ギタリスト岡本博文 生徒諸君!

プロギタリストのリアルな経験談、本音を語って行きたいと思います。

引きこもりだったレッスン生がプロになった話

2020-03-11 08:32:45 | Weblog

もう15年以上前の話ですけど。

引きこもりの子が、レッスンを受けに来ることになった。

確か15歳からの3年間以上引きこもり、大学にいく歳になり、本人も自分の人生に危機を感じ、好きな音楽をやりたい、とポップス系の音楽学校の門を叩いた。そこでは友達も出来るか、と思ったけど、授業が終わるとみんな帰ってしまう。授業は、一日中引きこもって押尾コータローのコピーを弾いていたので、なかなかの腕前で、いきなり上級クラス。思ったようについて行けず、休みがちになったそうです。

それで、その音楽学校に行くための家庭教師として、僕がギターを教えることになった。人に危害を加える性格でなく、むしろ人一番優しく繊細で、真面目でいい生徒さんだった。普通に冗談も言いながら会話もする。しかし、最初は苦労した。一度レッスンをすると熱を出して休む。お母さんが電話してきて「怒られたから、行けない」と言う。「アドバイスをしただけで怒ってはないですよ」と伝えると次は来る。普通にレッスンをする。

そう言う事が何回か繰り返し、また休んだ次のある日、ご両親が一緒で家に来られた。「うちの子はプロになれるんでしょうか?」と言う。僕は、「技術的には、とってもよく弾けているし、人一番真面目に練習するので、プロの腕前になると思います。けど、人前で弾けなければ、プロになれないですよね。」とお伝えした。

レッスンに再び彼が来た時、話をした。

「毎日、先が見えなくてしんどいんだと思う。どうやったら音楽家になれるか道は定かでないし、音楽を志す人の20代は、出口の見えないトンネルをずっと歩いているような気持ちがずっとある。君もしんどいんだと思う。正直、僕も今でもしんどい。でも、しんどいのは、僕らだけでは無いねん。美容室も、八百屋さんも、肉屋さんも、レストランのシェフも小さいお店を続けている人とか、自営業って、しんどいねん。でも、しんどいしんどいと言ってしんどい顔をしていたら、明日が見えて来ないから、笑って「いらっしゃいませ」っていうしか無いやんか。だから、みんなアホな事言って、笑って生きているだけで、悩みが無い訳では無いねん。
もし戦争になって、『私は平和主義だから、鉄砲は打たない』と言っていても、黙っていれば殺されるなら、鉄砲を手にとって、必死で打たなあかん時もある。だから、頑張ろう。一緒に頑張ろう」

そう言う話だった。彼がレッスンを休むことはなくなり、初めて発表会にも出演した。お母さんが一緒でないとライブにすら見に来れなかった子が、人前でギターを弾いた。素晴らしい演奏だった。ご両親は泣いていた。発表会に出演した何人かが、すぐに彼の周りに集まり、連絡先を交換したようです。後から、4人ぐらいの仲間が出来、時々飲みに行ったり、一緒に練習したりするようになったんだそうです。彼らには、今でも心から感謝しています。

教えることもなくなり、彼のレッスンが終わり、女性ボーカルとのデュオで彼がしばしば伴奏をしている、と小耳に挟むようになった。彼は、指で弾くのが得意だった。ソロで伴奏できるので、重宝がられたようです。そのうち、方々で良い噂を聞くようになり、ちょっとした売れっ子になった。

ある日、突然、綺麗な女性と家を訪ねて来て「結婚するんです」と言う。人と話をする事さえ出来なかった子が結婚できるまでになったか、と驚き、心から嬉しかった。

何年か前、初めて彼の演奏を聞きに行った時、演奏の素晴らしさはもちろん、女性ボーカリストの無茶なフリにスマートに品良く答えていたのが心に残った。これからも、頑張って欲しいです。
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PS:
思い当たる節がある人も、そっとしておいてあげてくださいね。実名推測禁止。(笑)

ミュージシャンも含めて、あらゆる自営業は、今日出会う何人かの人に支えられている、と言う実感があります。だから「出会いに感謝。全ての人にありがとう」と言う言葉は、真面目にやっていれば、自然にたどり着く言葉だと思います。ここしばらくで自営業のことをフリーランスというのか、と思った。






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