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11月の課題本 金子光晴『どくろ杯』

2017-10-29 18:35:40 | ・例会レポ

金子光晴『どくろ杯』
中公文庫 改版・2004年

唇でふれる唇ほどやわらかなものはない―その瞬間、二人の絶望的な放浪が始まった。詩集『こがね虫』で詩壇にはなばなしく登場した詩人は、その輝きを残して日本を脱出、夫人森三千代とともに上海に渡る。欲望と貧困、青春と詩を奔放に描く自伝。(Amazon内容紹介より)

=例会レポ=

出席者は少なかったです。やっぱり万人向けの書ではないな、と。
それから、つかみで沢木耕太郎の「深夜特急」を出しましたが、きっぱり言いますがアレは詐欺です(自己申告)。前に読んだときは本書と続編の「ねむれ巴里」「西ひがし」を一気に読んだので、旅のハナシという印象が強かったんだけど、今回読み直したら本書の半分強は旅立つ前のハナシでぜんぜん「深夜特急」ではなかった…。それと「マレー蘭印紀行」(三部作とは違い時を置かずに執筆された)は未読なので例会案内でお薦めしていたのは別の方です。

さて、恐れていたみなさんの感想ですが、思いのほか「壁に投げつける」ほどの拒否反応がなく推薦者を安堵させてくださいました。つまり、駄目だった人ははなから来なかった?事前情報では段落が長く読みづらいということを耳にしていたのですが、文章文体に好感を持たれた方が多く見受けられました。他人事ながら詩人の面目躍如として同慶の至りであります。

もちろん語り手の行状・生き方への好悪は人それぞれなのですが、けっこう妻・三千代へのシンパシーが女性参加者の中では高かったように思います。やはり、あの行動力・決断力は魅力なのだと思います。それは、たぶん時代に左右されない個人の資質なのでしょう。

ドクター恒例の医学話としてインキンタムシと水虫の治療に関する医療機関サイドの見地が披露され、さらにデング熱への過度な恐怖心を持たぬようにとのアドバイスがありました。

講師からは小説ではないので構成やテーマから批評を紡ぐことは難しい、楽屋落ち的な文壇裏話と語り手の観察眼を楽しむのが良いのではないか?ざっくり言うとこんなことだったような。また、金子光晴に関しては一貫して反戦・反軍国主義を貫きそれは詩作にも反映され(詩集「鮫」ほか)、読んでみてほしいとのこと。さらに本書の大阪編で出てくる正岡容(芸能評論)について個人的体験を踏まえた言及がありました。

関東大震災(1922)から満州事変(1931)というのは、軍部台頭前の妙にアカルイ時代の印象があります。大正デモクラシーの残照の中、震災復興と円高で1920年代後半は猫も杓子も欧羅巴を目指しました(宮本百合子・湯浅芳子のカップル、映画監督衣笠貞之助、演劇の千田是也、岡本かの子一家をはじめあまた…)。個人的にはこうした時代背景のなか、文壇史を横断するようにもがき続ける語り手とその交友関係に興味が尽きません。

今回、小林清親の門弟だった(つまり井上安治とは兄弟弟子)金子の絵を、雑誌「太陽」の金子特集を譲っていただき、はじめて目にすることができたのは感謝感激でありました。

例会の最後の方で、タイトルとなったどくろ杯の逸話について誰も言及しなかったことが指摘されましたが、本書中、最も耽美的で小説的な題材であるにも関わらず、光晴と三千代の生の方が読者である私たちにとって遥かに強烈だったのではないでしょうか?


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