(確かに速い……けど!)
見える。見えれば対策はある。それに……だ。それだけ速いと言うことは、それを利用すればこっちは最小の力で向こうに多大な攻撃を加えることができる。今はどれだけ節約して効果的な攻撃ができるのか……ってのが大切だからそれはとても大切だ。実際もしかしたらあのドラゴンって風みたいなものだから、本当なら攻撃を当てるってのも難しい……とかだったのかもしれない。
けど野々野足軽にはそんなのは関係なかった。なので力を集める。すると勿論、ドラゴンがやってくる。そこに合わせるように野々野足軽は力の巨人……その腕を作り出す。さっきまでなら、その速さに翻弄されててそんなのする暇さえなかった。けど動きさえ見えてるのなら、先を見据えることができる。けど速い。何回かはすかった。
やっぱり早すぎるから攻撃を合わせるってことが難しい。でも……あっては来てる。けど今までよりも多く力を持っていかれてる。なにせ力の巨人の腕を作ってるんだ。それだけそこには力を込めてる。だからミスったらドラゴンに食われてる。それは痛い。けど、次は行ける。それにドラゴンは脳みそなんてなさそうだ。こっちが反応しだしてるってのはわかってるだろうに、あいも変わらずに同じような行動を繰り返してる。きっと暴走してる状態だからだろう。
でもそれなら好都合。手痛い一撃を与えて、ショック療法といこう。
「せあ!!」
突っ込んできたドラゴンに合わせての正拳突き……それがドラゴンの顔面にめり込んで、首をくの字に曲げていい手応えとともに、吹っ飛んだ。けどそれで終わらせない。腕や脚を形作って表す……それは力が流れてるところはならどこにだってできるんだ。まあ勿論力を集めるという準備は必要だ。けど、比較的まっすぐに移動してたドラゴンのお陰で、殴ったらどういう感じに飛ぶのかとかも想定はしやすかった。
だから想定通りにやってきたところに更にな殴る! そして勿論、そこからはちゃんと方向を意識して殴ってるのだ。準備してた脚のところにきたら、予定の方向へと蹴る! そして殴る! そんなことを繰り返す。
「くっ……」
優勢……だけど野々野足軽は一瞬くらっとした。それは殴る蹴るの間に、このドラゴンをどうにかするすべを見つけるために力を同時に流し込んでるからだ。最終的な目標はあくまでも風の少女へと戻すことだ。ドラゴンを倒すことではない。なのでその方法を模索するのは当然。なので力を使ってこのドラゴンを知ろうとしてる。
力を流して、このドラゴンをしる。その過程でこのドラゴン……いや風の少女の絶望とか慟哭……そんなの負の感情が流れ込んでくる。それが想定以上にきつい。
「なるほど、物語の闇落ちってやつが理解できるかも……」
こんな感情にさらされ続けたら、次第にそっちに寄っていくのもしかたない……と野々野足軽は思った。だからなるべく影響を受けないように、そういう煩わしい感情は遮断するように心がける。