夜明けの曳航

銀行総合職一期生、外交官配偶者等を経て大学の法学教員(ニューヨーク州弁護士でもある)に。古都の暮らしをエンジョイ中。

最高裁等の見学

2005年08月18日 | profession
8月のはじめに、学生有志を引率して、最高裁判所等の見学を行った。
大学の正式行事でなく、私の個人的な企画だったが、クラス32名中17名が参加してくれた。

1.最高裁判所
(1)ガイダンス
いつも、国立劇場に文楽を見に行くときに通るのは南門の前で、実は正門に行くのは初めてだったが、正面から見るとやはりものすごく威厳のある建物であり、門から正面玄関からのアプローチもものすごく広い石畳で、その威容に緊張する。
11時からの回を予め予約していたが、10時50分に正門集合ということで行ったら、警備員が門のところに3名いて、予約票を確認したうえで、玄関に誘導された。

法科大学院ということで気をきかせてくださったのか、広報課職員唯一の判事さんDさんが担当してくださった。
まず、小さな部屋で裁判の仕組等について説明したビデオを見た。
そのあと、Dさんが司法制度改革についてお話くださった。

(2)小法廷
第一から第三まであるうちの、第一に案内された。
5名ずつの裁判官が固定メンバーになっており、年間約12000件の事案を機械的に1から3まで割り振っていき、5人で必ず合議するが、裁判長は事件毎に決めるそうだ。(利害関係ある判事の回避、たとえば、内閣法制局長官時代に作った法律の合憲性が争われた場合等、はあるが、他の小法廷に回すのではなく、3名以上ならいいので、他の判事で取り扱うそうだ)
といっても、ほとんどの事件は書面審査で決定され、法廷が開かれるのは多くても月に7~8回ということだ。高裁の判断を変更する場合や憲法問題の場合は弁論を開く必要があり、その日、和歌山カレー事件の法廷内隠し撮りに関する案件で開廷されることがちょうど新聞報道されていた。

小法廷の内装は、大法廷が御影石であるのに対して、イタリア産の大理石を用い、温かみを出すような演出にしているとのことである。

(3)大法廷
ここで、庁舎全体の話。
最高裁は1947年にできたのだが、はじめは大審院のあった霞ヶ関(今の地裁ある所)にあったが、1974年に今の場所(GHQ将校のパレスハイツの跡地)に移ったとのこと。
個人的には、三権分立が十分でなく司法省の一部であった大審院の場所からGHQ将校が住んでいた場所に移るというのはいろいろな意味で象徴的だな、と思った(皮肉も含む)。
敷地面積は37,000平米、大法廷だけで574平米もある。
茨城県稲田産の御影石10万枚を使用し、各石に反響を吸収するためのスリットが入っており、4枚かけられている西陣織も吸音効果がある。
照明が全体に暗いので、各裁判官の手元にスタンドが置かれるとのことだ。
裁判官の座席は、真ん中の長官のすぐ左、すぐ右、というように任命が古い順になっていて、一番新しく任命された判事は向かって一番右に座ることになる。
傍聴席は166席あるが、証言台がないことが、事実審理は行わず、法律審であることを実感させる。当事者は出廷せず、代理人のみが参加するそうだ。

大法廷は、①法令の憲法適合性判断、②今までの最高裁判例の変更、③小法廷からの回付、の場合に開かれるが、実際には、年間0~5回くらいしか開かれない。
今年は、1月に都庁外国人職員の昇進差別に関する判決を出しているし、今後も選挙の定数配分、小田急の立体交差についての住民訴訟、在外邦人の選挙権という3件で既に大法廷を開くことが決定しているから、多い方といえるであろう。

学生が、「当事者が法廷にいないなら、撮影できないのはなぜか」、というとてもいい質問をした。Dさんの回答は、「撮影の許否は事件毎に判断すべきでなく、一律のルールにしなければならないが、代理人のプライバシーの問題があるので、一律ルールなら禁止ということにせざるをえないが、今後は見直す余地があろう。」ということだった。

最後に、それぞれ写真撮影。裁判官の席に座ってもいいというので、順番に長官席に座って写真を撮ったりした。私は高校の先輩である藤田裁判官の席に座って感激だった。

(4)米国連邦最高裁との比較
1991年にハーヴァードロースクールに入学する前に、ジョージタウン大学で行われたプレロースクールのサマーコースに一ヶ月ほど通ったので、週末に連邦最高裁の見学に行った。
日本との違いは、歴代最高裁判事の肖像や胸像を廊下に展示しているところ(ハワイ州の最高裁にも肖像画はあった)で、中でも、人種差別を違憲としたBrown判決など、米国の方向を変えるようなリベラルな判決を次々に出してWarren Courtといわれる一時代を築いたWarren長官については、特別展示があり、彼愛用のクラリネット(私も中高の部活でやっていたので少しうれしかった)も展示されていた。
私は彼が貧しいノルウェイ移民の子で苦学したことを初めて知った。そういう人が最高裁長官になる国の底力を感じた。また、スウェーデン系の子持ちの未亡人と結婚し、夫婦が子供5人を挟んで一列に手をつないで並び、文明堂のCMのようにいっせいに足を上げておどけている写真がとてもほほえましかった。

日本では、裁判官は、公正公平に判断するということから、誰でも同じ事件なら同じ判決をださなければならないという考え方が強すぎて、生身の人間としての部分を前面に出しにくいのでは、と思う。

2.昼食
ゼミで同期のSさんと昼食をとりながら、歓談した。
Sさんは現在最高裁調査官ということなので,話を聞いて意見を交わした。
彼はわざわざ休暇をとってくれた。
最高裁判決の意義について、目からうろこが落ちるような話をしてくれた。
中でも、最高裁は、三審制における最終審というだけでなく、司法判断を統一する機能を果たしているというのはなるほどだった。裁判官の良心と独立という原則(他の裁判所に相談したりできない。この点、中国の裁判所は、軍人上がり等法学教育を受けていない裁判官が多いのと、法の支配が徹底していないことから、他の裁判所によく問い合わせをするのだということを思い出した。)と、裁判所によって判断が違うのは困るということを調整するために、最高裁判例の拘束性とフィードバック機能があるというのだ。
しかし、厳格な拘束力はないといわれていて、下級審がchallengeしてもいい。そのchallengeは、たいてい、正面から行われるのでなく、「判例の射程距離」で適用範囲を狭めるという方法を使い、そうした下級審の積み重ねがついに最高裁判決を変えることもある、ということを、有責配偶者からの離婚請求の事例(昭和27年の請求不可の最高裁判例が、射程距離を狭める下級審判例の蓄積により、ついに昭和62年最高裁が一定の場合に肯定する判決を出した)を引きながら具体的に説明してくれた。
調査官というのは、判事の中でも超エリートコースなのだが、本当に気さくで謙虚な人で、改めて彼のような友人を持っていることを誇りに思った。
樋口陽一先生のゼミ合宿で一緒に仙台のお宅に伺ったことを昨日のことのように思い出す。私が毎夏学生を自宅に泊める行事をやっている
http://blog.goo.ne.jp/otowa1962/e/88cef5ae1a89d3fadfd93a13a3223c83
http://blog.goo.ne.jp/otowa1962/e/8dfd3eee7c355ceac7f0d43dd9bbbe62

のもこのときの楽しい経験が元になっている。樋口先生は東北大で藤田先生と親友だったようだから、いろいろな縁がつながっているな、と実感する。

学生の予算が限られているというので、都心で1000円くらいで19名で個室を使って昼食をとれるところを探すのは結構大変だったが。

3.森濱田松本法律事務所
約200名という日本最多の弁護士を擁する事務所の女性パートナー、Qさんのご協力により、見学させていただいた。
Qさんは、私が文科3類の2年生だったとき、法学部への進学を考えて悩んでいたら、当時入っていた葛飾手話の会のメンバーである司法修習生Xさん(彼もその後最高裁調査官になった)が、「僕の修習の同級生に理科2類から法転して司法試験現役合格した女性がいるよ」といって紹介していただいてから、20年以上お世話になっている方で、つい最近まで司法研修所の教官もなさっていた方だ。
会議室でお話を伺ってから、事務所の中を見学させていただく。
丸の内オアゾという一等地の6フロアを専有する事務所の規模の大きさもさることながら、事務所図書館専任の職員が数名いたり、IDカードをスキャンするだけで資料の貸し出しができるというシステマティックさに、一同圧倒された。

4.TMI総合法律事務所
六本木ヒルズにある、国内第6位の事務所を見学。
パートナーのSさんは、本学のある県の高校出身で、昨年春の県弁護士会のハワイ州司法制度視察に私が通訳として同行した際、Sさんも東京から参加してくださって以来のおつきあいだ。昨年夏に、私が受け持っていた学部の新入生ゼミの学生
http://blog.goo.ne.jp/otowa1962/e/980901a32cbd6071b915ad22c03ada62

を連れて行ったときに続いて、お世話になるのは2度目である。
ご自分が担当したいろいろな事件の具体的な話を1時間近く、とても熱っぽく語ってくださった。
オフィスのデザインで賞をとったという、効率性と機能美を兼ね備えたオフィスの中もとても素敵だった。

5.解散後、5名の学生が文京区内の我が家に泊まった。

6.今回の企画は、6月くらいから考えていたが、実現するまでは大変だった。
というのも、打診したときに、研究科長から「何かあったら困るから」と反対されたのだ。私は「また差別か」とうんざりした。というのは、このとき既に、みなし専任の弁護士の先生方が、それぞれ、大学院のキャンパスのある町から1~2時間かかる町の彼らの事務所に学生を招いた見学会を実施していたからだ。
これは、とくに教授会で事前に諮られることもなく、他の教員には事後に非公式に知らされたのだが、この行事については、研究科長は何もいわなかったのだ。
2~3時間かかる東京に行くのと、1~2時間かかるそれらの町に行くのとどれほどの違いがあるというのだ。
だから、もうよそうかな、と諦めかけたのだが、最高裁調査官の友人はもう2年目で、いつ転勤で出るかわからないし、やはり、いい勉強になるのだから思い切ってやってみよう、と企画したのだ。

最高裁の見学を予約したとき、広報課の係員の人に、依頼書上に「所属する組織の長」の印鑑がいるといわれたが、如上の理由でとても研究科長の判はもらえそうもないので、何とか説得して私の印鑑ですましてもらったり、「私は何も悪いことしていないのに、どうしてこんな嫌な思いをしなければならないのか」と泣きたくなった。
弁護士の先生方の行事も正式に教授会に諮ったわけではないので、諮るのはやめようかとも思ったが、そのことでまたいちゃもんつけられるのは嫌だと思って、教授会に出したら、やはり前と同じように阻止されそうになった。
学生の中にも処分された教員(執行部に対立する教員が悪意をもってマスコミに漏らしたのだという説明をしていたらしい)のシンパがいて、クラス委員が説明したとき、「ちゃんと教授会にかけているのか(弁護士の行事はそんなこといわないくせに)」といった者がいたそうだから、どんなに嫌な思いをしても、教授会にかけておいてよかったのだが。
このエピソードひとつ取ってみても、現執行部が、学生の利益よりも、内部告発したと疑われている人間への復讐心や反感を優先しているということがよくわかるだろう。

それ以外にも、2003年度から学部で結んでいるハワイ大学ロースクールとの協定に(協定があるから、前記のハワイ州視察の際も、名誉学院長フォスター先生が、見学のアレンジから終日の付き添いまで全て親切に対応してくださり、参加者である県の弁護士の先生方も先生の人柄には魅了されている)ついて、研究科長は、「法科大学院としては学部への協力以上の主体的な参画はいっさいしない」、と言い張っている。
毎年協定に基づいて、「学部で」フォスター先生がアメリカ法の集中講義もしてくださることになっているし、当初から本学にローができたら当然ローも参加するという前提で交渉していたし、第一レシプロからしても、ローができたというのにこちらが経済学部だけの参加では失礼なのに、そう言い張るのは、国際交流委員である私に活躍の場を与えたくないからだ(実際、昨年夏のフォスター先生の講演会
http://blog.goo.ne.jp/otowa1962/e/15b5b44e7a259a56ee8435ca214391a5

の私の通訳は評判が良く、当初一部しか参加できなかったはずの医学部教授である学長が「通訳がわかりやすくて面白かったので(お世辞だろうが)わざわざ予定を変えて2日目も参加します」といってくださったくらいだ)。笑っちゃうのだが、委員会の名前も、当初「国際交流『検討』委員会」というのを同委員会の委員長でもある研究科長(ちなみに委員は私一人)がつけていたのだ。「国際交流については検討しかしないから、正しく実態を反映させるべきだ」というのだ。私が「学部の委員会も『検討』なんて入っていないのだから、そういう妙な表現はやめましょう」と提案したら、当時はまだ研究科長でも代行でもなかったのに「私の命名に対して侮辱された。撤回しろ!」と二人きりでやっている委員会なのに言われたりしたのだ。
大体、委員会の名前に「検討」しかしないのに、「検討」という言葉が入っていなかったら、処分されるほどまずいのか、それほど細かく名前と実態の一致にこだわる人が、○○○○についての手続の適正についてはあまり意識していなかった、というのはどう考えてもすごい矛盾だと思うのだが。

ただでさえ、やることがたくさんあるのに、そんなことばかりしていて、本当にいい法科大学院を作れると思っているのか、と叫びたい。
普通の人間なら、「そんなこといわれてまでこんな面倒なこと誰がやるか」とくじけてしまうだろうが、いろいろな障害があっても、思い切って実行してよかった、私自身にとってもとてもいい経験になった。
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