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origenesの日記

読書感想文を淡々と書いていきます。

C.レヴィ=ストロース『レヴィ=ストロース講義』(平凡社ライブラリー)

2008-08-23 22:33:46 | Weblog
文化人類学者レヴィ=ストロースが東京大学で行った講義を活字化したもの。質疑応答では川田順造や平川祐弘が参加している。
ヨーロッパ文化の優位性に疑問を投げかけたレヴィ=ストロースは文化相対主義に大きな影響を与えたが、この本の中でも彼の優れた意味での文化相対主義を見出すことができる。1%のヨーロッパ文化を99%の他の文化よりも優れたものとして扱ってはならない。地球全体の文化を見た上で、高等・低等の区分なしに、それぞれの文化の価値を認めなければいけない、と著者は主張する。
日本での講演なので、著者は日本文化を例に語っている。江戸時代の日本は当時のヨーロッパよりも識字率が高く、また幾つかの部分においてはヨーロッパよりも先進性があった。19世紀に先進国のヨーロッパが後進国の日本に文明をもたらしたというのはあまりにも一面的な見方ではないか。識字率など、江戸時代の日本人がヨーロッパ人よりも優れたところは多くあったはずである。著者は柳田邦男の民俗学などを武器に、日本文化を論じていく。著者の日本文化礼賛はリップサービスではないかと思うところもあったが、ヨーロッパ中心主義を否定する彼らしい言葉であるのは確かだ。
著者は文化人類学者として、社会に対して積極的に発言していくべきだとも言っている。文化人類学がヨーロッパ中心主義と過度な科学礼賛に歯止めをかけることができると考えているようだ。しかし、文化人類学者は科学者のように信頼されることはない、と苦言をも呈している。文化大国のフランスでも人文科学の学者は軽視されやすいようだ。
宇宙規模で物事を考えた場合、科学的な社会全体がまるで始まりと終わりのある神話のようにも見えてくる。社会には始まりもあれば終わりもある。この社会全体がマコンド村のように突如として消えてしまうこともあり得るのだ。そう考えれば、私達が今見ているものや信じているものはマコンド村の神話に過ぎないということになる。現代においては、一旦袂を分けた科学社会と神話が、再び出会っているのではないか、と著者は考えているようだ。この考えは興味深い。

ジャレド・ダイアモンド『文明崩壊 滅亡と存続の命運を分けるもの』(双思社)

2008-08-23 22:22:29 | Weblog
マヤ、イースター島、ノルウェー領グリーンランドなど、これまでの歴史の中で崩壊した文明について論じながら、崩壊した文明と崩壊しなかった文明の差異を明らかにし、今後の地球文明の将来について案じた本である。現代文明の自然破壊に対する警告ともなっているのだが、そこら辺のエコロジー主義とは違い、「人類の文明を存続させるための環境保全」という視点が常に存在しているというのが良い。
著者は、江戸時代の日本を、孤立しながら崩壊を免れた社会として高く評価している。江戸時代の環境保全がうまく行った理由としては、当時の日本人の森林伐採の加減や、日本の森林を育てやすい気候などが挙げられている。著者は決して日本人の仏教的な徳性などに理由を求めないのだ。
ドミニカの独裁者ホアキン・パラゲールについて論じた章も面白かった。冷酷な独裁者が環境保護を推進し、実際に環境の保全に役立ったという歴史的事実をどう捉えるべきか。残忍なパラゲールによってドミニカは緑に溢れる国家となり、民主政治によりハイチは自然が荒廃した国家となった。著者は安易にエコロジーとヒューマニズムを結び付けたりはしない。民主主義は時に環境保全を蝕む可能性もあるのだ。
現在も進む環境破壊ではあるが、著者はある程度楽観的な視野を持つべきだと主張する。かつてのマヤ文明やイースター島文明においては、人々は他の文明が崩壊していくさまを知らなかった。しかし現在では、世界中の人々が情報によって繋がっている。世界中の人々が連携して、文明崩壊を止めることができるのではないか。著者はこう提案する。

最近見た映画3

2008-08-23 22:08:08 | Weblog
『ラブ・アクチュアリー』
ヒュー・グラント、リアム・ニーソン、キーラ・ナイトレイ(『いつか晴れた日に』)、エマ・トンプソン(『日の名残り』)、アラン・リックマン(『ハリー・ポッター』)などといった豪華なイギリス人俳優が出演したラブ・コメディ。ハンサムなイギリスの首相が官邸で働く若い女性に恋をするなどという荒唐無稽な物語ながら、イギリス人らしいウィットな会話に溢れていて、面白かった。悪役が一人もいないのも良い。

『メトロポリス』
フリッツ・ラングが監督した1920年代のドイツ映画の名作。マルクス主義的な労資の対立が映画の背景となっている。人工の美女マリアの不気味な演技が素晴らしかった。手塚版と見比べてみるのも一興かも。

スティーヴン・ジェイ・グールド『ダーウィン以来 進化論への招待』(ハヤカワ文庫)

2008-08-16 22:30:59 | Weblog
ダーウィンほど誤解された思想家も少ない。社会的進化論の論者たちは、ダーウィンをprogressを説いた学者と見なし、人類の歴史を啓蒙主義的な進化の歴史と論じた。しかしダーウィンは生物の進化とprogressを峻別し、生物の進化を決してprogressと名づけることはなかった。ダーウィンの進化論においては、優れた種も劣った種もいない。種は進化するけれども、改良されていくわけではない。猿と人間を比べた場合、人間の方が必ずしも優れている、とは言えないのである。
ダーウィンの「自然淘汰」・「適者生存」という概念も誤解されやすい。ダーウィンの理論においては、本質的な適者も不適な者も存在しない。ただ、とある局地的な場所における適者が存在するだけである。とある状況においては、首の長いキリンの方が首の短いキリンよりも生きていくのに適している(獲得形質が遺伝するわけではないが)。とある状況においては、足の速い動物の方が生きていくのに適している。「白人は黒人よりも優れた種である」と説く人種差別主義者が、いかにダーウィンから遠く隔たっていることか、この本を読めば理解できるだろう。
本書では社会的ダーウィニズムや「退化論」のチェーザレ・ロンブローゾが批判の対象となっている。白人と黒人の間に人種的優劣を付けようとするあらゆる思想を、著者はダーウィニストとしての立場から強く批判する。
聖書における歴史と科学的な歴史を融合させようとした17世紀のトマス・バーネット(『聖書地球論』)、20世紀のヴェリコフスキーの話は面白かった。ドーキンスだったら、バーネットやライエルのような思想家は、ハーバート・スペンサーやテイヤール・ド・シャルダンとともに切り捨ててしまうだろう。

最近見た映画2

2008-08-16 22:19:37 | Weblog
『アリス』
チェコの巨匠ヤン・シュバンクマイエルのデビュー作。『不思議の国のアリス』を原作としており、小説内の台詞をそのまま用いているのだが、映画の織り成す世界観は不気味でシュールレアリスティックなものであり、一般的なアリス物語とはかけ離れている。個人的には同監督の『ファウスト』よりも良かった。

『リトル・ミス・サンシャイン』
自殺未遂者にニーチェ・オタク、エロ爺さんに個人啓蒙に励む夫、そしてミスコンに出たがる9歳の娘……。一筋縄にいかない家族模様を綴ったヒューマン・ドラマ。話自体は単純だが、個々の登場人物たちが魅力的で楽しい。

最近見た映画

2008-08-12 22:58:57 | Weblog
『天使にラブソングを』
犯罪者から逃れるために、シスターの中に入り込んだ黒人の歌手を主人公としたミュージカル。カトリックの聖歌がソウル調にアレンジされており、聞いていてとても楽しい。良質なミュージカルだ。現代のカトリックはこうあるべきだなあと思ったりした。

『トゥルーマン・ショー』
ピーター・ウィアー監督、ジム・キャリー主演の映画。生まれたときより自分の人生を全世界に放映されていたトゥルーマン(Truman)の物語。コメディというかtragecomedyというか、独特の世界が展開されていく。TV局の視聴率至上主義が持つ危なさを巧みに描き出している。

金森修『科学的思考の考古学』(人文書院)

2008-08-11 15:04:02 | Weblog
科学哲学を専攻する著者が、バシュラール・カンギレム・フーコーの認識論的科学史とアルチュセールの認識論的障害に影響を受けながら、かつての「科学」に関する言説を分析したものである。第1部が化学の思想史で第2部が医学の思想史。
第1部第3章「質との対話の想起のために―錬金術の哲学に向けて」
16~18世紀の錬金術師たちの思想について迫る論考。ここで著者は錬金術を「物活論」(著者はこれを化学史における重要な認識論的障害として挙げる)というキータームで論じあげる。人間が生きているように、物質も原子も生きているはずだ、という「水からの伝言」のような科学観は近現代になっても蔓延っていた。錬金術を支える科学観とは「全ての動物が人間を目指すように、全ての物質は金を目指すものである」という存在の大いなる連鎖に基づいたアナロジーである。「原子に色や味がある」という考えがかつて存在したということは初めて知った。
第2部第1章「医学的一元論者の肖像―医師ブルセの栄光と凋落」
19世紀の医学者ブルセが当時の知識人に与えた影響について、バルザックの『あら皮』を切り口に考察していく。医師ブルセは全ての病気を正常な状態から外れた「胃腸炎」の一種として捉え、ロンブローゾ的な骨相学を正式な学問として認めた。彼にとって病気とは正常な状態からの逸脱であり、病気の種類はその逸脱の仕方による一元的なものだったのである。この章では、現代ではあまり省みられることのないブルセ医学が当時いかに大きな影響力を持っていたか、叙述されている。
第5章「仮想世界の遺伝学―ゾラの遺伝的世界」
メンデルを始めとした遺伝学者たちの学績が、ゾラのルゴール・マッコール業書にいかに影響を与えたか。そして日本の自然主義の文学者たちが遺伝学を輸入し忘れたことについて。

サマーソニックの感想

2008-08-10 23:56:39 | Weblog
サマーソニック・東京の2日目に行ってきた。右は独断と偏見で付けた点数。
Vampire Weekend 6
USインディーのバンド。ギターヴォーカル、キーボード、リズム隊という変わった4人編成。曲自体はユニークで面白いものが多かった。キーボードの使い方が中期ビートルズのようで興味深い。"A-Punk"(http://jp.youtube.com/watch?v=_XC2mqcMMGQ)とか""Oxford Comma"好き。ただ、ギターが弱いためか、いまいちライブだと盛り上がりに欠ける気も。
The Hoosiers 8
素晴らしい演奏だった。特に最後の"Cops and Robbers"、Billy Joelのカヴァーである"We Didn't Start the Fire"、"Goodbye Mr.A"の三曲が素晴らしかった。"We Didn't~"に関しては完全に原曲を越えていると思う。今後、更にメジャーになるのでは。"Run Rabbit Run"(http://jp.youtube.com/watch?v=nZGNI7q-0QI&feature=related)は美しかった。ヴォーカルの声がきれい。
The Kooks 7
前半部分だけ見た。1曲目から有名曲"Always Where I Need to Be"で驚いた。3曲目で"Ooh La""She Moves In Her Own Way"(http://jp.youtube.com/watch?v=ecc9pcjJTpk&feature=related)が美しかった。ライブで聞くとThe Libertinesに似ているような気がする。
Super Furry Animals 8
"Slow Life"でスタート。"Rings Around the World""Run-Away""Golden Retriever"
など古今の代表曲を演奏してくれた。名曲"Juxtaposed with U"はアレンジを大幅に変えての演奏。このアレンジはちょっと苦手だった。"The Man Don't Give A Fuck"はやはり圧巻で、この曲が出ると会場が盛り上がった。今回の面子の中では一番楽しめたと思う。
The Spiritualized 9
CDで聞いてもいまいちピンと来なかったのだが、演奏が凄まじく良い。まさにシューゲーザーの音楽を90年代に引継いで演奏したバンドだったのだなと実感する。MCもほとんどなく、ひたすら下を向いたままメンバーは演奏を続けていた。最後にギターでアンプを殴って帰って行った。"Come Together"(http://jp.youtube.com/watch?v=MuxE8hMd_Gc)が最高。
The Jesus and Mary Chain 7
"Upside Down"をやらなかった……。意外と1stや2ndの曲は少なめでちょっと残念。それでも"Head on"や"Happy When It Rains"、"Between Planets"、"Darklands"が流れたときには感動したけれども。最後の曲は"Reverence"だった。

リチャード・P・ファインマン『ファインマンさんベストエッセイ』(岩波書店)

2008-08-04 19:45:04 | Weblog
1918年生まれの物理学者、リチャード・P・ファインマンのエッセイを数編収める。科学は詩を阻害するものではないと説いたドーキンスの先駆的なエッセイから、無神論者としての立場から科学と宗教の共存の可能性を説いたエッセイまで、楽しく読むことができる本である。
ファインマンは1965年、シュウィンガーや朝永振一郎とともにノーベル物理学賞を受賞した。しかし、エッセイや講演の中では、ノーベル賞なんてたいしたものではないさ、という態度を貫いている。物理学を研究することによって得る喜びこそが重要であり、後は自分の論文が専門分野で少し引用されればいい。世俗的な名誉などはくだらない。そのようなファインマンの態度は、おそらく研究者の中で多くの共感を呼んだだろう。