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2022年5月の課題本『イワン・デニーソヴィチの一日』

2022-06-01 14:50:04 | ・例会レポ

『イワン・デニーソヴィチの一日』A・ソルジェニーツィン

5月28日 参加人数9人+講師
 
ソ連時代の収容所での1日を描いたこの作品は1962年に発表された、ソルジェニーツィンのデビュー作。1970年にノーベル文学賞を受賞しています。作者はその後『収容所群島』『ガン病棟』『煉獄の中で』などの長編を海外で発表していますが、国家反逆罪で国外追放となり、1991年のソ連崩壊ののち20年ぶりに帰国し、ロシアの政権を評価しつつ2008年に亡くなりました。
この作品は発表後小笠原豊樹、木村浩、江川卓氏によって翻訳されています。推薦者がネットの古本屋さんで買った新潮文庫(木村訳)は平成23年で62刷。読まれてますね~。
 
さて、例会で共通して聞かれた感想は、収容所の話ということで暗くて陰惨なものを想像していたのだけれど、予想に反して明るく元気が出るような話だったということ。主人公のシューホフ(イワン・デニーソヴィチ)の厳しい環境の中でも、目の前の状況に全力を尽くす姿勢が明るい読後感につながっていると思われるという話が多く出ました。
 
この点について講師は
「食べる、働くという営みは人間の原点だから、そこを克明に書いていくことで言葉で現実を乗り越えようとしていて、楽しそう、明るいと読者に思わせることは作者が仕掛けていること」とおっしゃっていました。作者の仕掛けは成功していますね。
 
小説としての評価は半々くらい。単調で読みきれなかった人もいましたが、最後まで読むとおもしろかったという人も。
・芸術作品かと言われると疑問
・収容されている人は偽名を使ってるのか?
・収容所仲間がイキイキと描かれている。ロシア人は我慢強いと思った
・食べ物とタバコは大事なんだね。収容所より現代のグラック企業で働く方が過酷かも
・当時のソ連でこういう作品が出たことが評価できる
・極限状態でも些細な喜びを見つけ、一日を乗り越える「強さ」が印象的
・何があっても人は生きていけると思うと清々しい読後感だった。でも厳しい寒さは読むだけで死にそう
そのほか、ノーベル賞の受賞には、東西対立の時代を背景にアンチソ連体制というところで政治的な意図もあったのではないかという話も出ました。
 
講師からは
「『一日』を描くという方法がすごい! ラストの3行がすごい!歴史的側面を描くことを捨てているところがすごい! また、途中で登場人物たちに芸術論争をさせているのも巧みなところ。芸術とは社会を新鮮にするものであり、批判的なものが存在する社会でないとダメだという作者の主張を巧妙に織り込んでいる。比べてみると、時代を感じさせるものがない今日の日本文学の底の浅さを感じる。ロシア文学をもう一度ひもといてみようね」という話があり、
「読みやすくて、けっこう面白かった」の向こう側が大事なのよね、読む方にも深さが求められるなあとあらためて思いました。
 
最後に、お連れ合いがウクライナに駐在したことがあり、何度かウクライナを訪れたというKさんのお話を聞きたいです~。次回は二次会にぜひ!

 

講師による補習授業
日本の読者向けに作者が「わが文学を語る」というタイトルのインタビュー記事があります。
その中で、日本や日本民族、日本文化に対して語っています。
イワンを理解するのに役立ちそうな二つのことを紹介します。

第一は、日本文化に対する何ら特別な勉強をしているわけではないが、山鹿素行の哲学はぬぐいがたい印象をもたらしたということです。
それ以上語っていないため、具体的なことはふめいです。
講師もそれほど詳しくなく、忠臣蔵とのかかわりで勉強した程度です。
察するに「山鹿語録」の「士道篇」に触発されたものと思われる。
この中の農耕について述べた哲学が琴線に触れたものと思われます。

第二は、映画「裸の島」が強い印象を残したこと。
「わたしは、常に容易ならぬ自然条件の中で発揮される、日本民衆の並外れた勤勉さと才能とを深く尊敬しています」

「裸の島」を観た人は、この感想が的を得たものだと理解できるし、イワンの一日を彷彿とさせる内容であったこともわかると思います。
映画のラストで疲れ切った妻が、作物を荒らす場面が出てきます。ふだんはうるさい夫もそんな妻を目視しています。
この直後夫婦は再び黙々と農作業をします。夫婦にはそれしかないからです。新藤兼人の資質をいかんなく発揮した傑作です。イワンの明るさの意味が身に染みてよくわかります。

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