ニュージーランド・ラグビー:オフ・ザ・ピッチ

ラグビー王国からのそのまんまレポート。子どもラグビーからオールブラックスまで、見たこと感じたことをお送りしています。

チーフ・オブ・チーフス

2006-01-13 | プレーヤー
チーフ(chief)という英語を聞いたら何を思い浮かべますか?
職場で主任や係長クラスの人をそう呼んでいる人や、CEOのCとして最高経営責任者、社長以上に全権を握る経営者を思い浮かべる人もいるかもしれません。

「チーフっていったら、長官とか酋長じゃない?」
という意見もありそうですね。ニュージーランドでチーフといえば、
圧倒的にCEOのCよりも酋長です(笑)

しかし、個人的には酋長と言われると、どうもアメリカン・インディアンやアフリカなどどこか遠い国の族長のイメージで、実生活につながりません。そこで、いちいち日本語訳にせず、チーフのまま話を進めることにします。

チーフは、NZでは尊敬と敬意をもって口にされる言葉です。
マオリやパシフィック・アイランダーに国家意識が芽生えたのは、「西洋人がそれを持ち込んだから」と言っても過言ではないくらい、彼らの社会は長い間、部族(tribe― トライブ。これもNZでは非常によく耳にします)を中心に営まれてきました。

スーパー14に「ワイカト・チーフス」がありますが、これは
「ワイカト最高経営責任者たち」
ではなく、
「ワイカト酋長たち」です。(←ワイカトのロゴマーク)

マオリ人口の多いロトルアをフランチャイズに持つチームで、実際、ポリネシアン度の高いチームです。
部族の長、それがチーフなのです。
他国ならキングともなるべき、絶大な権限を持つ、最高位の人。
一部上場企業のCEOどころじゃありません(笑)

オールブラックスのアシスタント・コーチ、ウェイン・スミスは、タナ・ウマガがオールブラックスからの引退を発表した時、選手たちが泣いていたと語っていました。

「泣いたのは誰だろ?」
まっさきに思い浮かんだのが、
ジェリー・コリンズ
次に、
マア・ノヌ
そして、グッと下唇を噛んで涙をこらえる(想像ですが・・・)
ロドニー・ソオイアロ

私が勝手に「ウェリントン三人衆」と呼んでいる面々です。彼らの共通点はサモア系であること。
マアはタナ同様、NZ生まれ。他2人はサモア生まれです。いずれもアイデンティティーに強い誇りをもっていることでしょう。彼らがオールブラックスというエリート集団の中にあって、タナを「チーフ・オブ・チーフス」として崇めていたことは、想像に難くありません。

彼らのタナを見る視線には、
「いつかはタナのように」
という憧れや努力目標などとは異質の、絶対的な尊敬と忠誠が滲んでいる気がしてなりません。時代が時代なら、
「この人のためなら死ねる」
となっていたのでは?

記憶に新しいところで、オールブラックスがグランドスラムを達成したスコットランド戦の直後、黒ジャージのマアとスーツ姿のジェリーがタナを担いでピッチを練り歩くという出来事がありました。
快挙達成で活きのいい若手がキャプテンを担いで喜んでる――
誰にでもそう見える構図だったでしょうが、個人的にはあの3人の組み合わせには、もっと深い意義があったと思っています。

いくら若手でも、あの場でピリ・ウィープ(マオリ系)やシオネ・ラウアキ(トンガ系)がタナを担ぐことはなかったでしょう。サモア系チーフが導いた勝利を部族で祝しているのを、他の部族の人たちは温かく見守り、部族に属する者同士としての敬意を表していたのではないかと思っています。いずれにしても感動的でした。

と、今日もまた、タナの話になってしまいました´。`A
あー、タナが止まらない!!


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