「ドナルド・トランプか、ジョー・バイデンか」。さあ、どちらだ、といまさら述べても虚しいだけ。来週になれば結果は分かり、予想だけの記事は読まれなくなる。しかも、AかBかの二者択一、丁半ばくちだ。
 
 何頭も出走する競馬なら外しても笑ってすまされるが、米大統領選の予想をするとなると、そうはいかない。外せば徹底的にたたかれ、信用は失墜する。逆に当たれば、もてはやされる。
 
 で、前回の大統領選はどうだったのかと言えば、私は前者。世論調査もメディア報道でもヒラリー・クリントンの勝利が確実視されていたので、そのまま、トランプ惨敗の記事を書いて大恥をかいた。この会員制交流サイト(SNS)時代、「なにを偉そうに」「どこが専門家だ」と罵倒され、本当に傷ついた。
 
 高校時代の替え玉受験を親族に暴露され、なにかと言えば「ディール?(これで合意だな?)」と迫り、テレビで虚像を売りまくり、A4用紙の短い報告書も読めない男が、なぜ米国の大統領になってしまったのか。
 
 半世紀にわたって米国をウオッチしてきたが、心底がっかりし、この自由の国に対する敬意を失った。
 
 しかし、今回もあえて「トランプ惨敗」とする。日本のメディアや識者は、前回の苦い経験から「最後まで分かりません」と言い続けているが、私は言わない。トランプを再選させるほど米国は地に落ちていないと信じるからだ。
 
 今の米国は、まさになんでもありのアメコミ・ワールドと化している。新型コロナウイルスの感染者が世界最多となる累計800万人を超える中で分断と対立、不信がまん延している。
 
 社会を害する勢力とトランプが戦っているという陰謀論を信じる「Qアノン」、武装した民間組織「ミリシア」がトランプ側につき、過激派左翼と戦っている。彼らは白人至上主義、人種差別で何が悪いのかと騒ぎまくっている。
 
 中西部ミシガン州では10月8日、ミリシアの一団「ブーガルー・ボア」が、トランプを批判した同州知事の拉致を企て、13人が逮捕された。なにしろ、支持者から見ればトランプは政財界にはびこるディープステート(闇の政府)と日夜戦っているのだ。
米ノースカロライナ州の空港で、トランプ大統領を待つ支持者=2020年8月24日(AP=共同)
米ノースカロライナ州の空港で、トランプ大統領を待つ支持者=2020年8月24日(AP=共同)
 一方、白人警官による黒人男性暴行死事件を受け、白人警官は皆、悪徳警官やレイシスト(人種差別主義者)に仕立てあげられた。シアトルではデモ隊が警察署の周辺を占拠して「自治区」を設置したと主張し、極左運動「アンティファ(反ファシスト)」の集団が気勢を上げた。