なぜか草陰草案以外のみんなが泣き出した。それも大号泣のレベルである。大の大人やら大学生の彼らがあんな人目もはばからずに泣くなんて異常事態だろう。
だって男性はある程度の年齢になると、極力涙は見せたがらない筈だ。もしも見せたとしても、歯を食いしばって耐えに耐えて、それでも絞るように出てくるような……そんな涙のはずだ。
わんわんと泣く……なんてのは大人の男性が見せる涙じゃない。よしんばそんな風に無く大人の男性もいるかもしれないが、流石に今集まってる全員がそんなわんわんと泣く人だった……とはさすがの草陰草案だって思えない。だからこれは『異常』だ。
そして今現在、この街でそんな異常を引き起こす原因……それは目の前の悪魔みたいな見た目をしてる彼女だろう。彼女も泣いてる。けど彼女はワンワンというよりもシクシクだ。それに彼女はどうやらずっと泣いてる。草陰草案が思ってるのは、この彼女の涙……それが影響してるんじゃないのかってことだ。
なにせ……だ。なにせ、彼女から発せられる力は草陰草案が阻んでるのだ。そしてそれはちゃんと機能してる。だってそうじゃないと……
(私も泣いてるはず)
――という事だ。でも草陰草案は……草陰草案だけは涙を流してない。それは影響をちゃんと防いでるからだ。でもならばどうして……ってことになる。どうして草陰草案以外の彼らは泣いてるんだろうか? 草陰草案はわからない。
「何をしたの!」
草陰草案はそういって手を前にかざした。すると悪魔のような彼女の周囲がキラキラとしだす。すると彼女は翼を使ってくるりと後方に回ってよけた。
(よけた!? 攻撃力なんて皆無なのに?)
今のは実はただのはったりだった。なにせ草陰草案の力は癒しの力だ。アンゴラ氏みたいな攻撃はできない。だからむしろ今のに包まれてると、なんか癒されるぅぅぅ! って感じになるくらいでしかなかった。
けど……だ。
(けど、避けた。なら!)
草陰草案はさらに力を使う。服の下に隠してる黄色い宝石を左手で握りしめて、右手をかざして力の指向性を指示する。再び悪魔のような女性の周りにキラキラとした光が集まる。けど今度は……
「きゃあ!?」
いきなり吹いた突風に転がされる草陰草案。周囲の人たちもいきなりの強風に膝をついて踏ん張ったり、やっぱり草陰草案と同じに様に転がってたりした。
「つっ……しまっ!?」
草陰草案が転がった。草陰草案だけが転がったせいで、3メートルの距離がアンゴラ氏たちと離れてしまった。彼らは泣いてるが、それでもなんとか床に手をついたりして耐えられたみたいだ。
けどこれはまずい……と草陰草案は思った。だって今はまだ泣いてるだけだ。けど、草陰草案の力の外に出てしまうと、それだけじゃすまない。おかしくなる。
「だめえええええ!」
そんなのは嫌だと草陰草案は思った。