出席者9人+講師の小ぢんまりとした例会でした。
高校時代に教科書で読んだという声を、とてもよく聞く中島敦の処女作(←今はNG表現?)ですが、調べたところ『山月記』は1942年に発表されて1951年に初の教科書掲載がなされたそう。
以来『羅生門』や『こころ』を抜いて過去最多の教科書掲載回数を誇り、現在も教科書に使われているとのこと。全国民が読んでるといっても過言ではない小説なんですねー。
さて、物語は主人公の李徴が思い通りにならぬ人生に抗い、それが己を虎の姿に変え、葛藤する様子が克明に描かれるものです。
これについては、作家自身がなかなか世間に認められぬ憤りと焦りととらえられるという意見のほか、知性が失われゆく『アルジャーノンに花束を』の主人公、頑張っても報われない現代のポスドク事情、はたまた認知症の進行を思い起こすものでもあり、老いて自分の来し方を振り返るとき「何も成し遂げてこなかった」という焦燥にも重なる、などなど多様な解釈がなされました。いつの時代においても普遍的なテーマといえるのかもしれません。
しかしテーマの重さだけではなく、漢語をベースにした独特の文体のリズムの良さも、多くの参加者が指摘され、音読でいっそうよく理解できるとのご意見もありました。また、虎になるというのはどこかユーモラス。中島敦は早逝しましたが、若いころから豪放磊落な生き方をしていたようで、そうした一面もあったのではないかとのご指摘もありました。他の短編には違う側面がうかがえるものがあるようですので、興味を持たれた方はぜひ。
<講師評>
戦時下において、まったくそれに触れずに自己の内面を見つめて小説を書くという作家の姿勢がすごい。まずそこが大きなポイント。この作品が高校生の教科書に使われる背景には、多感な時期にどんな解釈ができるか、その多様性を探ることが狙いにあるのだろう。
中島に限らず近代文学の作者は古典に造詣が深い。漢学を教養として身につけており、この作品も中国文学をてこに、自分のテーマをぶつけて書かれたものである。願わくはもっと長く生きて『西遊記』をベースにした作品を書いてほしかった。
日本文学の原点を知るうえで古典を学ぶことは重要である。特に面白いのは『古事記』。皆さんもぜひ『古事記』を読むように!
とのことなので、皆さん
『古事記』を読みましょう!
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