッパに多い。だからアレジと後藤久美子は事実婚だし、私のオランダ人の友人Judithの娘さんも事実婚で何人か出産し、クルム伊達公子は、結婚するとき、クルム氏の姉に「なぜ法律婚にこだわる必要があるのか」と(結婚に反対するという意味ではなく)といわれたそうである。キリスト教国では、日本ほど離婚が簡単でなく、そのかわりに日本ではかなり限定的な「婚姻無効事由」に日本だと離婚事由になるものが入っていたり、事実婚がより好まれるという事情も考慮すべきだと思うが)から、遅くとも今回の国籍取得届が提出された2005年までには違憲状態になったとしたことにより、他の婚外子差別(相続分が婚内子の半分という民法の規定など。東京高裁では違憲判決が出たが、最高裁では合憲とされている)が、今後違憲と判断されるのではないか、ということである。

儒教色の強い韓国でも、日本民法を基本にしているが、婚外子差別の規定は元々なく、離婚後の妻のみの待婚期間の規定は2005年に廃止され、2008年には婚姻年齢も男女ともに18歳になるばかりか、戸籍制度さえも廃止され、「家族関係登録制」にかわるなど、日本は後塵を拝する状況になっている。

「おわゆるM字型カーブ現象は日本と韓国ぐらい」、と説明されており、「男女差別についてはまだ韓国という下位の国がある」という認識を日本の男女共同参画関係者はもっているようだが、とんでもない。韓国は2002年に地方議会選挙で、2004年には国政選挙で女性議員50%のクオータ制を導入しており、アジアの中で最も男女差別のある国に日本は今やなっているのである。

判決文の引用(一部)
「国籍法3条1項の規定が設けられた当時の社会通念や社会的状況の下にお
いては,日本国民である父と日本国民でない母との間の子について,父母が法律上
の婚姻をしたことをもって日本国民である父との家族生活を通じた我が国との密接
な結び付きの存在を示すものとみることには相応の理由があったものとみられ,当
時の諸外国における前記のような国籍法制の傾向にかんがみても,同項の規定が認
知に加えて準正を日本国籍取得の要件としたことには,上記の立法目的との間に一
定の合理的関連性があったものということができる。

ウしかしながら,その後,我が国における社会的,経済的環境等の変化に伴っ
て,夫婦共同生活の在り方を含む家族生活や親子関係に関する意識も一様ではなく
なってきており,今日では,出生数に占める非嫡出子の割合が増加するなど,家族
生活や親子関係の実態も変化し多様化してきている。このような社会通念及び社会
的状況の変化に加えて,近年,我が国の国際化の進展に伴い国際的交流が増大する
ことにより,日本国民である父と日本国民でない母との間に出生する子が増加して
いるところ,両親の一方のみが日本国民である場合には,同居の有無など家族生活
の実態においても,法律上の婚姻やそれを背景とした親子関係の在り方についての
認識においても,両親が日本国民である場合と比べてより複雑多様な面があり,そ
の子と我が国との結び付きの強弱を両親が法律上の婚姻をしているか否かをもって
直ちに測ることはできない。これらのことを考慮すれば,日本国民である父が日本
国民でない母と法律上の婚姻をしたことをもって,初めて子に日本国籍を与えるに
足りるだけの我が国との密接な結び付きが認められるものとすることは,今日では
必ずしも家族生活等の実態に適合するものということはできない。

また,諸外国においては,非嫡出子に対する法的な差別的取扱いを解消する方向
にあることがうかがわれ,我が国が批准した市民的及び政治的権利に関する国際規
約及び児童の権利に関する条約にも,児童が出生によっていかなる差別も受けない
とする趣旨の規定が存する。さらに,国籍法3条1項の規定が設けられた後,自国
民である父の非嫡出子について準正を国籍取得の要件としていた多くの国におい
て,今日までに,認知等により自国民との父子関係の成立が認められた場合にはそ
れだけで自国籍の取得を認める旨の法改正が行われている。

以上のような我が国を取り巻く国内的,国際的な社会的環境等の変化に照らして
みると,準正を出生後における届出による日本国籍取得の要件としておくことにつ
いて,前記の立法目的との間に合理的関連性を見いだすことがもはや難しくなって
いるというべきである。

(3) 以上によれば,本件区別については,これを生じさせた立法目的自体に合
理的な根拠は認められるものの,立法目的との間における合理的関連性は,我が国
の内外における社会的環境の変化等によって失われており,今日において,国籍法
3条1項の規定は,日本国籍の取得につき合理性を欠いた過剰な要件を課するもの
となっているというべきである。しかも,本件区別については,前記(2)エで説示
した他の区別も存在しており,日本国民である父から出生後に認知されたにとどま
る非嫡出子に対して,日本国籍の取得において著しく不利益な差別的取扱いを生じ
させているといわざるを得ず,国籍取得の要件を定めるに当たって立法府に与えら
れた裁量権を考慮しても,この結果について,上記の立法目的との間において合理
的関連性があるものということはもはやできない。

そうすると,本件区別は,遅くとも上告人らが法務大臣あてに国籍取得届を提出
した当時には,立法府に与えられた裁量権を考慮してもなおその立法目的との間に
おいて合理的関連性を欠くものとなっていたと解される。

したがって,上記時点において,本件区別は合理的な理由のない差別となってい
たといわざるを得ず,国籍法3条1項の規定が本件区別を生じさせていることは,
憲法14条1項に違反するものであったというべきである。」
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