某国立大学で、「セクハラ」で教育学部の准教授を諭旨解雇にしたという記事を見た。
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20070621-00000006-mai-soci
「セクハラ:信州大准教授が女子大学院生に関係強要、妊娠
信州大教育学部(長野市)の男性准教授(35)が同大の20歳代の女子大学院生に性的関係を強要し、
妊娠させたとして諭旨解雇処分になっていたことが分かった。
准教授は事実関係を認めている。21日発表する。
同大関係者によると、准教授は今年2月に学外で大学院生と複数回性的関係を持ったという。
准教授は大学側に「合意はなく、大変申し訳ないことをした」などと事実関係を認め、
辞職を申し出た。准教授は大学院生に謝罪し、慰謝料約50万円を渡したという。
大学院生は今年4月、大学に「セクハラを受けた」と訴え発覚した。
大学はハラスメント調査対策委員会で事実確認のうえ、
今月上旬の臨時評議会で処分内容を決めた。同11日付で処分した。
懲戒解雇ではなく諭旨解雇とした理由について同大は、
准教授が事実関係を認めて謝罪し、反省している--などの点を挙げている。
准教授は東大卒後、04年に信州大教育学部講師、
今年1月に同大助教授(4月から准教授)となっていた。【藤原章博】
毎日新聞 2007年6月21日 3時00分」
でも、これって本人が「合意がなかった」と認めているんだから「セクハラ」じゃなくて、強姦じゃないか。しかも被害者の女子院生は妊娠している。
「複数回だから合意はあったのでは?」というおかしなコメントをみかけるが、百万歩譲って複数回のうち一回でも合意がなかったとはいえないケースがあったとしても、それで他の合意のない性交の違法性がなくなるわけではない。
強姦というのはあくまで一回一回の合意の有無の判断なのだということもわからない人がいるのは困る。
どうしてこれで懲戒免職にならないし実名も出ないのだ?
(懲戒免職と諭旨解雇では雲泥の差だ。後者なら退職金も出る)
と書いたが、この「合意の有無」は調査委員会でもはっきりさせていないらしく、
記者会見で朝日新聞の記者が質問してもはっきりせず、「そんなこともはっきりさせないで懲戒したのか」と呆れムードが漂ったという。
そのせいか、ここで引用した毎日新聞の記事はすぐ削除された。
この大学の懲戒は、量刑がどう考えてもおかしいし、気に入らない人間を追い出すための政治的道具になってしまっている。
いくつか例をあげよう。
昨年5月に実名まで出されて「私文書偽造」として懲戒解雇になった教育学部の助教授の罪状は、採用時と昇任時に論文について虚偽申告をしたことだった。
彼は、処分取消の仮処分を申請して、「法科大学院虚偽申請の処分と比べて均衡を
失する」と争っている。
同じ教育学部で、院生を強姦・妊娠させても実名非公開、退職金を出す諭旨解雇、業績の虚偽申告では実名公開、懲戒免職というのはあまりにも均衡を失し、大学としての見識を疑われる。
それはそうだろう。
私文書偽造より重い「虚偽公文書作成罪」に該当するし(それを行政法の研究者がするというのは…)あれほど大きく報道され、学生募集も1年見合わせられそうになったり、他の学部の改組も申請できなくなったり、大学全体に迷惑をかけただけでなく、他の大学の先生にも、「○大のおかげであらゆる設置申請が厳しくなった」といわれるくらい、全国にも影響を及ぼした。
それなのに、首謀者兼自分の論文ごまかしもやった3名はローを追放され学部に戻されたとはいえ、研究科長は停職3ヶ月、理事兼教授など、「理事だから処分できない」などといって理事を退任しただけで処分なし、事務局長だった教員は減給6ヶ月ですんだ。
しかも、前研究科長と前理事は、申請書を提出した当時(2004年6月)、その申請書の業績リストに入れた論文をまだ書いていなかっただけでなく、3年たった今でもまだ、その3、とかその2までしか書いてなくて、未だ完成させていないのだ。元理事なんか、注がひとつもない作文の上、「その1」のデータが2003年とかになっているのに、どうするんだ。
しかも、処分時に交代した学部長の任期が来て、なんとこの元理事を新学部長に選んだというのだから、絶望的だ。国立大学の補助金に成果主義が採用され、論文のリストを出せとか本部から要請されているときに、最後に書いたのが1990年の「○法の争点」の一項目で、設置申請のときに「書き終わっています」と申告した論文を3年たってもまだ完成させていないような人間をトップにするなんてどうかしている。
ISO20011の認証を取ろうとしているのに、休日も毎日来て共同研究室の電気を全部つけてソファでTVを見たり、平日午後3時ぐらいになるとそのソファで四肢を投げ出してうたた寝するのはお願いだからやめてくれ。共同研究室に常駐している助手のお嬢さん二人も困っているよ。
そんな姿をコピー取りに来て見る度に同じ空気吸っているだけで五臓六腑が腐りそうな気がする。
それに、2005年5月に主として、大学の所在地から1時間ほどかかるかかる町にアパートを借りているが、実際は神奈川の自宅から通勤しているので、交通費の詐取をしたとして停職3ヶ月になり、結局自分からやめた助教授も、本人に近いところから聞いたところ(だから職務上知り得た秘密ではない)、本来諭旨解雇だった(今回の強姦と同じ処分!)のを、弁護士を通じて大学と交渉して退職を条件に停職にしてもらったという。
彼のケースも、処分したい、というのが先にあって、材料を後から探したのである。
最初、自分が採用に関与した女性の職員を内定後赴任前に何度も食事に誘ったとか、学生を運転手代わりにこきつかったとか、いくつかのセクハラ、アカハラっぽい事象があった。
これは私が彼が処分される1年ほど前に当時の全学ハラスメント対策責任者(イコールパートナーシップ委員会委員長、ただし痴漢で辞めた教授ではない)に直接聞いたことだからまちがいないが(でも私はハラスメント相談員でもなんでもないから職務上知ったわけではない)、「合わせ技はできないので、これらの事象では解雇までできない。しかし、被害者は、解雇じゃないならどんな仕返しをされるかわからないから、取り下げるといっている。そこで、何か金銭上の不正をしていないか今探しているところだ」とはっきりいっていた。
しかも、処分の記者会見で、「勤務時間記録書」(裁量労働制導入後提出させられているもの)に虚偽記載があったことも処分理由のひとつにあげていたのは、前にもブログに書いたが、労働基準法違反である。
労基法38条の4第1項に基づき「労働者の健康および福祉を確保するために使用者が」労働時間を把握するために提出させるものにすぎない「勤務時間記録書」の虚偽記入を処分理由の一つとするのは違法であると、現地の労基署職員にも確認した。その職員に「その処分委員会に労働法の教授も入っていた」といったら、嗤ってた。さすが17年論文書いていないだけあるよね。
というように、ハラスメントというのは、まず結論ありきで政治的に利用するものなのだ。
懲戒処分は、執行部の意図通りに全くRule of Lawのないところで適正手続を無視して行われ、まさに恐怖政治である。
法的にも面白いテーマなので、幸い豊富な事例も身近にあることだし、いずれ論文にまとめようと思う。
ローができる前、例の前学部長が前期の科目の採点を2月にしかせず、前期の成績表に「○法の成績は後日」と注記されるというのが常態化していて、学生、とくに4年生が困っている(たいてい前期に単位をとり終えて後期は就職活動に専念するのに、○法4単位分がどうなっているかわからないから、保険のためにいらない授業に出たりしている。県外出身者が7割なので、たいてい県外で就職活動するので、必要ないかもしれない講義に出るのは負担なのである)のをみかねて、私が、学長に直訴した(そういうことをするから告発者と疑われる)あと、学部の新年会で、彼が某教員(非社会科学系のあんただよ、ねたはあがっているからね)に「あいつは目障りだから、なんか理由をつけて懲戒処分してやれ。人間だから何かミスをするだろう。」と命令して、「かしこまりました」というやりとりがあったという。くわばらくわばら。
(この「人間だから」というのは彼の得意技。「どうして設置申請書で申告した論文を早く書いてくれないのですか(私は当時の紀要委員だったのである。これもリークを疑われる理由)。紀要が予定通り発行できないじゃないですか」と懇願すると、「しょうがないじゃないか。人間はロボットじゃないんだから、理屈通りにはいかないよ。紀要は奥付が8月でも9月までなら大丈夫だから。それか、もう原稿が集まっている分だけ第4号のIとして出して、俺たちの分は第4号のIIとして後で出す、っていうのはどうだ」と言い返したのである。)
実はもっとひどい事例もあるのだが、それはまた別のおはなし、ということで。
この件については落合洋司弁護士もブログに書いているのを発見。
http://d.hatena.ne.jp/yjochi/20070621
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