Organic Life Circle

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種の品種改良 F1ってなに?

2006年02月19日 | 農 業


<雑種優性F1>

種をまけば、親と同質の植物が育つ種を、固定品種とかエアルーム heirloom、またはオーブン・ボリネーテッド open polinated と呼びますが、生物は、動物でも植物でも、近親(同質)交配をすると、遺伝的欠陥が現れて弱くなります。

反対に、異質の交配をすると、優れた形質のみが現れて強くなります。これを雑種優性 heterosis の法則と呼びます。

この雑種優性は、第一代(F1)には、皆、均質に現れますが、そのF1を親とした第二代(F2)には、さまざまな形質のものが現れてしまいます。

そこで、F1のみの種子を作り、販売するようになってきました。このFは、ラテン語の息子・娘を表す filius の頭文字です。野菜でも、ナス、トマトなどの果菜を始め、多くの品種がF1によって作られています。

これは、F1が両親に比べて根張りが良く、病気に強く、収量が倍増するといった優れた性質を持つことが多いためです。

例えば、トマトのF1種子の作り方を説明しましょう。母親トマトの翌日咲くつぼみを一つ残らずピンセットでめくって、全ての雄しべを取り除き、雌しべだけを残します。午後になると花が閉じてしまうので、翌日の午前中に、咲いた母親トマトの花の雌しべの柱頭に、父親トマトの花の雄しべの花粉をつけていきます。

研究用や実験用には、そこで母親トマトの花に袋をかけて、これ以上花粉がかからないようにしますが、商業的には、袋をかけずに、周りに父親トマト以外のトマトを作っていない所(山奥や離島)で行います。

この細かい仕事を、花の咲いている間、毎日きちんと、手早く正確に最後までやり続けなければなりません。もし、誰かが雑な仕事をして、一つでもやり残しがあったりすると、F1の種子に劣勢なものが混じってしまいます。これを交配ミスといい、F1種子としては失格となります。

交配する人のことを「交配手」と呼び、山奥や離島の娘さんたちが訓練を受けて、この仕事を行っていました。この娘さんたちはチームワークが良く、視力も良く、真面目で正確で辛抱強く、交配手として理想的でした。


<F1育種は日本の伝統>

F1による新品種の育成は、日本で分かっているだけでも、江戸時代から行なわれてきました。オーストリアの僧メンデルがメンデルの法則を発見したのが1865年ですので、それ以前からF1種子を実用化していたのです。

日本でトマトのF1種子が作られたのは1930年代です。この頃、日本の山奥や離島ではこれといった産業もなく、交通の便も悪く、現金収入も乏しい中で、一代交配をやって良い種を採り、種は軽いからそれを日本中、さらには世界中に出していこうとしたのでした。

今では、日本の種苗会社は世界中に育種の農場を持ち、あちこちでF1の種子を作り、世界中の種苗会社に売っています。北米の種苗会社のカタログにも、日本の会社の種がたくさん入っていますが、その多くは名前が変わったり説明がなかったりで、分かりにくくなっています。


<遺伝子操作による新品種>

最近、これらの自然的な交配による品種改良だけでなく、細胞融合、放射線照射、遺伝子技術 genetic engineering などで人工的に遺伝子を操作して新たな品種を作り出すことが流行しています。

現在、遺伝子技術で作り出された作物で一般に出回り始めたものには、虫を殺すバクテリアの毒 BT toxin を作り出す遺伝子を持ったジャガイモやトウモロコシ、除草剤を分解する土壌バクテリアの遺伝子を持った大豆や菜種 canola があります。

ジャガイモはフライドポテトやポテトチップスなどに加工され、トウモロコシはコーンスターチやコーン油、大豆や菜種は主に油用に利用され、なかなか分かりにくくなっています。

BC州のオーガニック認定基準では、これら人工的に遺伝子を操作した種は、使用できないことになっています。

(海波農園 菅波 任)


<メンデルの法則>

aとbという別種の親を掛け合わせると……

abという混合種の第一代
F1が生まれる。

第二代F2では、aa、ab、bbと性質の異なった種が混ざりあう。

したがって、F1から得られた種をまくと、さまざまな形質が現れて、実用・商業的には使えません。

しかし、この中から好きなものを選んで残し、また種を採取を繰り返す(F3、F4……)と、段々に好みの形質を持ったものができるようになります。これを品種の固定化と呼びます。


オーガニック・ライフ・サークル会報
1999年3月号(No.17)掲載

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