Organic Life Circle

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不安な遺伝子工学

2006年02月19日 | 農 業


<遺伝子工学と原子力の類似性>

1960年代、「エネルギー危機」が叫ばれ、石油がなくなるかもしれない、だから原子力が必要だという宣伝にのって、優秀な学生はこぞって「原子力工学」を専攻し、時代の花形のように扱われました。

現在は「食糧危機」「環境汚染」が叫ばれ、食料増産や環境浄化のために、バイオテクノロジー、特に遺伝子工学 Genetic Engineering=GE が必要だと宣伝され、優秀な学生はこぞってバイオテクノロジーを専攻しています。

原子力工学は、自然界にない有害な物質を作り出し、放射性廃棄物が環境中に散らばる危険性があります。遺伝子工学は、自然界にない生物(ミュータント)を作り出し、それが環境に散らばる危険性があります。そして両者とも、散らばった物や生物を回収することがほとんど不可能です。

原子力が作り出した自然界にはない物質を、自然界のものに混ぜてしまうことで処理しているのと同じように、遺伝子工学も、作り出した自然界にない生物(作物)を自然のものと混ぜてわからなくし、自然のものと同等だと主張します。

さらにもうひとつは、政府が肩入れしていることです。原子力は、国家予算を大規模にかけた1960年代の国家的プロジェクトであり、遺伝子工学は、国家予算を大規模にかけた2000年代の国家的プロジェクトです。

そして両者とも、簡単に強力な兵器に転用可能です。「強力な」とは、実際に使わなくても、その技術を持つだけで相手に脅威を与え、交渉を有利に進める立場を確保できるという意味です。


<ソ連を崩壊させたチェルノブイリ原発事故>

旧ソ連では、原子力こそ国家事業であり、社会主義の推進力であるとして、国力をかけて原子力を推し進め、その本質的な危険性を軽視していました。放射性物質が漏れ出たチェルノブイリ原発の事故は、旧ソ連の穀倉地帯ウクライナで発生し、土壌を放射能で汚染してしまいました。

この結果、病人の増加、食料生産の減少などが国力を低下させ、ソ連の崩壊、そして社会主義体制の崩壊へとつながりました。社会主義国家群が一斉に崩壊したため、人類を滅亡させる危険性のあった世界規模の核戦争の危険性が去ったのは、不幸中の幸いでありました。


<バイオハザードは人類を崩壊させる?>

バイオハザードとは、病原性の微生物ウィルスが自然界に漏れ出て、災害をもたらすことを意味します。バイオテクノロジーの焦点は、遺伝子組み換えにより新しい生物を作り出すことに向けられています。

これは、神のみに許されていたことを、より唯物論的に言えば、これまでの数十億年の地球の生物の進化の歴史の中で存在が認められなかった遺伝子の組み合わせを、人間が行うことを意味します。

「瓜のつるにナスビはならぬ」という日本のことわざがありますが、この今まで不可能だった交配を、無理にやってしまおうというわけです。ギリシャ神話にキメラという怪獣が出てきます。

頭がライオン、胴が山羊、尾が蛇からなる動物です。こんな生物さえ人間が作り出そうというのです。この人間が作り出したキメラが、人間を襲って滅ぼさないとは限りません。

どんな抗生物質でも効かない病原性細菌MRSAが出現したり、O-157のように今まで何百年も人類と共存して何でもなかった腸内微生物が、突如として猛毒物質を作り出したり、免疫細胞を破壊してしまうエイズが流行し始めたのは、このバイオハザードが人類を崩壊させかねないという兆候ではないでしょうか。


<遺伝子組み換え食品の危険性>

GMO(Genetically Modified Organisms=遺伝子が人工的に組み換えられた生物・作物)の危険性について列記してみましょう。

(1)組み込まれた遺伝子が自然界の生物に移行し(遺伝子汚染)、病原性を持ち、感染力の強い生物ができて広がる

(2)GMOを含む食品を食べた場合、殺虫毒素などの蛋白質が含まれるため、アレルギー反応が出やすくなる

微生物バチルス・チューリンゲンシス Bacillus Turingiensis(BT)の殺虫毒素は、1901年に日本人科学者が、蚤の突然死を研究していて発見しました。BT は、成育環境が悪くなると胞子を出し、蛋白質の結晶を作って自らを守ります。

それがアルカリ性の昆虫の消化官に入ると、酵素により結晶が溶かされ、BT毒素(BT toxin)を作り出し、昆虫、特に蝶や蛾類を殺します。

落葉樹を枯らすジプシーモスを一掃するため、1999年にはビクトリア周辺、2000年にはバンクーバー近郊のバーナビー湖周辺で、生きているBT菌が飛行機から散布されました。

作物を食べる害虫である芋虫、青虫、蛾類の幼虫を殺すため、BT毒素を作り出す遺伝子を、トウモロコシやジャガイモ、綿種子、フラックスシード、菜種、大豆などの作物に組み入れた品種が市販されています。

殺虫剤を撒く必要がなくなるので、飼料や加工用の大規模栽培に、この遺伝子組み換え品種が使用されることが多くなってきました。

この遺伝子が組み込まれた作物は、葉だけでなく飛散する花粉などあらゆる部分でBT毒素を作り出すので、食用とする部分にも当然BT毒素が含まれます。

BT毒素は、アルカリ性の環境で毒素を発揮するので、人間でも、胃酸の分泌の少ない人や、胃を切除した人の体内に害をおよばすことがあると考えられています。


<抗生物資がきかなくなる!>

(3)抗生物質に耐性のある細菌・生物・作物・人間が増える

遺伝子組み換え技術では、組み入れたい遺伝子の運び屋(ベクター)として、抗生物質耐性遺伝子を持つプラスミドを用います。プラスミドとは、細胞の中にある環状の小さな遺伝子(DNA)の断片です。これに目的の遺伝子を付けて細胞の中に入れ、遺伝子の組み換えを行います。

仕組みとしては、まずBT菌の細胞から、BT毒素を生産する遺伝子を含む染色体の断片を、制限酵素を使用して切り出します。次に、大腸菌(E-coli)から抗生物質耐性のプラスミドを取り出して、同じ制限酵素で切り込みを入れ、そこにBT菌の染色体の断片をはめ込みます。

そして、それをジャガイモの細胞核に入れます。入れる方法にはいくつかありますが、いずれもどの部分に組み込まれるかまではコントロールできません。

そこで、大量培養する際に、抗生物質を溶かして加えておくと、組み換えが上手くいったものだけが生き残り、増殖することができます。これを「抗生物質をマーカーとして使う」と言います。

したがって、遺伝子組み換えの生物は、目的の遺伝子の他に、抗生物質に耐性のある遺伝子も同時に持っています。

GMOを含む食品を調理しないで食べると、抗生物質に耐性のある遺伝子もそのまま取り込むことになります。

特に、家畜の餌は調理しないで与えられるので、腸内にいる大腸菌や病原菌、ウィルスなどの微生物が、抗生物質に耐性のある遺伝子を獲得する可能性があります。それが腸から血液中に入り、抗生物質耐性遺伝子が肉や卵に移行する可能性も、少なからずあります。

GMOを含む食品や餌の氾濫は、抗生物質が効かない微生物や動物・人間を増やすことにつながります。


<突然変異をひき起こす遺伝子>

(4)プロモーターによって活性化された遺伝子が、目的以外の毒性物質を作ってしまう

蛋白質は、遺伝子からいくつかの段階を経て作られます。プロモーターとは、蛋白質の製造開始を促す遺伝子上の部位を指します。遺伝子組み換えで使用されるプロモーターには通常、カリフラワーモザイクウィルスが選ばれますが、これは人間の肝炎ウィルスによく似ていて、同様の働きをするといわれています。

このプロモーター遺伝子は強力で、細胞の中の今まで眠っていた遺伝子、たとえばガンを促進する遺伝子まで起こしてしまう可能性があります。

いずれにせよ、異物の遺伝子が入った動植物や細菌は、非常に不安定で突然変異を起こしやすく、突如として有害物質を作り出す可能性も増えてきます。

1989年のアメリカで起きた昭和電工・遺伝子組み換えトリプトファン事件では、1500人以上が障害を起こし、38人の死者を出しました。

これは、健康食品として売られていた必須アミノ酸の一種トリプトファンを作る微生物に、生産力をあげるため枯草菌の遺伝子を入れたところ、予期せぬ有害物質が発生、製品に混入したものです。

また、1998年8月、遺伝子組み換えジャガイモを与えられた実験用ネズミが、含まれていた目的以外の毒性物質によって10日間で免疫低下、腫瘍を起こしたというイギリスのバスタイ博士の実験が報告され、チャールズ皇太子も含めた激しいGMO反対運動のきっかけとなりました。


<ラベル表示の義務化は絶対に必要>

普通の食品に混ぜて分からなくして消費させてしまおうといのが、GMOを作って売っている側の目的です。遺伝子組み換え技術に反対するには、GMOを含む食品を買わない・食べない、GMOを餌として与えている畜産物を買わない・食べないなどが最も有効な手段です。

そのためには、どうしても、ラベル表示の義務化が必要です。ヨーロッパ諸国や日本では、GMOを含む製品のラベル表示を義務化しました。しかし、アメリカとカナダでは、残念なことに法制化されていません。

日本の表示方法は、組み換え遺伝子や生成された蛋白質(たとえばBT毒素)の検出が確実なものについて、GMO原料が5%未満なら「非GMO」、それ以上なら「GMO含有」と表示するというものです。

日本の表示方法によると、豆腐や味噌、納豆などの大豆加工品、トウモロコシ粉、油類(大豆油、コーン油、菜種油、綿実油)、ポップコーン、コーンフレーク、ポテトフレークなどでは表示されないことになります。


<認証済みオーガニックはGMOフリー>

認証済みオーガニック Certified Organic では、遺伝子操作された種、GMOを含む肥料、飼料の使用は完全に禁止されています。

一般に鶏や豚、牛などの飼料には、GMOのコーンや大豆、ジャガイモが大量に使用されていますが、認証済みオーガニックでは、配合飼料やペレット飼料でさえ、中身や結合物質 Binding Material がはっきりしないために使用が禁止されています。

餌も認証済みオーガニックのものを与えない限り、卵や肉製品もオーガニック認証が得られません。

きちんとしたラベル表示の義務化が進まない現在、オーガニック認定は、GMOを含まない、GMOを餌として与えていない唯一確実な保証になっています。

(海波農園 菅波 任)


オーガニック・ライフ・サークル会報
2000年9月号(No.33)
2000年10月・11月号(No.34)掲載

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