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 バイクが教えてくれたことなどを勝手に気ままにつづるブログです。
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その9 これぞハンドリングマシン 

2013年06月13日 19時31分07秒 | 5.思い出のバイク

その9 これぞハンドリングマシン '88年 GSX-R750 (GA77オーストラリア仕様)


丁度、88年にGSX-R750がフルモデルチェンジしたタイミングで限定解除したので、買いたい大型バイクを物色した時、やはり従来の延長ではなく新境地を切り開くものがほしいな、ということで前回書いた「ネモケン」の一言を確かめるべく、初めての買うことにした4ストのスズキ車。

Suzukigsxr75088
(写真は国内仕様のJ型)

まず最初に直面したのが、メーカーの違いによる基本特性の違いです。自己流ですけどリアステア乗り(先の見えない公道では、やはりこれが基本でしょう)で、なるべくバンクを浅くして、トラクションを掛けて小回りする事を基本形として来た私の乗り方では、フロントが若干アンダーめで、その分、フロントのグリップ感が絶えず伝わるヤマハ流がうまくはまって、路面状況が悪い雨の林道なんかでも、あまり緊張せず乗れる安心ハンドリングでした。それが初めてのスズキ車(と言っても88Rはそのスズキをしても新境地だった)の切れ込む旋回性です。ですがそれはそう感じただけで、実はこれこそが私のラインディングを転換させた出会いだったのです。
Gsxr750
愛車の’88フルパワー車


まず初の大型車、あこがれのナナハンです。しかもフルパワー仕様(ディチューン版なんて買えないし)ということで逆輸入車を買いました。そのせいもあってか、やたらトルクが薄い。「こんなもん?」と言う感じでアクセルをロックするまで開けてチョイと待つ感じが有るぐらいパワー感はありませんでした。けれどそんな事は余り気にならず、とにかくこれまでの狙ったラインよりもタイヤ1本分いや、それよりもさらにタイトに回ろうとするので、「こりゃ、フロントからスリップダウンするやろ?」という気持ちが働いて、ついついハンドルを起こそうと力が入る始末。「う~ん?、なんかシンクロしない」という心象が強くて、なんとかこの意味するところを理解せねば、、、と峠通いになりました。

Gsxr750_92may
(古典的なリア乗りですが、峠ではこれが安心)

GSX-R750の2代目は、地味なダブルクレードルで技術的な革新部分は何もありません。当時ヤマハは5バルブのFZ750、ホンダはトルクモリモリのV4エンジン。ヨシムラが頑張っていたとは言え地味なバイクです。けれどスズキが作る地味なバイクはその後要注意なんですね、実は。

ハヤブサとか、GSX-R1000とか、のちにすげーと言われるバイクは、出た当時の技術的背景をみると特段新しい物は無い。つまり熟成されている、品質が読める性能のパーツばかりを集めて作るんです。なぜに?。
出来上がったハンドリングというか、実現したい「走り」をモノにするために。
そうなんです、新しい物を技術的に実現したい場合は、そこにリソースも、品質確認も取られて時間がかかる。ヘタすると走りのほうは実験車みたいなものに成ったりする。 けれどスズキのバイクづくりは堅実で後にその事が「スズ菌」にかかる私の体質に合ってしまったのか、スズキのバイクは安心して買えるなと、ファンになりました。おそらく一般の人が抱くブランドイメージとは私の受け取り方は違うんだろなぁ。派手な目を引くハード部分ではなく、作り込まれて実現した乗り味、ソフト面こそが真髄なんですね。

Gsxr750by_2

さて、その地味なRですが当時RC誌が絶賛していた「ブレーキングを残したままコーナリングに入れる初めての大型市販車」との触れ込みを信じて、「・・であればなおの事このフロントの感触は解明する必要がある」とあれこれライディングスタイルを試して見ました。そして有る時パッ、とわかった瞬間が有りました。それはわざとおもいっ切りリアにケツをずらして、万一フロントが滑っても立て直せるぐらいリア荷重で旋回した時です。自分に染み付いている旋回ラインよりはるか小さくセルフステアで入って行く。そのフロントに逆らわずにアクセルワークのみで切れ込みをコントロールしようとした時です。どうなったのか?。


何も起こらず、ヤマハ的なフロントのアンダーステア的フリクションを一切感じず、かといって切れ込み勝手のフリクションも感じない、まさに最も手ごたえの無いリアタイヤが描く旋回軌跡のライン上をぴたりとフロントがトレースしている事に気が付いたんですね。これはまさに目からうろこでした。それまで漠然と感じていたリアステアの理論と体感がぴったりシンクロした感触が有りました。すべての質量がリアタイヤ1本の上に全てが乗って旋回する感触が有りました。


タイヤのグリップと言うのは大体10%程度のスリップ率時点が最もグリップが強い状態になる。従ってヤマハハンドリングは、旋回中既にフロントには若干のスリップを起こさせつつ曲がっているのでグリップ感に途切れが無く、反応も即起きる。けれど実はリアの旋回能力を僅かに殺しながら回っているのではないか?。Rの場合はとにかくリアのトラクションで起きるキャンバースラストの旋回力が絶対で、これに逆らわずフロントが即ついて行く。フロントは車体のロール軸をリアタイヤの旋回接線にぴったり合わせて曲がる感じなのでその滑空感というか、キレと言うか、まさに狙ったラインに車体が空気を切り裂いて飛び込む・・・大げさ(笑)てな感じが分かり、そこからはもう、全くの人馬一体で、これだけの重量車が全く250ccのようにヒラヒラ操れる。


加速力が弱くパワー感が無いのは残念だったけれど、その分アクセルワークに気を使う必要も無かったかな。これほど楽な峠バイクには未だ出会っていない気がします。その前輪のグリップ感の不要さが分かると(リアが車体の旋回全てを支配している感覚)、実はフロントは車重を支えているアイドル軸に過ぎず、無くてもいいんじゃない?と思わせるぐらい不安感の無い旋回が出来るのです。

Gsxr750by5

(SUZU菌に感染させた?仲間と行った乗鞍にて '91年10月)


現代のSSは絶対速度重視になったのか、フロントにもサイドスラストを生ませて旋回する感じで(実はこれはNS500でスペンサーが切り開いた乗り方だと思うけれど、それを今では普通のライダーの技量程度でも使えるバイク作りが出来るようになり、一般ライダーもそのラインを具現化出来るようになったと思う)


実に速い速度のまま、初期旋回に突っ込んで回るから、減速域がコーナの前半どころか、1/2ぐらいまで引きづり、パーシャル状態はほとんど無く、スイッチャブルにアクセルオンの脱出加速に繋がる。これはこれでスリリングで爽快だけど、公道の、林道や峠で「ほしい性能」とは思わない。旋回力が「旋回速度」への依存が大きすぎる。ライダーが独立して制御(ケツ荷重とアクセルワーク)できないと、対向車や予測に反した事態が多い公道では「高いレベルの減速突っ込旋回」でそれが起きると、フロントタイヤのグリップ余力は残っていない場合が多い。バイクのフロントが車のタイヤの使い方に近付いて、キャンバースラストではなくサイドフォースを使って走る領域に踏み込む。そうなるとタイヤはブレーキンググリップとサイドフォースの合計しか、グリップは生まないのであてにしていたサイドフォースが急速に喪失する状況に陥る事になるからだ。公道でのフロントタイヤはあくまでリアタイヤのキャンバースラストに寄り添う範囲で使うべきだと思う。


ハヤブサが意外とせせこましい林道や峠でSSより速かったりするのは、このスズキ流ハンドリングを生かしているからだと思う。ハヤブサはR750とは程遠いハンドルのキレだったけど、この「リアタイヤに支配されるフロントタイヤ」というロジックは踏襲されている。なのでフロントのグリップを当てにしない乗り方が出来るので、知らない峠もそれなりのペースで走れてしまう。ただ、気を付けなければならないのは、ヒラヒラ乗れていてもいざというブレーキング時には「こんなに重かったんだ」と慣性の大きさにひやりとさせられる。


実は、'88のR750は慣れたところでフロントの突き出しを5mmだったか、10mm増やしている。これはRC誌の推奨だったのだが、まさにそれが上の「完全ニュートラルスリアステア」を作りだしていた。ノーマルは一般ライダーにわかりやすいように若干フロントに「遅れとアンダー」を残す意図があったと思う。後の限定車89年のRKは最初からそうなっていた。レーサのアライメントがそのまま市販で使えたのは「耐久レーサ」が下地になっていたからだろう。
Gsxr750_2

(このRを買った時に知り合ったのが今の奥さんで、そう言う意味でも思い出のバイクw)


そんなわけで、2代目R750は読み切れた部品の集合体として開発された車両であり、だからこそ実現したかったのは「ハンドリング」というソフト面の商品価値だったと思う。限定発売されたクロスミッションを積んだシングルシートのレーサレプリカの限定車RK型は、今でも手に入るなら持っていたいバイクの筆頭である。他社と比べてカタログスペックで訴える要素が薄く、その割に販売価格だけは同等に高価というこれまた残念な売り方だったけれど、わかっている人はわかっているわけで、中古車市場でトンと見ない(泣)。「ワインディングの麓に住んで峠限定の公道」という条件なら、私はこれがベストスポーツマシンだろうと思っている(ふつうに通勤もこなすならノーマルのほうがお奨めだけど。)