資本上積み、収益の柱見えず
国際的に業務を行っている巨大金融機関の健全性を高めるための新たな財務体質の規制案がまとまった。(越前谷知子、関根晃次郎)
従来のバーゼル3と呼ばれる規制より厳しい資本の上積みを課すのが特徴だ。日本の3大金融グループも対象となった模様で、財務体質の一段の強化に向けて収益力を高める必要がある。
教訓
規制案は、主要20か国・地域(G20)の金融当局で作る金融安定化理事会(FSB)が発表した。2008年のリーマン・ショックで欧米の巨大金融機関が経営不振に陥ったのを教訓に、世界的な金融危機の再発を防止するための処方箋となる。規制案は11月の仏カンヌでのG20首脳会議で承認される予定だ。規制対象は欧米や日本など28行だが、具体的な金融機関名は公表されていない。
もともとの資本規制は、中核的自己資本(コアティア1)が、貸し出しなどの資産に占める比率を2013年~19年にかけて3・5%から7%まで高める内容だった。今回まとまった規制案は、巨大金融機関を、資産規模、国際的な業務の内容、デリバティブなど複雑な取引の規模などの基準を設け、国際的な金融システムに与える影響度に応じて、4グループに分けた。そのうえで、影響度の大きさに応じて2・5~1%の資本の上積みを求める。
自己資本の積み増しを求めることで、金融取引で生じた損失を自力で穴埋めする体力を強める狙いがある。さらに、複雑な金融技術を使ったリスクが高い取引に歯止めをかける効果も期待している。基準を下回った銀行は資本増強を求められ、達成するまで配当の支払いが制限される。
上乗せ幅
世界の有力な金融機関では、ゴールドマン・サックス(米)、JPモルガン・チェース、欧州ではドイツ銀行(独)やHSBC(英)などが含まれているとみられる。資産規模で邦銀より小さい欧米銀でも、国際的な業務を幅広く展開しているゴールドマンなどは2・5%の上乗せを求められる可能性がある。
シティグループ証券の試算によると現在の三菱UFJフィナンシャル・グループのコアティア1比率は7・5%、三井住友フィナンシャルグループは7・1%、みずほフィナンシャルグループは5%だ。新規制案に対応するため、19年までに三井住友とみずほが8%、米モルガン・スタンレーに約22%出資している三菱UFJは、より高い8・5%までの上積みが求められるとの見方もある。
課題
3メガとも収益力を高め、自力で「13年に8%達成」(三菱UFJ)、「8%程度を14年に達成」(三井住友)、「増資ではなく、利益を積み上げて13年に8%台半ばを達成」(みずほ)するとしている。
ただ、3メガは国内の資金需要が伸び悩むなかで、国債の売買益が収益を下支えしているのが実態だ。銀行窓販での金融商品の販売も伸び悩んでおり、将来的な収益の柱ははっきりと見えない。さらに、持ち株会社傘下のみずほコーポレート銀行とみずほ銀行の統合を目指しているみずほは、システム投資などに巨額の費用がかかる。
規制は毎年の経営指標をもとに更新されるため、収益力を高めるために国際業務を拡大すれば資本の上乗せを求められる可能性もある。「規制をクリアしても、利益の積み上げで欧米金融機関に大差をつけられる恐れがある」(JPモルガン証券の笹島勝人氏)との指摘もあり、3メガの経営は厳しい環境にさらされることになる。
中核的自己資本(コアティア1) 銀行の自己資本のうち普通株と、利益剰余金の積み上げによる内部留保を足したもの。配当が高く利益が外部に流出しやすい優先株などに比べ資本の質が高いため、国際的な銀行の資本規制で重視される。貸出金や投資など資産(リスクアセット)に対するコアティア1の比率が多いほど、金融取引で生じた損失を穴埋めできる財務面の体力が強いことを示す。
(2011年7月21日
読売新聞)
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