【時事(爺)放論】岳道茶房

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早急に“本当のムダ"削減と増税に着手せよ

2010年06月20日 | 情報一般
「今の民主党では落第点。早急に“本当のムダ"削減と増税に着手せよ」
――東京大学・井堀利宏教授 核心インタビュー

 6月11日の所信表明演説のなかで「強い経済、強い財政、強い社会保障」の実現を掲げた菅首相。そのなかでも重要な課題が、「財政の再建」だ。いまや財政の状況は、菅首相自身もデフォルト(債務不履行)を警告するほど深刻な状況にある。7月11日に迫った参院選でも各党の財政再建に向けたビジョンが重大な争点になるのは間違いない。では、菅首相が唱える「強い財政」を実現するにはどのような政策が望まれるのか。東京大学・井堀利宏教授に話を聞いた。(聞き手/ダイヤモンド・オンライン 林恭子)

 財政状況が厳しいのは確かだが、追い込まれれば日本は増税や歳出削減などの手を打つだろうという信頼感がマーケットにあるようだ。確かに対応が遅く、もっと早めに取り組むべきだったとは思うが、実際に菅首相も財政再建を声高に唱えている。そのため、まだデフォルトを懸念するほどの不信感はない。

 ただ、このまま財政再建の議論だけをして行動しないままでいれば、財政は維持できないだろう。鳩山政権下ではバラマキ政策を行い、「消費税を4年間は引き上げない」方針をとってきたが、菅政権では増税など早めに手を打たなければ、相当厳しい状況になるのは確かだ。

■「事業仕分け」ではムダ削減に限界も“聖域化した巨額のムダ”に切り込むべき

――これまでの民主党による政権運営をどう評価しているか。

 やはり落第点と言わざるを得ない。事業仕分け等についてはある程度評価はしているが、「無駄を削減すれば財源は出てくる」といいながら、財政再建という意味では量的に十分な財源を確保できていない。しかも、恒常的な財源対策がないままに、子ども手当てなど政策効果の小さいものを行い、歳出が増える一方で、社会保障の改革は手付かずのままだ。来月行われる参院選もバラマキ政策でいくとすれば、評価はしづらい。

――民主党は「無駄の削減によって財源を確保する」と事業仕分けを行ってきたが、当初目標の3兆円に遠く及ばず、6800億円にとどまった。では、これ以上無駄を削減することは難しいのか。

 今の事業仕分けの手法だと難しいかもしれない。財団法人や独立行政法人など細かいところを削減しても、たいした財源にはならない。ただ、無駄なものは他にもたくさんある。事業仕分けの対象ではない他の歳出金額が大きいところをターゲットに議論すべきた。例えば、地方交付税や年金の給付水準など、これらの制度・仕組み自体を見直すべきだろう。

 そのなかでも特に見直しが必要と考えられるのが、地方公務員の人件費だ。民主党が2割削減すると言っている国家公務員の人件費が5兆円なのに対して、地方公務員は20兆円を超えている。すなわち、地方公務員を2割削減すれば、4~5兆円が捻出されることになる。地方公務員の人件費も交付税によって賄われている部分が大きいため、その額を絞り、地方自治体にプレッシャーをかけなければならない。

 こうした費用は、ある意味、聖域化している部分ではあるが、そこに切り込まなければならない段階にきているといえるだろう。

■バラマキでは政策効果は得られない“選択と集中”でメリハリを

――参院選では各党の財政再建に対する考え方が問われることになるかと思うが、有権者はどういった視点で各党のマニフェストを見ていくとよいだろうか。

 各党の主張は、財政だけでなく、社会保障や成長戦略、地域など様々な問題がパッケージ化されている。だから、全体的に判断して、財政再建を行えるのかということが1つの基準になるだろう。特に将来ある若い人からすれば、社会保障・地域振興・子育てなどに関して、目先のことばかりではなく、長期的な視点で財源の裏づけや政策効果を考えている政党に信頼を置くとよいのではないか。

――では「長期的な視点」で政策を行うには、具体的にどうすべきか。

 まず、歳出はバラマキではなく、“選択と集中”が必要だ。子ども手当てもそうだが、全国民が対象では政策効果もなく、財政的に2、3年ほどで廃止に追い込まれる可能性もあり、あまり意味がない。財政状況が厳しくても長期的に持続可能な恒常的な財源によって、効果的な政策をやろうとすると、対象を社会的弱者に絞ったメリハリあるものにしなければならないだろう。

――“選択と集中”を適切に行っていくには、誰が弱者かを特定することが重要になる。前々から議論されている納税者番号制の導入が望まれると思うが……。

 確かに国民の所得が把握しやすくなる納税者番号制は、政策上不可欠になるだろう。この制度が導入されれば、減税や手当支給の際、所得制限をかけることも可能になる。

 しかし、プライバシーの問題などが課題で、たびたび反発を受けて実現していないのが現状だ。メリットを受けるのは社会的弱者と呼ばれる人々であるのだから、きちんと情報を管理することを前提に、導入を検討し続けることが大切だろう。

■所得税と消費税の見直しが急務!増税分で借金返済をすべき

――財源については、所得税と消費税の増税、法人税の減税が焦点になっている。有権者は、歳入の改革について、どういうポイントを見ていけばよいのか?

 一番重要な課題は、現在減少している全体の税収をいかに確保できるか、だ。そのとき、なるべく国民の経済活動に対する負担が小さい形で税金を確保し、より公平で効率的な税制改革を行うことが重要となる。

 そこで、法人税率の引き下げによって、企業の活性化を実現させる一方で、国民から広く薄く徴税する消費税と、所得税の2つをいかにうまく組み合わせるかが課題になるだろう。

 現在日本は、消費税が5%で世界最低水準、平均的なサラリーマンの所得税負担額についても先進国で最低水準だ。累進税を強化して高所得者から多額の所得税を得ようとしても限界がある。所得税にしても消費税にしても、みんなで税負担を分かち合わなければ、日本の財政の維持は不可能だ。

――増税した場合、一時的でも経済活動に影響があることが懸念される。

 確かに、税金を無駄に使えば経済活動に悪影響が出るが、有効に使えばそうはならない。ただ、菅首相は増税分を社会保障の充実に充てると言っていることには疑問が残る。

 というのも、社会保障、すなわち今の高齢者に使ってしまうことは、決して無駄ではないが、それでは将来の経済活動にはつながらない。もっと重要なのは、このままでは、状況がより深刻化する将来のために、現在ある借金を返済することだ。意外と多くの人が、税金を借金の返済に使うことが“有効な使い道”だとわかっていない。借金を返すことは、将来の増税要因を消すわけだから、経済にとっても悪いことではなく、むしろ良いことだ。

 つまり、現在の高齢者を助ける政策と将来の若者・勤労世代を助ける政策のどちらが世代間で公平であって、日本経済全体の長期的な視点から見て望ましいか、判断しなければならない。

 現在の100年に1度の危機さえ乗り切れば、これから景気がV字回復するというのであれば、今手当てをすればよい。ただ、現実はそうではない。もっと冷静に20年~30年後のより深刻な状況を想定すれば、借金返済や積立金のための財源を用意するほうが重要だとおわかりだろう。

■先進国日本では難しい経済成長「強い社会保障で強い経済」は望めない?

――菅首相は、増税しても有効に使えば経済成長につながるといっているが、それは財政政策上ありえるのか?

 確かに増税が経済成長につながればよいが、それはなかなか難しい。結果としてバラマキと同じで、今の人は得をするが将来は負担だけが残ってしまうということになりがちだ。

 菅首相は「強い社会保障で強い経済」を訴えているが、先ほども述べたように介護や医療関係への歳出は、介護・医療サービスへの支出として消費されてしまうお金であるため、将来につながる強い経済をつくることができるかというと、それは難しい。若者たちへの投資ならば将来につながるが、65歳以上の人に今以上に手厚く配分することは、本人の経済状況は改善しても、日本経済の活力につながるかというと疑問が残る。また、介護に対する予算を増やせば、その需要は増え、働く人も増えるだろうが、それは他の分野から人材が動いているだけだから、日本経済全体がすごく良くなるわけではない。

 では、どういったものが将来の日本経済にとってプラスになるのか。それは、なかなかすぐに成果が目に見えてくるものではないが、人的資本に対する投資やスキルを向上させることである。様々な基礎的な研究開発や基盤整備に使うという手もあるだろう。あるいは、フィリピンなどから介護労働者を受け入れることは、日本全体の労働人口を増やし、生産増につながる。すなわち、増大する社会保障の需要に対して、外国人労働者の受け入れによって、その裾野を広げ、産業を拡大するということであれば、GDPの拡大につながるのではないか。

――経済発展を遂げてしまった日本にとって、これ以上の成長はなかなか難しいのか。

 日本は経済大国になってしまった以上、日本国内だけで新しい成長を簡単に実現させることは難しい。日本に限らず、ヨーロッパ諸国でも成長率は高くない。アメリカが高いのは、移民が多いうえ、多くの無茶な規制改革を行っているからだ。格差があって混乱しているけれども、そうした条件下であれば、ある程度発展した国でも経済成長は可能だ。だが、文化的社会的に相当摩擦がある。それらを受け入れて初めて、経済大国がさらに発展する余地があるのだ。

■消費税は10~15%程度が妥当?毎年1%ずつの上昇が現実的

――経済発展が難しいということは、安定した税収を見込める間接税の重要性が高まってくるだろう。では実際、参院選でも焦点となっている消費税の増税をすることになった場合、どのように引き上げをしていけばよいのか。

 毎年1%ずつ税率を上げていくのがよいだろう。一度に上げると、駆け込み需要とその反動が起きる可能性が高い。特に耐久消費財は駆け込み需要とその反動が大きく、民間の経済活動に悪い影響を与える。

 また、一度に上げようとすると、「景気が回復していなければダメだ」などと政治的な抵抗があり、先延ばしになったり、不十分な税率のまま終わり、結果として機能しない恐れもある。景気動向と無関係に毎年上げることが大切だ。

 税率については、毎年議論するのではなく、5年なら5年と最初から決めておいたほうがいい。そうすれば、企業も家計も様々なかたちで準備ができるだろう。

――足りない財源を消費税で賄うとすれば、何%まで上げる必要があるのか。

 それは、歳出をどれくらい抑制できるか、社会保障をどれほど効率化し、コストを削減できるかにかかっている。このままならば、消費税を25%に設定しないと維持できない(他の税率を上げず、消費税に換算した場合の税率)。

 現実的な10~15%に押さえるためには、大幅なバラマキをやめたり、社会保障や地方公務員の人件費を削減するなど、様々な歳出改革を同時にやらなければならないだろう。いずれにせよ、まだ手をつけていない無駄の削減と増税を共に行う必要があるのは間違いない。

2010年6月18日 ダイヤモンドオンライン
井堀利宏
いほり・としひろ/東京大学大学院経済学研究科教授。1952年岡山県生まれ。74年東京大学経済学部卒業。81年同大学大学院経済学研究科博士課程退学。同年ジョンズ・ホプキンス大学大学院でPh.D取得。東京大学経済学部助教授、同学部教授を経て96年より現職。著書に『「小さな政府」の落とし穴』、『誰から取り、誰に与えるか』など。
photo by Toshiaki Usami――日本は先進国のなかでも最も巨額の債務を抱え、公債残高は数年後にGDP比200%を超えるとの懸念もあるほど厳しい財政状況にある。それにも関わらず、破綻せずにいられるのはなぜなのか。


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