2002年は、IFOAM（国際有機農業運動）の世界大会がカナダのビクトリアで開かれますが、その幕開けの1月早々に、サスカチュワンの有機農家の団体であるSOD（ Saskatchewan Organic Directorate ）が、遺伝子組み替えの種子を開発・販売しているモンサント社などの多国籍企業を相手に、集団訴訟を起こしました。今回は、その背景を探ってみたいと思います。
＜ヨーロッパでの事件＞
2000年5月、ヨーロッパ各国でカノーラ油 canola oil の原料として育てられているナタネの畑から、ヨーロッパ連合（EU）が承認してない遺伝子組み換え（GMO）の品種が見つかりました。EU各国は、カナダから遺伝子を組み換えていない（非ＧＭＯ）ナタネの種子を大量に購入していました。
調査の結果、このカナダ産ナタネの種子に、モンサント社の開発した除草剤耐性の遺伝子組み換えナタネが１～2％混入しているのが発見されました。スウェーデン政府は、いち早く、これら栽培されたナタネの全量廃棄処分を決定、フランスもそれに続きました。
同年7月になって、カナダ側の原因究明がなされました。厳重な管理をしていたカナダの非GMOナタネ採種場の数キロ先に、モンサント社の除草剤耐性ナタネを栽培している所があり、そこからの花粉が、蜂などの昆虫に媒介されて、採種場のナタネの種子を汚染していることがわかりました。
この種子を輸出したカナダの会社は、2001年以降、採種場を遺伝子組み換え品種の栽培が禁止されているニュージーランドに移転したそうです。
＜有機農業に使えないGMO＞
油かす遺伝子を組み換えられたナタネの油（カノーラ油）には、組み換えられた遺伝子によって作られた物質の影響は残らないと思われますが、有機質肥料となる油の絞りかす、いわゆる油かすには、 特に低温絞りの場合、それらの物質が残留することになるでしょう。当然のことながら、オーガニックの認定基準から判断して、ＧＭＯの油かすは有機農業に使えません。
＜大規模なサスカチュワンの有機農家＞
サスカチュワンには約1万の認定有機農家があり、約100万エーカー（40万ヘクタール）が有機認定されているといわれます。
SODの代表をしているアーノルド・テイラーさんのところは、総面積3000エーカー（1200ヘクタール）の有機認証 Certified Organic を受けた農場です。その内の1800エーカーで小麦などの穀類、ナタネやフラックスなどのオイルシード、豆類を作り、800エーカーには緑肥 green manure となるクローバーとレンティル lentil を育てて、プラウで鋤込みます。また、150エーカーは休耕して、家畜の放牧をします。
しかし、このたびナタネの遺伝子汚染が明らかになったため、ナタネを栽培するとオーガニックとして売れないだけでなく、有機認証を取り消されることにもなりかねません。
有機農業の重要な技術の１つに、輪作 crop rotation があります。多様な緑肥を用いた輪作によって、農薬や除草剤、化学肥料を使わずに、雑草や害虫を防ぎ、しかも土壌の肥沃度を高めることが出来ます。大規模栽培の農家でナタネが問題になるのは、ナタネを単にカノーラ油用としてではなく、緑肥として輪作に組み入れているところが多いからなのです。
＜遺伝子組み換え栽培の禁止を！＞
遺伝子組み換えナタネの栽培が行われている地域から数キロ内では、その花粉によって非遺伝子組み換えのナタネが遺伝子汚染されることがわかりました。したがってサスカチュワンのように、ナタネを大規模に栽培している農家が多いところでは、ＧＭＯフリーとしてナタネを売ることも、有機の認定を得ることも難しくなります。
花粉が風で交配するコーンでは、すでに飼料用コーンの遺伝子汚染が明らかになっています。今カナダではあちこちで秘密裏に、ＧＭＯ小麦の試験栽培が行われているといいます。小麦はコーン同様に風で花粉が飛び交配するので、穀類を栽培している大規模有機認定農家は、近くでＧＭＯ小麦が栽培されているというだけで、健康問題への意識が高いＥＵや日本などの輸出先を失うことになります。
ナタネ、コーンに続き小麦まで売れなくなると、サスカチュワンの大規模有機農家だけでなく、カナダの経済にとっても深刻な問題になると思われます。カナダもニュージーランドのように、ＧＭＯ品種の栽培禁止までもっていかないと、今後貿易の輸出相手を次々に失っていくことになりかねません。
（ビクトリア・海波農園 菅波 任）
＊ＳＯＤの訴訟支援先
S. O. D. Organic Agriculture Protection Fund Box 1,
Lisieux, SK, S0H 2R0, Canada
http://www.saskorganic.com/
オーガニック・ライフ・サークル会報
2002年２・３月号（No.44）掲載
