「もう元には戻らない」
その彼女の言葉……それはどうやら正しかったみたいだ。なんでそんなことを思ったのか……それは当然、事実として今、それが野々野国人につきつけられてるからだ。あれかは数日がたった。
それで野々野国人の生活はガラッと変わった。言うなれば世界から花が消えたような……まさに孤独な独身男性の灰色の日々……というのか? そういうのだ。嫌になって別れたのなら、もしかしたら「一人最高!」――とか思えたのかもしれない。でも……違う。そうじゃない。
野々野国人は本命だった彼女と別れたかった訳じゃない。今だって元に戻りたいと思ってる。彼女が彼女じゃなくなって、家族になることができなくなって、そのせいで野々野国人のテンションは明らかにおちてる。
結婚の為に頑張ってたんだ。そもそもが野々野国人は上昇志向なんてのはそんなにない。仕事だって本当なら自分が生きていける分稼げれば、それ以上なんて求めることはなかった。
でも一緒に歩む人がいると……そんなことをいってられないだろう。どっちかに偏る……なんてのはしたくなかった。どっちも仕事をしてるわけだけど、自分が支えるんだ……という意識があった。
それに……だ。それに結婚をするとなれば、その先だって見るだろう。先……それは二人だけの生活じゃない。結婚したあと……となったら、子どもを意識するだろう。二人から三人に……それよりももっと増える可能性がある。
一人暮らしでは増えない守るべきもの……それを意識して仕事を頑張ってたわけだ。それに子どもだけじゃなく、家……もそうだ。二人は結婚後に二人で住むための家だって探してた。
それはもちろんまずは賃貸だ。でも……ゆくゆくは一軒家だって見据えてた。一国一城の主となる……なんてのは今の時代そんなに誇りにすることじゃないのかもしれない。でも、国人は色々と考えるとやっぱりそのうち家を持って広い家で子どもや奥さんを守りたい……とおもってた。
そのためには先立つものが必要だ。それはお金である。なので仕事を頑張ってた。頑張れてた。大切な人の為……将来の為に仕事をやってた。
でも今は……そう今はもう……それらはなくなっている。