河童のたわごと
ふと、思い、そしてなんだかなーとつぶやくコーナです。その第1回目は、
【オスプレイはなぜ墜落したのか】
職業柄、技術で未来を切り開く!!、という気概を持って日々精進しておりますが、何事も画期的なことにはリスクがつきものです。しかしその中でも、生物、化学の世界では画期的なことであっても、それに比例したリスクがあるとは限りません。けれども機械工学を主体とした分野では、そうそう画期9的なことは物理法則に乗っ取って、地上の材料元素を使って構築する限り、限界はすぐそこに在って、中々打ち破れません。
今回のオスプレイは、1895年リリエンタールが固定翼機で滑空し、(日本人なら1891)04月29日、二宮忠八さんが、固定翼模型を飛行させています)、レオナルドダビンチでも有名な回転翼機は、ホバリング出来る強力な内燃機関が登場したのち、ようやく1907年に飛翔しています。
中間にオートジャイロなどもありますが、人類史上、人間が空を飛べる技術としてはこの固定翼機か、回転翼機の2種類しかありません。007に出てくるロケット噴射の飛翔体も無いわけではありませんが、地球上を空気を利用して、実用化されている技術としてはやはりこの2大発明に依っているわけです。
このことからわかるように、ヘリコプターの技術というものは、機械工学的に非常にチャレンジングな製品です。それでもここまで普及しているのは、そのリスクを冒しても得られる利便性が大きいからにほかなりません。 事実、先の大津波災害で地上の輸送路が断たれた被災地に、縦横無尽の活躍をした映像は記憶に新しいでしょう。
そこで、アメリカが近代稀にみる苦悩と決断を繰り返し、実用化にこぎつけた「オスプレイ」なわけですから、当然それに見合うメリットが有るからだと断言できます。まず、この装備でなければ不可能な作戦が立てれます。それは大量の装備、兵力を短期間にまさに必要な場所に降ろすことが出来ます。ヘリコプターでは届かない距離、速度、輸送量を、、です。
http://www.youtube.com/watch?v=IVoksf_2y5k&feature=related
ゆえに機械工学的に当初は誰もが、空想としてはありえても、1955年当時実用化はSFの世界と懐疑的だった開発に、やがて1985年本格的な開発が始まります。だれもが工学的にリスクが高いことを熟知しており、そしてその通りに開発初期の試験において、事故を起こします。それはこの手の開発にはつきもので、飛行機でもヘリコプターでも墜落してます。オスプレイの最初の墜落は制御システムの問題だったようです。この飛行体はヘリコプタの状態から、固定翼機の状態を行き来する飛行ロジックを持っており、左右にあるチルトロータの推力バランスがロール方向(横転方向)に必要なため、もはや人力ではなくコンピュータによって制御されています。
2度目の事故は、古典的な機械工学的設計のミスと思われ、油圧配管の漏れから火災を引き起こしていますが、その過程がまたこの機体独特のものではありましたが、基本的なミスでしょう。そして、ここまでは当初危惧した「大馬力、繊細、精密制御、という機械工学的な難物」故のリスクでした。しかしこれらは品質向上の努力と工夫で改良され、信頼性を向上させることで克服しました。
そしてここからが本題です。
2000年4月になって、量産型による実践を想定した訓練が始まります。そこで3度目の墜落事故を起こしてしまいました。この事故こそは、今に至るオスプレイの事故の根本的問題だと私は睨んでいます。回転翼機は高速で降下すると、飛行機がきりもみとなって墜落する固有現象=翼の失速減少が起きます。飛行機の場合、水平旋回すると内側の翼は外側の翼よりも遅い大気速度になります。風向き、飛行速度、急な旋回によって、片方の翼が失速することで飛行機はきりもみ状態に引きこまれます。失速した翼は舵が効きませんから、姿勢を立て直すのは飛行機の個体がもつ3次元上での安定姿勢にいかに収斂するかに掛ってきます。これを応援するような操舵がきりもみからの回復機動として、訓練されます。
回転翼機はロータ自体があたかも水平旋回する翼のようなものですから、通常は回転によるロータの両面の気流差による揚力で飛んでいますが、あまり速い降下速度を起こすとロータの回転による大気速度を降下する速度が上回ることになり、ロータが失速してしまい揚力を失います。これをVRS(vortex ring state、ボルテックスリングステート、あるいはセットリングウィズパワー、渦輪状態)と言います。
航空力学的に、オスプレイの場合の危険速度は定義されていましたが、緊急回避動作によって、それよりも2.5倍もの速度で降下したことが原因とされました。
http://www.youtube.com/watch?v=RXk-uaxCETc
そして、同年12月に4回目の事故を起こしますが、2度目の事故同様にナセル内の油圧配管の油漏れによる事故でしたが、対策を立てた制御によって壊れた回路を遮断しバックアップ回路にうまく切り替わることが出来ました。ところがマニュアル通りに警報のリセットが出来なかった。実際には回復しているのに、パイロットは回復していないと感じてしまった。ちょうどロータをチルトさせ一番難しい飛行状態での警告にパイロットもあわてたのでしょう、中華航空機のエアバス事故にちょっと似た、パイロットと自動制御のコンフリクト状態にも似た感じがします。
2002年5月4度目の事故原因を克服し、再び飛行が開始されます。ここまで来るともうアメリカも引き返せない泥沼状態と言えなくもなく、あるいは本当の実用化目前という気持ちだったのかもしれません。
2009年火災事故(これは燃料漏れという工学的か、作業ミスか)を経て、さらに2010年夜間の砂漠での着陸で、墜落してますが巻き上げた砂塵での空間識失調だと言われています。
普天間への配備が騒がしくなった2012年4月、オスプレイは5度目の墜落をします。パイロットの未熟に起因と漏れ聞こえますが、まだ真相はわかりません。
そして6月、6度目の墜落です。こちらも今のところ機械的な故障ではないようですが、政治的配慮なのか、パイロットに起因する事故との扱いのようです。
これまで、40名弱の尊い命が失われながらアメリカ期待の夢の飛行機「オスプレイ」は配備を広げています。私は、困難な問題も人知を尽くしてものにする人類の力を信じていますので、このオスプレイもなんとか有用な装備になってくれないかと応援する気持ちです。一方で、原発と同じ匂いもするのです。
つまり実戦配備が進み、オスプレイならではの作戦行動をするようになると、「オスプレイならではの飛行理論に起因する誰も知らないリスクが有るのではないか」ということです。実はオスプレイの飛行事故の教訓から、さまざまな自動制御ロジックがてんこ盛りとなっており、編隊飛行での僚機の影響、地形の影響、機動の影響それを自動制御とパイロットの判断でコンフリクトしない優先関係の構築、加えて何かの機器故障時のバックアップ制御とパイロット判断のコンフリクト。これらの膨大な組み合わせをバグつぶし出来るのかという不安。
私がここで呟きたかったことは、機械工学的な故障ではなく、飛行理論と空力特性、それがまだ全容解明できていない飛行機だということです。加えてフライ・バイ・ワイヤ万能の、いや逆説的にいえば、コンピュータの介在無しには飛ばすことの出来ない複雑な飛行機。その複雑な自動姿勢制御に絡みつく森羅万象の自然物理現象。
オスプレイは、恐らくパイロットが直感的に操縦できない飛行機なのだと思います。4輪ドリフト状態で、ABSやらTCSやら、電制デフやらてんこ盛りの自動制御自動車の運転は、ドライバの命令として、舵角とアクセルかブレーキのデジタルデータを送るのみとなっています。それは時々刻々変化する命令を処理できるのでしょうか?。 人間は自分のアクションと異なる動きが出た場合、逆の命令で修復しようとします。自動制御の車はドライバの入力値が直ぐに否定され、次々と新しい情報が送られる時、動作遅れによってハンチングを起こしてしまいます。つまり大きな物体の制御は与えた指令を実行完了するまでに時間が必要です。ところがそれが動き出そうとした時に逆の動きを入力されると動きは始めた動作を止めて、逆の動作になります。ところがドライバーは一旦与えた情報で車が反応しないので、さらにまた最初の命令を与えます。すると機械は再び逆の動きを強いられ、つまりは反応出来なくなるのです。
http://www.youtube.com/watch?v=XOK7nQb2Svo
車の場合は相当タイムラグは無い制御が出来ます。F1で使えているぐらいですから。でもオスプレイはどうでしょう。特にロール方向の敏感さはすさまじいです。ひっくり返る映像を見ればわかるとおり、ロータの揚力差でロールしますから、固定翼機のエルロンロールとは動きが違います。これを地表近くのホバリング状態で横風にあおられて着陸できるのでしょうか、少なくとも前進速度を持った斜め着陸ではある程度安定してるようですが、完全なヘリコプター状態の安定は、明らかに自動制御が成り立たせているものです。
当初は機械工学的なデリケートさが問題だから、いずれ解決すると思ってオスプレイの開発から色々と調べて見ましたが、調べるほどにこれはまだ実用化されるべきではないと思うようになりました。
夢のオスプレイは、この航空大量輸送時代にあっても、未だ海にダイブして魚を捕るミサゴのようには理解していないと思われます。あの華麗なホバリングとダイビングの名手で有っても、再び離陸出来ないトラブルで死んでしまうのですから。