夜明けの曳航

銀行総合職一期生、外交官配偶者等を経て大学の法学教員(ニューヨーク州弁護士でもある)に。古都の暮らしをエンジョイ中。

法はなぜ一般人の感覚に逆らうのか

2007年04月12日 | profession
法はなぜ一般人の感覚に逆らうのか。

という、よく知人にきかれる疑問を改めて考えさせたのが向井亜紀の事件。

私も体外受精を5回もしたので他人事ではない。

法が目指すことは、もちろん、個別具体的な事例における結果の妥当性だ。
大岡越前なら、それができるだろう。

しかし、近代法社会では、当該事案の解決だけを考えるわけにはいかない。

つまり、予測可能性や公平ということを他方では考えなければならない。

法令(判例による解釈を含む)の範囲内でしか判決・決定を出せないのはそのためである。もし、法令の範囲を超えた判決・決定ができることになると、予測可能性・法的安定性を損なうし、裁判官によってあまりにも違う結論が出るのでは公平も欠くだろう。さらに、恣意的な解釈の危険もある。

個別の結論だけを見て批判する人は多いが、個別の結論の妥当性に偏しすぎた場合の法の支配への危険性はあまり認識されない。

法律家はいつも、個別具体的な妥当性と予測可能性のジレンマの中で苦しむのである。
従来の法令や判例を当てはめれば妥当な結論を出せないケースでは、まず、判例の射程距離に当該事例が当てはまらないという理論、それがだめなら判例変更で対応するが、やはり法文の文言解釈からあまりにも離れすぎると解釈では無理で、今回の最高裁がいうように立法で解決しなければならない。

そのようなことを改めて考えさせられる事件だった。

ところで、特別養子の手続は、代理母との契約に反してできない(ちなみに、ネバダ州で手続したのは、ネバダ州が最も自由度の高い家族法とそれを適用するためのConflict of Lawsをもっているから。アメリカは州によって法律が違うので、最も好都合な州を選択できる(その選択に関しても、その州法を適用するためのConflict of Lawsの融通度が問題になる)。有名なのは、経営者側にきわめて有利な会社法をもつデラウェア州で設立される会社が圧倒的に多いということ。登記地が本店になる日本と違って、アメリカ法では、主たる活動拠点と設立地は異なってもよい。このように、州法の規制緩和によって法人税や登録手数料等を稼ごうという動きは、Race to the Bottomと揶揄されることもある)ということだが、アメリカ契約法でも、considerationを改めて出せば、契約の変更はできる。

それが無理でも、日本の民法817条の2は、原則父母の同意を要するとしながらも、但書で父母がその意思を表示できない場合となっている。本件にその但書に適用できないのか(アメリカでは向井夫妻が父母でも、日本法では代理母が母なのだから)、と思うのだが。

772条2項の件も改正は見送られたが、先日終わった「渡鬼」でも、四女がこれに当たるので問題にされていた。
四女は3度目の結婚で妊娠したが、離婚後300日以内に生まれそうだったのだ。

夫役の橋田ファミリーとの決別に合わせて離婚・死別する娘たち。
四女の最初の夫は唐沢寿明だったし、五女のそれは香川照之だったがいずれも演技派だから、シリーズ2で離婚・死別したことになったのはその辺の事情からだろう。

しかし、2002年に看護師、保健師、助産師法が改正されたのを受けて、長女の弥生が「看護師の資格があるから」といっているのはいいが、京唄子が「助産婦」と連呼しているのはやっぱりわかっていない。

ナンシー関は「トレンドものの取り入れ方のずれ方が面白いのでアドバイザーをかえないでほしい」といっていたが、その通りだ。

また、ジェンダーバイアスも何とかならないかと思う。
小島家のダイニングでは、料理を作ったり運ぶのは必ず女性。
真は冷蔵庫を開けてジュースを取り出すところはあっても料理のシーンや運ぶシーンはない。勇にいたっては、ビールさえ泉ピン子に運ばせ、流しの方に行ったのを見たことがない。
一日中店で同じように働いているのにである。
朝ごはんの後も、愛や和津は流しに茶碗を下げるのに真はそのまま「行ってきます」。

こういう視聴率の高いドラマでジェンダーバイアスを刷り込むのはいい加減やめてほしい。

ラーメン屋の店先でいつも身内が大声で喧嘩している(そんな店客は二度とこないぞ)のや、とっくにわかっているはずのこともいちいち説明する(娘がどうしてこうして離婚したとか夫婦で話すな)のは、目をつぶるが。まあ、橋田壽賀子自身が「洗い物しながら見られるようなドラマ」といっていた通り画面を見なくても筋がわかるのは助かるのだが。
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