夜明けの曳航

銀行総合職一期生、外交官配偶者等を経て大学の法学教員(ニューヨーク州弁護士でもある)に。古都の暮らしをエンジョイ中。

比較法学会で報告(目的信託について)2

2008年10月07日 | profession

(承前)
以上のように、母法である英米信託法では、広義の目的信託の中で許容されるのは、公益信託と狭義の目的信託だけである。
実は、公益信託と狭義の目的信託の境界は曖昧である。
とくに、前述したEnforceability Principleでも説明できない二つの例(動物:Re Deanと一族のmonument: Re Hooper)は、いっそ公益信託といってしまった方が理論上もすっきりする。現に、動物に関しては、2007年2月27日に施行されたばかりの新公益法(Charities Act 2006)第2条(2)(k)に動物の福祉が入れられたので、現在は公益信託に分類されるようになった。
つまり、目的信託と公益信託をどのように区別すべきであるかという問題がよりクローズアップされているのである。2006年11月8日に成立し、2007年2月27日に施行されたCharities Act 2006は、それまでのCharities Actを抜本的に改正するものである。
無論、Charities Actは公益信託のみに適用されるものではないが、初めて条文上「公益目的」の定義を行うなど、公益信託にも画期的な変化をもたらすものである。
この改正法が成立した背景には、従来の公益・非営利信託/団体の法規制が現状に合わなくなってきているという問題意識があった。
benefit要件、つまりどのような目的が“公”の利益といえるか否かについては、MacNaghten卿がCommissioners of Special Income Tax v Pemsel (1891年) で打ち出した、いわゆる「マクノートンの分類」が指針になっていた。
それによると、次の4つのカテゴリーのいずれかに該当しないと原則として公益目的とはいえないことになる。
A:Relief of Poverty 貧困からの救済
B: Advancement of Education 教育の振興
C: Advancement of Religion 宗教の信仰
D: Other Purposes beneficial to the community not falling under any of the preceding heads
DはA~Cでカバーされないものを補充的に救済するためのものであるが、”beneficial to the community”といえるためには、Statute of Charitable Uses 1601 (1601年エリザベス法)の前文 に列挙されているか、または、アナロジーによってその精神と目的を反映したもの(” which by analogy are deemed within its spirit and intendment ”)でなければならないとされてきた。
これは、前文に位置するという点で、厳密にいうとstatutory definitionとはいえない。また、この法自体が、1888年にMortmain and Charitable Uses Actによって廃止されたが、前文だけは同法第13条2項によって効力を保存された 。しかし、この1888年法も1960年のCharities Act1960 によって廃止されたので、1601年法の前文も効力を失ったことになるわけだが、Pemsel判決で提唱された「マクノートンの分類」の中にその精神は生きており、Charities Act 2006(以下「2006年公益法」という」が施行されるまで公益信託解釈の指針となっていたのである。
この点、2006年公益法は、第2条(2)で12項目の公益目的を明示した。これは、公益目的について初めてstatutory definitionを行ったという点や、判例法によって蓄積されてきた事例を法文化した点で注目に値する。

しかし、注目すべきことは、Englandでは、このようにCharities Actを抜本的に改正しても尚、公益目的以外の目的信託は原則として無効という態度を堅持していることである。
公益信託についてまだ経験の浅い日本で、目的信託は全て有効としてしまってよいものだろうか、という問題意識を論じたのである。
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