(そんな馬鹿な……)
桶狭間忠国の拳が駅構内の床にめり込んでる。そしてそれを抜く時に床のタイルもはがれて落ちる。あんな事をしたら……というかあんな風になるか? としかアンゴラ氏は思わないが事実として桶狭間忠国の拳は駅構内の床にめり込んでいたんだ。
もうそれは受け入れようとアンゴラ氏は考えた。でも……だ。でも……拳が床にめり込むほどの威力を出したとして、果たしてその拳は無事で済むのか? という疑問……けどそれに対しての答えも桶狭間忠国は示してる。
「ふん! はあ! ぜあ!!」
流れるように美しい型から繰り出される桶狭間忠国の攻撃。そこに淀みなんてない。実際、アンゴラ氏は通信講座でムエタイを学んだことがあるくらいで、格闘技への精通なんてのはないに等しい。
だからこそ、もしかしたら見る人が見たらとあの拳をかばうように動いてる……とかわかるのかもしれないが、少なくともアンゴラ氏にはわからなかった。もう普通に使ってる。
だってさっき床に刺した方の手で攻撃を捌いたり流したり、さらには尻尾を掴んで「うおおおおおおおおおおおお!!」――とグルグルしてる。やっぱりだけど負傷してるようにはまったく思えなかった。
というか……
「俺、必要か?」
桶狭間忠国は強かった。その体から見ての通り……といえるだけの強さ。いや、アンゴラ氏が思ってたよりも数倍は強い。てか「人間か?」と思ってる。そしてそれはアンゴラ氏だけではない。後方に下がった草陰草案達もそうだし、この放送を見てる視聴者達、全ての人たちが驚愕してる。
グルグル回して桶狭間忠国は悪魔のような女性を投げる。本当ならそれこそかなりの勢いで彼女は飛んでどこかにぶつかったりしておかしくなかった。でもやはり向こうは人外。
桶狭間忠国もそうだけど、向こうだってこれまでの人生で培った常識で計ったらいけないと思い知る。桶狭間忠国の手が彼女の尻尾から離れた瞬間、悪魔のような女性はその羽を開いた。しかもこれまでよりも一番大きく……だ。それによって勢いが殺される。そして次の瞬間、彼女の鋭利な爪が桶狭間忠国の顔から胸までを一気に駆け抜ける。
確実に入った。顔までも……と絶望がアンゴラ氏の頭に湧き上がる。けど桶狭間忠国は止まらなかった。彼は攻撃終わりの態勢が崩れた彼女の体をがっちりとホールドした。悪魔の様な女性はさかさまになった状態で桶狭間忠国に捕まった。
「うぬううううああああああ!!」
そう叫んだ桶狭間忠国は彼女の体を抱いたまま力いっぱい飛んでさらに空中でその頭を脚ではさんで固定。そしてそのまま、回転をかけて駅構内の床にたたきつける。
殺人的な技だった。けど、二人の戦いは終わってなんかなかったんだ。