昔の望遠鏡で見ています

ミネルバのフクロウ

  ミネルバのフクロウは夕暮れに飛び立つ。ヘーゲルの言葉です。ミネルバは知性の女神、フクロウはその象徴。最初に聞いたとき、私たち天文ファンが持つ感情に近いものを言っているのかなと思いました。それは、星空のもとで、日中の俗世間から解放され、本当の自分に戻ることができ、その結果物事を深く考えることができる、というものです。後に知ったのですが、学問的には”現実が形成された後に、学問が仕上げられる”とか、”古い文化が終焉を迎えるときに、新しい文化が生まれる”と解釈されるのだそうです。

 テレビを見ていて、星と私たちとの関係を考えさせられる番組がありました。NHKの震災ドキュメンタリー「あの日の星空」です。震災後の真っ暗な夜に、星空を多くの人が仰ぎ見て、いろいろな事を思った、という紹介の後に、精神科医の岡崎伸郎氏が次のように述べています。

 人間の文明って有史以来ずっと洋の東西を問わず、ふるような星空を仰ぎながら形成されてきたに違いない。2~3千年くらいの人間の文明史のなかで、最後のほんの数十年くらいで一挙に星空を失ってしまったんだろうなと、思います。人間がいろいろ物を考えるって、日中は日の光のなかで忙しく働いたりして、寄る星空を見ながら、ああだこうだといろいろ考えるんだと思うんですよね、それで哲学や思想も出てきたし、そこまで高尚な物でなくたって、故郷を思ったり、亡き人をしのんだり家族を思ったり、時分の来し方、行く末を思ったり、日の光のなかと漆黒の闇でふるような星を眺めてという繰り返しのリズムのなかで、やってきたのではないかと思えたんですよ。人間および人間の文明がもっていた健康なリズムみたいなものが、ほんの数十年で失われた。あの日、それがパッとあらわに気付かさせてくれたような感じでね 理屈ではないということだと思う。まあきれいとか美しいとかだけでじゃなくて、理屈を超えて訴えかけてくるものがあった。

  これを聞いて、私たち天文ファンの思いに通じるものがあると感じました。やはり、星を見ることは、人間にとって大切なことのようです。

 

 画像は、福島県田村市星の村天文台の大震災で壊れた旧65cm望遠鏡です。

 

 

 

 

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