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遺伝子工学 genetic engineering が人類を滅ぼすなどというと、大げさなとお思いになると思いますが、いまからその不安の理由を説明したいと思います。ある意味では、核兵器と同じぐらい深刻な問題と思われます。
<ディフェンシン defensin とは>
ディフェンシンとは、アミノ酸が15から40つながったペプチド peptide で、バクテリアやカビ、ウイルスなどの微生物を不活性にする免疫物質です。抗菌ペプチド、抗菌タンパク質とも呼ばれます。これは、人間だけでなく、高等動物、高等植物などにある自然治癒力の大本となる物質です。
たとえば、エイズにかかっても、発病しない人がいます。この人を調べると、エイズウイルスを不活性にする抗菌ペプチドを分泌していることがわかりました。同じように、院内感染で問題になる緑膿菌でも、入院患者など免疫力の弱っている人が重い症状になり、健康な人には影響がありません。このように人によって感染の程度が違うことを「日和見(ひよりみ)感染」と呼びます。
この日和見感染こそ、免疫反応の根源をなす抗菌ペプチドの分泌が、人によって違っていることによるものです。もしこれらの抗菌ペプチドに対して、ウイルスやバクテリアやカビなどの菌が抵抗力を持ってしまうと、病原微生物に対して起こる免疫反応による防御の第一線が崩れてしまいます。これを防ぐため、この抗菌ペプチドは、常に分泌されるのではなく、いざというときにのみ分泌されるようになっています。これは、植物(作物)についても同様で、カビや菌やウイルスやバクテリアに強い抵抗性品種は、さまざまなディフェンシンを分泌できることが多いのです。植物も、いつもディフェンシンを分泌するのではなく、菌に冒されたとき初めて分泌し、終わればすぐに消えるようになっています。
<ステロイド薬とディフェンシン>
喘息のときに、それを抑えるのにステロイド薬が処方されます。この効果のメカニズムにはディフェンシンが関係します。ステロイド薬を飲んだり塗ったりすると、人体の免疫防御のレセプター(受感器)が増えます。そこが各種の物質(菌体成分など)で刺激されると、大量のディフェンシンが気管支から分泌され、肺炎や気管支炎の菌を抑えます。
アレルギー反応は、免疫反応のレセプターがなんらかの物質で刺激されて、大量のディフェンシンが分泌され、皮膚が赤く膨れあがり、かゆくなるものです。この反応を抑えるのに抗ステロイド剤が処方されます。これは即効性がありますが、たびたび使うとだんだん効かなくなってきます。
<ディフェンシンと遺伝子工学>
今、このディフェンシンなどの抗菌ペプチドが、各界の注目を浴び、感染予防薬や化粧品、果ては靴下などにも利用されつつあります。これらの抗菌ペプチドの乱用は、耐性菌の出現を促し、環境中のアレルゲン(アレルギー反応を起こす物質)になるなどの問題があります。
遺伝子工学では、他の植物の抗菌ペプチドや人工的に作った抗菌ペプチドを分泌させる遺伝子を作物に組み入れ、病気に強い作物を作る実験が、日本やアメリカで始まりました。
ところが、人間の行う遺伝子操作では、このディフェンシンを分泌させることはできても止めることができず、常にディフェンシンを分泌しつづけてしまうのです。これがために、ウイルスやバクテリア、カビなどが、ディフェンシンに抵抗力をつけてしまう可能性が高いのです。
多くの病原性の微生物が、ディフェンシンに抵抗力を持つようになると、人間のみならず、多くの高等動物や高等植物が、現在はディフェンシンによって抑えられている多くの病気に容易に冒されるようになり、絶滅の危機に直面すると予想されています。
<日本の現状>
日本では昨年から、新潟県上越市の北陸研究センターで、カラシナ(実は小松菜であったらしい)のディフェンシンを分泌する遺伝子を組み込んだ遺伝子組替えイネが野外実験され始めました。ここは有名なコシヒカリの産地で、この組替えイネの遺伝子が、イネの花粉に乗って、他のイネやイネ科の雑草に広がる危険性があり、現地の有機稲作農民が野外実験の差し止めを求めて、裁判を起こしました。
裁判長は、しばしばあることですが、科学に弱く、十分にこの危険性を理解せず、2006年も第二回目の実験が強行されてしまいました。来年こそ、この危険な実験を差し止める、強力で幅広い運動が繰り広げられる必要があります。
(海波農園 菅波 任)
<参 考>
「禁断の科学裁判」ine-saiban.com
「安田節子.com」yasudasetsuko.com