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【時事(爺)放論】岳道茶房

話題いろいろだがね~
気楽に立寄ってちょ~

高速無料化実験と全線無料化は別ものだ

2010年08月09日 | 情報一般
猪瀬直樹の「眼からウロコ」
高速無料化実験と全線無料化は別ものだ
無料化実験の実態は高速道路の「まだら模様解消」にある

 2011年度予算での高速道路の全線無料化は困難になった、と報じられたが、それならば民主党政権は「高速道路原則無料化」というマニフェストはやめました、と宣言しなければいけない。6月からはじまった高速無料化社会実験の実態は「新直轄のまだら模様解消」にすぎず、財政赤字を悪化させる高速全線無料化公約とは切り離して考えればよい。

■2011年度予算の一律1割カットからはずされた高速無料化

 7月27日、政府は2011年度予算の概算要求基準を決定した。予算を一律1割カットして、捻出される約1兆円を特別枠として重点配分していくものである。ただし、マニフェスト関連予算は一律1割カットの対象からはずされた。マニフェスト関連予算には、高速無料化社会実験にかかる1000億円が含まれている。

 民主党が昨年の総選挙で掲げたマニフェストでは、高速全線無料化を掲げたが予算を確保できなかったため、高速無料化社会実験という名目で、交通量の少ない路線を6月から無料化した。距離としては全体の20%だが、通行料収入としては2兆円の料金収入に対して1000億円、全体の5%にすぎない。今年6月から来年3月までの10カ月で、1000億円の予算が組まれた。2011年度にも、ひきつづき12カ月実施することになれば、単純計算で1200億円の予算が必要となる。

 高速無料化社会実験から7月28日で1カ月が経ち、各地での状況が報じられている。無料化で交通量が増え、渋滞が多発しているところもある。

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「山交バス(山形市)が運行する高速バスは3連休中、山形道で渋滞に巻き込まれ、2日続けて1時間半から2時間の遅れが出た。無料化でバス自体の通行料は節約できるが、大友茂之取締役営業部長は『定時運行が守れなければ乗客は減る』と渋い表情だ。(略)
 ほぼ県内全域が無料化された山形県で、特産のサクランボなどの運送を手がける庄内市場運送(酒田市)の上林孝佳社長は『物流にとって(無料化の)プラスはない』と言い切る。『渋滞で(到着)時間が読めなくなった』。生鮮品だけに、もし運送に遅れが出れば、会社の信用に傷が付きかねないという」(7月28日付の朝日新聞より)
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■「まだら模様」の高速道路が選ばれた無料化社会実験
 高速無料化社会実験で潤う観光地がある一方で、高速道路と並行する一般道では交通量が減少し、客足が遠のいている地域も出ている。

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「山形道・庄内空港─酒田間では、7月の3連休(17~19日)の交通量は実験前と比べて4.7倍も増加した。
 映画『おくりびと』のロケ地としても有名な同県庄内地域は『他県ナンバーの車が多くなった』(庄内観光コンベンション協会)と歓迎。物産店などの割引クーポン付きのチラシを観光客に配布するなど、無料化の恩恵を取り込もうと必死だ。
 一方、同区間と並行する国道112号沿いの施設は、交通量が減少したことで客足が低迷。地元は『ここは通過するだけ』(寒河江市観光協会)と車の素通りに頭を痛める。無料化をめぐり、同じ県内で明暗が分かれた形だ」(7月28日付の時事通信より)
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 ただし、全体としては、それほど深刻な混乱が生じているわけではない。高速無料化社会実験の対象となっている路線は、もともと交通量が少なく、「新直轄」道路とまだら模様につながっていた「枝線」がほとんどだからだ。





■無料化実験と全線無料化はまったく別もの

 新直轄道路とは、道路公団民営化に際して導入された道路建設方式である。高速道路というのは、地方にとっては国からのクリスマスプレゼントみたいなもので、有力議員をとおしてタダで天から降ってくるものだった。負担感がないために、無駄な高速道路がつくられることになった。新直轄方式では、地方が建設費の4分の1を負担して、通行料無料の高速道路を建設する。地方の自己負担分を明確にすることで、無駄な道路建設を抑制してきた。

 高速道路建設が完了せず、つながっていない路線が全国各地に残っているが、クリスマスプレゼントでそれらの高速道路を建設しつづけるわけにはいかない。どうしても必要な地方は、地元負担が発生する新直轄方式で道路を整備した。その結果、地方によっては、高速道路と新直轄道路がまだら模様につながっている。1本の道路なのに、無料の区間と有料の区間が存在していた。

 交通量の少ない道路は機会損失を生む。まだら模様になっている高速道路は、交通量も少ないから、「デッド・ウェイト・ロス(死重的損失)」が発生しやすい。高速道路を資源と考えれば、宝の持ち腐れも同然である。道路公団民営化推進委員会でも、「枝線」については通行料を格安にするなどして、デッド・ウェイト・ロスを解消するべきではないかと指摘した。

 高速無料化社会実験は、あくまでも「新直轄のまだら模様解消」というコンセプトの枠内であれば認めることができる。

 「新直轄のまだら模様解消」というコンセプトを飛びこえて、高速全線無料化につなげようとするのは、論理が飛躍している。高速全線無料化論者の山崎養世氏は、高速無料化社会実験の結果を受けて、「週刊ポスト」8月6日号で「私の理論が証明された」と発言しているが、大きな勘違いだ。もともと交通量の多い路線まで無料化してしまえば、深刻な渋滞が発生して、多大な混乱を招きかねない。

■2011年度予算の概算要求基準は前提からしておかしい

 高速無料化社会実験は、実態としては、民主党の高速全線無料化公約とはまったく違う。許容可能なコンセプトを超えて、高速全線無料化をしてしまうと逆効果になるばかりか、財政的にも破綻する。高速無料化社会実験の予算は、現行の1200億円を超えてはいけないものなのだ。財政赤字と渋滞をいたずらに増やす高速全線無料化を強行するために、高速無料化社会実験の結果が悪用されないか気をつける必要がある。

 財政赤字についてもう少しいえば、そもそも2011年度予算の概算要求基準は前提からしておかしい。国債発行額を44兆円に抑えるということだが、「ワニの口」が再び開いた2009年度以降の予算を基準としているのは、おかしい。

 日本の一般会計歳出と一般会計税収は、バブル崩壊まで同じトレンドで上昇してきたが、バブル崩壊後、税収が減少、低迷するなかで、歳出は増加をつづけてきた。その結果、「ワニの口」と呼ばれるように、歳出と税収の乖離が進んだ。小泉政権で財政再建が行われ、国債発行額は20兆円台にまで下がった。しかし、いったん閉じかけた「ワニの口」も、リーマンショック後の財政出動傾向で一気に開いてしまった。



 小渕政権以来、歳出は80兆円台前半で推移してきた。小泉内閣の5年間でいったん「ワニの口」は閉じかけたのに2009年度には100兆円を超え、2010年度も92兆円という高水準を維持した。本来であれば、80兆円台を基準としなければならないのに、民主党はリーマンショック後の歳出を前提にして、バラマキ予算を組みつづけている。一律1割カットという方針は結構だが、前提としている歳出規模が間違っている。こうした経緯を新聞やテレビが説明しないのは怠慢である。90兆円台を前提として予算を組んでよいのかどうか。それは違うのではないか。「ワニの口」が歴史的にどう推移してきたのか、菅首相は知らないのではないか。

2010年8月3日 日経BP

強欲な資本主義に「正義」はあるだろうか

2010年08月09日 | 情報一般
田原総一朗の政財界「ここだけの話」
強欲な資本主義に「正義」はあるだろうか

 今年3月期決算から国内上場企業で1億円以上の報酬を受け取った役員の名前と報酬額が開示されることになった。有価証券報告書への記載が義務づけられたためで、これにより、報酬1億円以上の役員は289人に上ることがわかった。

■1億円の報酬は「正義」か

 7月31日付の朝日新聞はオピニオン面に『1億円の「正義」の話をしよう』という特集を掲載している。1億円以上の報酬は高すぎるか、そうでもないのか。もっと言えば、いいのか悪いのかについて、3人の意見が紹介されている。これが大変興味深かった。

 かつて、日本では高額納税者公示制度があり、所得税額1000万円以上の高額納税者は長者番付として公開されていた。それが個人情報保護などの観点から2006年(2005年度分)から廃止された。

 今回、開示された役員報酬の額については、週刊誌などでは「取り過ぎだ」と批判も多い。朝日新聞の特集では、元ライブドア社長の堀江貴文氏が「この金額で驚くんですか。ぼくは、こんなもんだろうと思っていましたね」と言っている。

 また、同志社大学経済学部教授の橘木俊詔氏は、従業員の士気を保つためには、「従業員の年収と社長の報酬の格差は10~20倍程度が、日本では適正な水準ではないか」と主張していた。

■AIGの経営幹部たちの莫大なボーナス問題

 私の手元にハーバード大学教授、マイケル・サンデル氏の著書『これからの「正義」の話をしよう』(早川書房)がある。朝日新聞の特集のタイトルは、この書名を模している。サンデル教授はNHK教育で今年4月から6月まで全12回放映された「ハーバード白熱教室」で話題になった人である。

 サンデル教授は著書の中で興味深い例を挙げている。2008年9月、リーマン・ブラザースが倒産し、アメリカで金融大パニックが起こった。金融機関が破綻に追い込まれ、アメリカ政府は救済のために数社に公的資金を投入した。その一例が、AIGというアメリカ最大手の保険会社である。

 AIGの経営幹部たちは、莫大な政府資金を受けながら、巨額のボーナスを受け取った。AIGへの政府資金は1730億ドル(15兆6000億円)以上になる。ところが、AIGの危機を招いた部門の幹部に1億6500万ドル(148億5000万円)ものボーナスが支払われた。また、100万ドル(9000万円)以上のボーナスを受け取った社員は73人に上ったというのだ。

 当然のことながらメディアや政治家、そして国民から「とんでもない話だ。強欲過ぎる」と批判の声が上がった。会社を破綻に追い込んだうえ、政府の公的資金、つまり国民の税金が投入されたにもかかわらず、これほどのボーナスを受け取るとはけしからん、というものである。

■米大手企業CEOの報酬は労働者の収入の344倍

 オバマ大統領も、経営の失敗によって破綻を招いたのに、高額のボーナスを受け取ったことを厳しく批判した。

 ところが、経営陣はこう反発した。「自分たちは一生懸命がんばった。経営がまずかったわけではない。地価が暴落したことによる時代の暗転に抗する術がなかっただけだ」。そして、「儲かっているときには、自分たちはこれ以上の年棒やボーナスを受け取っていた」と。

 2007年、アメリカの大企業の最高経営責任者(CEO)は平均的な労働者の344倍もの報酬を手にした。彼らの報酬を他国と比較すると、ヨーロッパのCEOの2倍、日本の9倍であるという。

 儲かれば、労働者の300倍以上もの高額報酬を受け取ってもよいのか。儲かったのは、経営技術が優れていたからではなく、時代状況がよかったからと言えるのではないか。彼らが企業の破綻を時代状況のせいにするのなら、儲かったときも時代のおかげではないか。であれば、莫大な報酬を受け取ることの根拠は何なのか。

 アメリカの経営者たちは、1980年には労働者の42倍の報酬しかもらっていなかった。それが2007年には344倍にも膨れ上がった。それをどう考えるのか。

■強欲な資本主義が暴走したアメリカ経済

 マルクスが『資本論』を書いたとき、強欲資本家たちが労働者から露骨な搾取をしていて、資本主義は破綻すると見ていた。資本主義は間違いである。格差はどんどん広がり、結局は破綻するしかないとして、社会主義を打ち出した。

 私は単純に次のように考えていた。明治から大正にかけて日本にも強欲な経営者が多くいた。三井、安田など財閥系の経営者たちが暗殺されたのは強欲すぎると反発されたためだ。だが、経営者にもやがて一種の自律心が生まれ、強欲資本主義はなくなった。欲と自律心のバランスが取れたと思っていた。

 ソ連などの共産主義が崩壊するのを見て、やはり資本主義が正しいのだ、経済における競争は良いことである、と思った。

 マルクスは、強欲資本主義の中での競争は格差を広げる一因で、だから資本主義は破綻すると言ったが、破綻したのは資本主義ではなく共産主義だった。東西冷戦が終わった1990年以後、私はアメリカを手本として進むしかないと思っていた。

 ところが、アメリカ経済はその後、強欲資本主義によって破綻してしまった。資本主義というのは、欲望の競い合いでもあるが、そこに経営者の自律心がないと暴走をする。その自律心を、アメリカの経営者は持っていると思っていたが、結局、彼らは持っていなかった。

■改めて資本主義経済を考え直さざるを得ない

 そこで、オバマ大統領はアメリカの金融機関に対する強力な金融規制改革法案に署名し、新しい規制法を成立させた。アメリカ金融界の経営者たちは自分自身で自己コントロールすることができず、政府から強大な力で規制をかけられることでしか、再生が図れなくなったのだ。

 バランスが取れていたと思っていたアメリカの経営者たちが強欲を抑えられなかった。日本の1億円以上の報酬を受け取った経営者たちは大した問題ではないが、アメリカで自己コントロールできない強欲な経営者たち氾濫しているとなると、「第二のマルクス」が必要になるのではないか。

 いま私たちは自由主義経済、資本主義経済を考え直さざるを得ない。改めて、そういう気持ちになって、私は戸惑っている。

2010年8月5日 日経BP

幼児化する大人たち『一億総ガキ社会』

2010年08月09日 | 情報一般
『一億総ガキ社会 「成熟拒否」という病』片田珠美・著 光文社 798円

あなどれない新書たち
幼児化する大人たち『一億総ガキ社会』

 日本が一億総中流社会といわれたのは、高度経済成長期のことだった。ほとんどの人が自分は社会のなかで中流である、と自認した時代である。この言葉はいまや死語になろうとしているが、昨今の日本を、この言葉になぞらえて表現するなら、大人になれない人間たちが大量出現している社会、というのが本書のタイトルの示す意味だ。

 精神科医であり大学で教鞭をとる著者は、臨床経験や精神分析学、また昨今の日本の若者をめぐる諸分析をもとに、いつまでたっても“ガキ”のままの人間がどうしてこれほど登場したのか、そこから脱却するにはどうしたらいいのかを考察する。

 引きこもり、モンスターペアレントといった人たちに象徴される人間像を著者は、“ガキ”というのだが、彼らに共通するのは、自己愛が強く、傷つくのを恐れ、成熟を拒否するところだ。

 進学、就職に失敗したり、異性にふられたり、あるいは会社で上司にしかられたりと、自分の思ったとおりにならないことがあると、すぐに傷つき、それ以上傷つくのを恐れ自分の殻に閉じこもったり、逆にうまくいかないことを他人のせいにする。

 この背後には、乳離れできていない母子関係があるという。自分とわが子を一体化して、コントロールしたいと願ったり、子供の可能性や子供の挫折を自身のものと同一視してしまう母親は、子どもが失敗することを恐れる。そして、親子とも失敗に正面から向かい合えなくなったり、何かを断念することをうまく受け入れられないという。

 こうした成熟拒否の若者が増えていることに対して、著者は、「大人になるというのは、『なんでもできるようになること』ではなく、むしろ「何でもできるわけではないということを受け入れていく」過程だからである。幼児的な万能感をひきずり、自己愛的イメージにしがみついたまま、現実の自分と向き合うことができないのは、まさに子どものまま、ガキのまま、なのである」と診断する。

 この成熟拒否がどこからくるかというと、精神分析で用いられる「対象喪失」を受け入れられないからだという。自分にとって大切な対象を失うときに、人は嘆き悲しむと同時に、失われたという事実をしっかり認識していき、そこから抜け出す糸口をみつける。しかしそれができない。では、なぜ受け入れられないかというと、現代の日本社会では、最大の対象喪失である「死」に遭遇する機会が減ったからだと。

 直接にせよ間接にせよ、死との遭遇によって、人は様々な心理的反応を経てそれを乗り越える。そこで苦しかったり悲しかったりして、しっかりと喪失感を覚える。仕方のないことを身をもって感じる。そうしたある意味で貴重な経験がないことで、悲しみや不快感を受け入れられなくなる。

 奇しくも今、ニュースになっている100歳以上の高齢者の所在が多数不明だという事件は、その一例かもしれないが、世界有数の長寿国の一方で、確かに今の日本の社会は人の死の重みが実感として薄れている。核家族化や地域のコミュニティーがつくる人間関係の衰退がもちろん影響しているだろう。

 こうした伝統的な社会や文化の下では、規範やしきたりによって人々は縛られてきた。しかし、いま思えば、こうした規範や貧しさなど外的な制約によって、人生は思い通りいかないことを子供のころから身をもって学んできた時代があった。

 それが、豊かになって、著者の言うように、外部からの規範から解放されて自由になり、「自分らしさ」や「自己実現」を追求できるようになった一方、その代償として自己責任がのしかかってきた。失敗すれば向き合うのは自分自身という社会になった。

 打たれ弱さや、他人のせいにする傾向、こうしたものは社会の構造的な問題であり、そう簡単に処方箋をほどこせるものではないという著者の意見には同感である。ならばどうすればいいかといえば、失ったものや断念したもの、失敗したもの、そうした対象をしっかり認識することからはじめよと著者は言う。

 この点について、本書が、個人だけでなく社会や国家にもあてはまることを、高度経済成長期やバブル期を例にとって説明する点もとても示唆に富む。

2010年8月6日
NPO連想出版 新書マップ編集部 川井 龍介

1945(昭和20)年8月6日

2010年08月06日 | 情報一般
【写真で見るきょうは何の日】米軍が広島に原子爆弾投下

 1945(昭和20)年8月6日午前8時15分、米軍爆撃機が広島に原子爆弾を投下した。人類史上初めて、核兵器が使われた。

 市中心部を襲った爆発の熱線と放射線、爆風によって年末までに約14万人が死亡したとされる。米国は3日後、長崎にも原爆を投下し、太平洋戦争で日本は降伏に追い込まれた。

 広島に投下された原子爆弾「リトルボーイ」は米国内で製造され、7月末に爆撃機の拠点だったテニアン島に到着。8月5日にB-29爆撃機「エノラ・ゲイ」に搭載された。「エノラ・ゲイ」は現在、米ワシントンのダレス空港に近いスミソニアン航空宇宙博物館に展示されている。

 9日の目標は福岡県小倉市(現・北九州市)だったが、投下目標の確認に失敗し、第2目標に設定されていた長崎の上空で投下された。

2010.08.06 ZAKZAK

1944(昭和19)年8月4日

2010年08月04日 | 情報一般
【写真で見るきょうは何の日】集団疎開第1陣が群馬へ向け出発.

 1944(昭和19)年8月4日、空襲を避ける集団疎開の第1陣として、東京の国民学校初等科3年以上の児童が上野駅から群馬県に出発した。

 集団疎開は東京だけで約23万人。名古屋、大阪、神戸、北九州地域などでも実施され、全国で計40万人もの子供が親と離れて疎開生活を送った。他に親族を頼る縁故疎開もあった。

 「疎開」はもともと、軍事作戦で集団行動している兵を散らし、攻撃目標になりにくい状況を作りながらの作戦行動を示す軍事用語だった。

 集団疎開に「退避」などの言葉が用いられなかったのは、軍の退却を「転進」と表現したのと同じように、「逃げる」というイメージをなくすためだったともいわれている。

2010.08.04 ZAKZAK

日本振興銀行事件、木村剛は果たして極悪人なのか?

2010年08月03日 | 情報一般
財部誠一の「ビジネス立体思考」
日本振興銀行事件、木村剛は果たして極悪人なのか?

 日本振興銀行が揺れている。金融庁から一部業務の停止命令を受けたばかりか、事実上の創業者であり、前会長の木村剛氏、西野達也社長ほか3人の合計5人が逮捕された。商工ローン大手SFCG(旧商工ファンド)との債券売買に関連するメールを検査前に削除したことが「検査忌避」にあたるとされた。そんな異常事態のなか、同行の社外取締役を務めていたみずほ銀行の元支店長で作家の江上剛(本名は小畠晴喜)氏が社長に就任。「再建を目指す」と記者会見で語ったものの、楽観が入りこむ余地はない。

 足元の深刻事由は「債権二重譲渡問題」だ。これはSFCGが自社の貸付債権を日本振興銀行と新生信託銀行やあおぞら信託銀行などに二重譲渡。債権譲渡条件で他行に劣後するにもかかわらず、振興銀行が先んじて債権回収を実行。権利が消滅した新生信託などが振興銀行を訴えたものだ。

 7月27日、最初に出された東京地裁の判決は振興銀行の敗訴だった。450万円ほどを不当利得金として新生信託に返還せよという内容。続けて29日に同地裁であおぞら信託の勝訴が言い渡された。同種の裁判は今後も続く。返還請求が相次げば、一部業務停止命令中の振興銀行の経営そのものを揺るがしかねない。

 振興銀行に経営上いくつかの問題があったことは間違いない。だが一連の報道を通じて強い違和感を覚えることがある。それは木村剛元会長の報道のされ方だ。日本銀行に勤務していた90年代、日本の金融界で誰よりもバブル崩壊後の不良債権問題処理に力を注ぎ、小泉政権誕生後は不良債権完全処理へむけて精力を傾注した人物である。

 確かに振興銀行の社長、会長就任以降、親族が経営する企業への融資が問題になるなど、社会的批判を甘受せざるをえない軽率さはあったかもしれない。

 だが、木村氏はものごとを徹底して合理的に考える人間である。曖昧な理解、曖昧な判断を彼ほど嫌う人間を私は見たことがない。法律に精通していることは無論、現在金融庁が行っている銀行検査の検査マニュアルを作成したのも木村氏である。

 それゆえにメディアからはいっせいに木村批判が沸き起こった。

 「かつて金融庁顧問までつとめた木村が、3年で黒字化の目標達成を焦るあまり、不当な金融取引に手を染め、あろうことかその隠蔽のために取引関連のメール削除を幹部社員に指示をした」ということになっている。

 いつものことだが、この手の報道は常軌を逸した一律、一方的な報道になる。郵便料金不正事件で起訴された厚生労働省の村木厚子元局長は完全な犯罪者扱いの報道をされた。現在進行中の裁判では不正行為が村木元局長の指示だったと供述した元部下が、自白は検事の強制によるものであるとして、村木元局長の関与を全否定している。決して同じ構図として扱うことはできないが、いずれも報道があまりに一方的に過ぎると思うのだ。

 逮捕された振興銀行幹部の容疑はメール削除による銀行検査忌避である。逮捕直前、私は木村氏から直接話を聞く機会があった。「メール削除の指示など絶対にしていない」と彼は断言していたが、じつのところ、そんな言葉を待つまでもなく、木村氏と20年近い付き合いのある私には木村氏がそのようなレベルの低い指示を出すことなど想像ができない。

 いまの銀行検査では、銀行員が他人に見られたら恥ずかしい不倫メールを検査前に削除しても、その行為は「検査忌避」になる。「メール削除はご法度」なんてことは金融機関の管理職なら常識だ。サーバーを調べれば一発で発覚するお粗末きわまる隠匿行為なのだ。

 それを木村氏が会長として組織的に指示をしたという容疑で逮捕され、否認を続けている。ただし逮捕前は「木村氏は関与していない」を明言していた西野達也社長を始め、逮捕された役員たちは一転して「木村氏からの指示だった」と供述しているという。

 かつて日本を不良債権地獄から救った男はいまや、ルール無視の極悪人として報道され、そうした報道ばかりが大洪水と化している。異論も反論もない。

 確かに振興銀行の経営者として木村氏は厳しく問われるべき責任を負っている。だが事実の検証もないまま、次々と彼の人格を全否定するかのような報道が続くことに憤ると同時に、印象論だけで一方的に報道の流れが出来上がってしまう日本という国に心底、恐ろしさを感じる。

 私のもとにメディア関係者から何度か問い合わせがあった。「木村さんの人となりを教えてほしい」という内容ばかりだった。彼ら自身が報道全体の偏りに違和感を覚えていたからだ。ある全国紙の社会部記者は「調べれば調べるほど、木村さんがそこまで極悪人とは思えなくなったので、木村さんを知る方々にインタビューを申し込んでいる」とのことだった。

 もちろん私は取材に応じた。そこで驚いたことがある。他にはどのような人たちに話を聞いているのかという私の問いに対する記者氏の返事だ。

 「みんな木村さんのことを知らないといって取材お断りなんです」

 いかなる場合でも事実は多様なものだ。多種多様な報道がなければ、事実は必ず捻じ曲がる。木村剛がどれだけの犯罪を犯したのか、犯していないのか。

 今後の裁判を通じて事実が明らかになることと、その経緯が特定の意図を持たずに、客観的に報道されることを願ってやまない。

2010年7月29日 日経BP

自信喪失の菅首相、意気軒昂な小沢前幹事長

2010年08月02日 | 情報一般
花岡信昭の「我々の国家はどこに向かっているのか」
自信喪失の菅首相、意気軒昂な小沢前幹事長

■パフォーマンス頼みのドタバタぶり

 支持率低下に悩む菅政権だが、どうもこのところ、「やることなすこと」といっては申し訳ないが、不可解なことが多すぎる。

 なにを焦りまくっているのか。なにやら政権末期といっても過言ではないようなパフォーマンス頼みのドタバタぶりだ。

 これを小沢一郎前幹事長が冷ややかに見つめているという構図が浮かんでくる。

 スタートした来年度予算編成作業が、まずその典型だ。

 概算要求基準では政策的経費を各省一律10%カットし、1兆円強を捻出して「元気な日本復活特別枠」として成長分野に重点配分するという。

 さらに、その特別枠の配分について、公開で優先政策を「仕分け」する「政策コンテスト」を実施するという。

 「これぞ政治主導」と言いたいのだろうが、パフォーマンス優先の危うさが見受けられる。公開とか参加といった言葉が飛び交うと、それこそが民主的手法だと錯覚しているとしか思えない。

 事業仕分けによって生み出された財政効果が微々たるものであったことなど、すでに忘れてしまったかのようだ。

■「予算編成ショー」など、すぐに見抜かれる

 先の参院選で民主党敗北の最大の要因となった「消費税10%」の基本的な構想はどこへ行ったのか。

 これ以上、消費税に言及することは避け、口をぬぐって知らぬ顔を決め込もうということらしい。

 予算編成というのは政権にとって最も高度な調整能力、統治能力が求められる分野だ。

 政治主導の名のもとに行政側を強権的に抑え込もうとしても、行政施策の隅から隅まで熟知しているのは官僚組織なのだから、政治サイドの浅薄な「予算編成ショー」など、すぐさま見抜かれてしまう。

 確固とした成長戦略のもとに、財政、税制の構造をどう改革していくのか、基本的な体系がまったく見えてこない。菅首相の「決意」のほども伝わってこない。

 不可解なことはほかにいくつもある。

 金賢姫来日の目的、成果について、菅首相はなんら明確な発言をしていない。

 大韓航空機爆破犯として韓国で死刑判決を受けたテロリストである。チャーターしたジェット機で送り迎えし、軽井沢の鳩山前首相の別荘に宿泊させ、ヘリコプターで都内遊覧をさせ……。

■「金賢姫来日」も政治的パフォーマンスか

 いまさらくり返すのもいやになるのだが、拉致被害者にとって「新事実」が出てきたのなら、それも許容しよう。

 横田夫妻をはじめ、被害者家族は「何もなかった」と言明している。当たり前である。新事実が飛び出すようなら、韓国当局が来日を認めるわけがない。

 政府認定の被害者以外の「特定失踪者」を民間レベルで調査している「特定失踪者調査会」の荒木和博会長は、金賢姫が立ちよった帝国ホテルに大量の失踪者の資料を持って駆け付けたが、中井洽国家公安委員長は金賢姫には会わせようとしなかった。

 荒木氏が待っているのを承知で、別の出口から金賢姫とともに脱出したというのだから、拉致事件究明にどこまで本気で取り組もうとしているのか、その真意が疑われてもやむをえまい。

 金賢姫が大量の顔写真を見て、この人を見たことがあると証言してくれたら、新たな拉致被害者の認定につながったはずなのだが、「拉致被害者を増やしたくない」という政府当局の本音がもろに出てしまった。

 官房機密費の公開に前向きな民主党政権なのだから、いずれ、今回の金賢姫来日でいくらかかったのか、明らかにしてくれるのだろう。

 だが、それ以前に、「政権浮揚を目指したパフォーマンス」という批判に真っ向から答えなくてはなるまい。

■「不可解さ」は防衛・領土問題にも及ぶ

 この特別入国を許可した千葉景子法相は参院選落選によって、その「資格」に疑念が突き付けられていたはずなのだが、なんと、2人の死刑執行を実施、それに自ら立ち会うということまでやった。

 千葉氏は死刑制度に反対していたのだが、なぜこの時期に執行書にサインしたのか。「さまざまな状況を判断した結果」という説明ではなにがなんだか分からない。

 法相を辞任しなかったことへの批判に対する、これまたパフォーマンスという以外にない。

 不可解なこと「その3」。防衛白書の閣議了解を先送りした。すでに印刷済みであるのに、である。

 竹島問題について「未解決なまま存在」といった表現をしたことに韓国側が反発、これに配慮したものだという。これでは不法占拠を続ける韓国側を利するだけだ。

 ことが領土問題であるだけに、ここは断固とした姿勢が求められる局面である。

 領土問題については、不可解なこと「その4」がある。

 北方領土の元居住者の3世である中学生7人が首相官邸を訪問したが、応対したのは仙谷由人官房長官で、すぐ近くの執務室にいた菅首相は会おうともしなかった。

 これまではほぼ毎年、ときの首相が出てきて、北方領土問題の解決を約束していたのである。

■政権運営にかける気力や意思が見えない

 不可解なことの列挙はその程度で打ち止めにしておこう。

 とにかく、菅首相の政権運営にかける気力や意思といったものが見えてこないのだ。

 おそらく、頭の中は9月代表選挙への対応でいっぱいなのであろう。だが、首相らしい言動を避けていると、代表選までこの首相はいったいもつのかどうかという疑念すら浮かんでしまう。

 主要メディアとの関係が必ずしも良好でないことも、不可解きわまりない。新聞、テレビ、週刊誌など、このところ、菅首相への批判報道であふれている。さまざまな批判に対して、有効な対応を試みた形跡もない。

 おそらくは、菅首相サイドに、代表選での小沢氏の出馬説が相当なプレッシャーとなっているのであろう。そうとでも考えないと、菅首相側のこのところの「お粗末ぶり」の説明がつかない。

 そこで、小沢氏の代表選出馬はあり得るか。小沢氏は選択肢のひとつとして、はっきりと意識しているように思える。

 しばらく潜っていた小沢氏が表に出てきて、その言動に接した人によれば、小沢氏は意欲十分で血色もよく、とても鳩山首相とのダブル辞任で落ち込んでいるようには見えなかったという。

 それも当然だ。「小鳩ダブル辞任」によって、参院選での勝利を確実にする最高の環境をつくったのに、菅首相の軽率な消費税発言によって敗北を喫し、参院での与党過半数割れという事態を招いたのだから、小沢氏や鳩山氏が急速に「元気になった」のもよく分かる。

■小沢氏出馬が確定すれば菅首相は退陣へ

 代表選での小沢氏の出馬は十分にあり得ると見る。

 小沢氏にとっては、これがおそらく最後のチャンスである。

 代表選は、国会議員、地方議員、党員・サポーターの投票によって実施されるが、国会議員400人余りのうち小沢氏は150人は抑えているとされる。

 地方議員や党員・サポーターにも小沢氏支持が強い。勝機は十分にあるのだ。

 場合によっては、小沢氏の出馬が確定的になった時点で、菅首相は退陣を余儀なくされるかもしれない。現職首相が代表選で敗北したら、目も当てられないからだ。

 小沢氏の出馬を妨げる要因をいくつかあげる向きはある。ひとつは「政治とカネ」の問題だ。

 検察審査会が2度目の「起訴相当」判断を出し、強制起訴される事態になったら、小沢氏の政治行動は制約されるという見方がある。本当にそうか。

 公判となった場合でも、問われるのは政治資金規正法違反である。検察当局はゼネコンとの癒着構造を暴きだそうとして、結局はできなかったのだ。

 小沢氏側がこれまでの主張を続けていけば、公判が進行していたとしても、その政治行動は自在にできるのではないかと見ることも可能だ。

■小沢政権の誕生で「大連立」への転換も

 健康問題を抱えている小沢氏は首相の激職には耐えられない、という見方もある。これもそう断じていいものかどうか。

 かつて、田中角栄氏は首相在任中、自分の事務所や私邸で陳情客と会うなど、かなり自由に行動していたように記憶している。

 官邸官僚のお膳立てに乗って、操り人形のごとくに動かなければいけない首相なら、分刻みの日程をこなすことになるが、小沢氏の場合、その政治力は他に類を見ない。

 通常の首相と同様の日常をこなさなくてもいい首相の誕生ということまで想定しておかなくてはなるまい。

 仮に小沢政権が出来たとして、これがいつまで持つかは別問題だ。小沢氏のことだから、持論の「大連立」への転換を考えるかもしれない。

 いずれにしろ、このところの菅首相の「自信喪失状況」とでもいうべき姿を見るにつけ、小沢氏の動きが最大の焦点となることだけは確実であるように思える。

2010年7月29日 日経BP

誘拐大国になった中国

2010年08月01日 | 情報一般
誘拐大国になった中国 一人っ子政策の悲惨な余波

近年、世界的に人身売買や誘拐が急増している。背景にあるのは、少子化による養子や花嫁の深刻な不足、貧困層の増大による子どもの売買、そしてスポーツの大イベントに集まる男性観客目当てのセックスワーカー(売春婦)需要の増大などだ。とくに中国では数年来、女性や子どもを誘拐する事件が多発して、世界最大の誘拐国とまでいわれるようになった。

■一人っ子政策と嫁不足

 中国最高人民法院は、昨年1年間に児童誘拐・人身売買の裁判件数は1107件で、前年比で11%増だったと発表した。

 中国公安省は昨年4月~5月に全国規模で誘拐の集中取締りをした結果、約1カ月間に人身売買事件を306件、併せて72の誘拐グループを摘発した。誘拐された女性214人、子ども196人を救出し、犯人グループの6人が死刑判決、1061人が懲役5年以上を宣告された。

 人身売買には大がかりの地下組織もあり、誘拐犯のなかには産婦人科医や看護師らも含まれていた。組織には「拉致」「移送」「売却」の役割分担があり、親を殺したり、子どもを睡眠薬で眠らせたりといった分担のほか、親子を偽装して移送するための“母親役”を用意するための組織もあった。子ども1人を拉致犯から50元(1元は約13円)で買い取り、1200元で売っていた。

 なかには村を挙げて誘拐を生業とし、人口83人中45人が誘拐・人身売買で摘発されたという村もある。河南省の山東香華高級技術開発会社と名乗る会社は、10年間で2500人を誘拐した人身売買会社だった。

 中国公安部は、女児や少女の誘拐は年間数千~数万人と推定しているが、この数字は氷山の一角という見方が強い。誘拐阻止のNGO(非政府組織)は、年間30万~50万人とみている。

 中国の誘拐事件は身代金を要求するケースはほとんどなく、人身売買が目的である。一人っ子政策に男尊女卑の風潮、それに極端な貧富の格差が複合的に重なって人身売買の温床になっている。

 中国政府は79年から、一人っ子政策を進めてきた。漢族にかぎって夫婦は原則として1人しか子どもを持つことができず、違反するとさまざまな罰則が科せられる。この政策の結果、06年末までに約4億人の人口を抑制できた、と中国政府は胸を張ってきた。だが、強圧的な政策のためにさまざまな社会的な軋轢が生じた。誘拐の多発もその1つだ。

■異常な男女比と結婚詐欺

 1人しか持てないのなら、多くは男児をほしがる。農村では男手は一家の支えになるが、女児は余計な存在だ。男子が家を継ぐ風潮も根強い。法的には禁じられているが、胎児の性別診断が商売になっている。超音波診断で判別して、女の子とわかると中絶する。

 その結果、男女のバランスが大きく崩れてきた。今年6月の、中国国家人口計画出産委員会の発表によると、昨年の男女の出生比率は女100に対し男が119.45だった。なかには、100:192という地域もある。100:103~107が正常範囲とされているから、これは異常な男女比である。

 20歳以下では男性が女性よりも3200万人も多い。このズレは農村では深刻な問題だ。農村への嫁ぎ手が少ないうえ、“貴重”な男性は都会に出稼ぎに出たら戻らない。20年後には結婚適齢期の男性3700万人が相手をみつけられないといわれる。

 嫁不足を背景に結婚詐欺が急増している。報道によると、河南省のある27歳の男性が念願かなって妻を迎えたが、結婚10日後に結納金3万8000元とともに花嫁が姿を消した。調べてみたら、わずか2カ月間で、彼を含め11人が同じ妻の失踪届けを出していたことがわかった。

 結婚難のために新郎側が用意する結納金も急上昇している。80年代までの額は小さかったが、90年代になって1500~3000元になり、02~03年を境に6000~1万元に高騰した。数年分の農家の収入に相当する額だ。これなら、誘拐された女性を買った方が安くあがるという。

 女の子を狙った誘拐の多発は、幼い息子の妻として、あるいは結婚相手が見つからない男によって買われていく。数千元から最高で2万5000元で売られていく。4万元で売買されたケースも報道された。

■脱北女性が送還されないわけ

 最近は、都市で働く出稼ぎ農民、いわゆる「民工」の子どもが誘拐のターゲットになっている。貧しい農村から都市に夫婦で出稼ぎにきて、家には子どもしかいないからだ。1億5000万人といわれる「民工」は、いまだに「闇の存在」である。出稼ぎ労働者の子どもが誘拐されても警察がまじめに取り組まないことが多く、事件は闇に葬られる。

 国内では誘拐の取り締まりや警戒がきびしくなってきたために、海外で女児や女性を調達する動きが活発になってきた。AFP通信によると、北朝鮮から中国に脱出した若い女性の多くは、結婚相手として農村に売り飛ばされているという。

 韓国の脱北者救援組織によると、脱北者が男性の場合は中国当局に見つかったら強制送還されるケースが多いが、女性の場合にはその“経済価値”が高いために、庇護を受けられる。いま、中国に身を隠している脱北者の8割は女性で、その9割までが人身売買の被害者になるという。

 中国側のブローカーは、国境地帯を監視する北朝鮮兵士に賄賂を渡して北朝鮮女性を脱北させる。賄賂の相場は1人あたり500元から1000元。「中国でたくさんお金を稼げる」というブローカーの話を信じて中国入りした女性たちは、別のブローカーを介して結婚相手として農民に売られる。相場は5000~1万元という。

 買い手の農民は障害者や独身中高年者が多い。中国でも高齢化問題が深刻になりつつあり、息子が障害者の場合、親が息子の将来を心配して世話をみさせるために嫁を買い与えるというケースだ。

 もう1つは、ストリップショーなどの風俗業に従事させられる道だ。買い手の男性に気に入られなければ、さらに別の人に転売される、なかには、7~8回転売された女性もいるという。

■国境を越える誘拐

 同じように、ミャンマーも女性の「供給地」になっている。『中国経済週刊』は、ミャンマー人女性の誘拐・売買が産業化していると報じた。中国南部の雲南省と国境を接するミャンマーから、甘言に釣られて連れてこられ、山東省、安徽省、湖北省など嫁不足に悩む農村に売られていく。需要の増加に伴い、女性の「売値」も高騰。08年の1万~3万元から、最近は4万~5万元に跳ね上がった。

 雲南省の公安局によると、誘拐されてミャンマー側に返された女性は07年に54人だったが、08年は87人、09年は268人にのぼった。これも、捜索願が出て救出された事例だけで、実際にはかなりの数にのぼるとみられる。ベトナムでも経済発展から取り残された村で、誘拐されて中国に売られる女性が急増している。

 人身売買とは、英語ではトラフィッキング(Trafficking)といわれ、警視庁はこれを人身取引と表現している。その目的は、強制労働、性的搾取、移植用臓器の獲得、養子、強制結婚などにある。国境を越えて売買される場合も多い。

 49年に発効した国連の「人身売買及び他人の売春からの搾取の禁止に関する条約」によって禁止されて以来、96年の「児童の商業的性的搾取に反対する世界会議」などの場で、繰り返し規制強化が話し合われてきた。しかし、人身売買の地下組織は各地に存在し続けている。

 とくに、子どもが狙われる。少子化によって、労働力や結婚相手の不足が深刻化して、農家などが扱いやすい幼いうちに買おうとするからだ。また、近年の傾向として、世界的に少子化が進んで家族制度が崩壊し、福祉制度の未発達な途上国では、老人や障害者の介護を担わせるために他国から結婚の名目で嫁を買い取る動きも目立っている。

 他方で、市場経済の浸透による貧富の差が急拡大して、人身売買は一部で手っ取り早い収入源にもなっている。スポーツなどの国際的催しが大規模化して多くの男性観客が集まり、それを目当てにセックス産業がはやり、とくに女児誘拐が増加する。

■南アではW杯観光客が目当て

 ことしの南アフリカのサッカーW杯では、現地のNGOによると、アフリカや欧州各地から4万人のセックスワーカーが集まった。このなかには誘拐された女性が数多く含まれ、エチオピアなどで少女誘拐が増えたという。

 会場になったダーバンでは、この5月に狭い部屋に押し込められていた15人の少女が警察に保護された。セックスワーカーとして売られるところだった。ダーバンはケープタウンとともに港町で人身売買の基地になっている。

 国連児童基金(ユニセフ)の児童売春に関するリポートによると、毎年世界で数百万人もの18歳未満の子どもたちが誘拐され、性産業に従事することを強いられる。とくに途上国の子どもたちの被害が深刻で、ユニセフによると、フィリピンでは年に6万~10万の子どもたちが性産業に従事させられている。

 フィリピンにかぎらず、東南アジアでは少女買春を目当てに観光客が集まる。タイ政府の調査では、総数は不明だが国内のセックスワーカーの40%は18歳未満、12歳未満が10%もいた。

 インドでは120万人(連邦警察の発表)で、スリランカでは4万人(国際労働機関)、バングラデシュでは3万人(ユニセフ)、ベトナムでは2万人(NGO)の児童がセックスワーカーを強いられている(数字は、調査年が異なるが、いずれも過去数年の間ものだ)。タイの調査では、買春客の3分の2は日本、オーストリア、中国などからの旅行者だった。買春目的だけで来訪する観光客も少なくない。

 こうした子どもたちは満足に教育を受けられず、まっとうな職に就けず、貧困の連鎖につながっている。エイズなどの性感染症の犠牲になる児童も少なくない。インドでは、臓器売買目的の誘拐も一部で表面化している。

 中国は今後、ますます女性不足が進行する。それにつれて、女性の誘拐がますます増えるとしたら、これをどう阻止するのか。国際社会に重い課題がのしかかっている。

2010年7月29日 日経BP
石 弘之(いし・ひろゆき)環境学者
東京農業大学教授。1940年生まれ。東京大学教養学部卒業後、朝日新聞社編集委員を経て、東京大学大学院総合文化研究科教授、同大学大学院新領域創成科学研究科環境学専攻教授、駐ザンビア特命全権大使、北海道大学大学院公共政策学特任教授などを歴任。2008年4月より、現職。『地球環境報告』(岩波新書)ほか、環境問題や途上国の開発をテーマにした著書多数。

真夏の温泉(下)

2010年07月30日 | 情報一般
千原温泉の湯は血圧を下げる効能がある

血圧下げる千原温泉、胃腸癒す須川温泉 真夏の温泉(下)

 半端ではないこの夏の猛暑。暑さにも参るが、冷房負けでダウン、体がだるくて仕方がないという人も多いだろう。そんな夏こそ温泉でゆっくり休んでみてはいかがだろう。

 炎天下の日中、水分の補給も忘れて外回りをがんばってきた人は、血液中の水分が足りなくなるため、高血圧の注意が必要だ。そんな症状に温泉コンサルタントの中澤克之さんが勧めるのは、島根県の千原温泉。中国地方の三瓶山麓にあり、一般の旅行ガイドにはほとんど載っていない。知る人ぞ知る口コミの日帰り湯だ。

 泉質は炭酸水素塩泉。底板の間から湧き出る源泉に直接入ることのできる、全国的にも珍しい「足元湧出源泉」で、中澤さんは、「炭酸ガスを多く含む炭酸泉は、血管を拡張し、血圧を下げるのです」と説明する。

 湯の色は、緑がかった黄褐色。炭酸ガスの泡がポコッポコッと湧き出ていて、沸騰しているように見える。ぬるめながら、重厚な成分とバブル効果によって、身体全体がふんわり温まる。「成分が体内に浸透しやすく、血の巡りが良くなるため、高血圧症によいのでは」(中澤さん)

 JR芸備線三次駅などからタクシーで約1時間。三江線沢谷駅から徒歩約4キロ。持ち帰りも、1リットル100円で分けている。

 不規則な食生活などで荒れた胃腸を癒すのに適しているのは、岩手県の須川温泉。秋田県境の栗駒山の中腹、標高1100メートル余りの火口丘にあり、豊富な高山植物に囲まれた宿2軒の温泉だ。

 そのうちの「湯川高原温泉」は、毎分湧出量は6000リットルと日本一を誇り、巨大な溶岩丘の合間から、自然に噴き出した湯が滝のように流れ出てくる。

 泉質は、強酸性の明礬緑礬(みょうばんりょくばん)泉。泉温は48度で、ちょうどいい。湯触りはさらりとしているが、皮膚を通して、ひりひりと強い刺激を与え、胃の活動を活性化させるという。胃に穴の開いていた人が、2週間ほど湯に浸かったら、ふさがったという評判まである。

 同宿には、大露天風呂、大浴場のほか、「おいらん風呂」で蒸気浴を完備。眺望は遠く、月山や鳥海山を望むことができて、雄大な自然を満喫できる。

 JR一ノ関駅からバス2便。1時間30分余り。

 日頃、パソコンなどで目を駆使してきて、ドライアイや眼精疲労などの眼病に悩む人に適しているのは、神奈川県箱根の姥子温泉。標高1000メートル近い岩盤から自然湧出する源泉は、ホウ酸を含んだ泉質。古くから、眼病に効く温泉として知られてきた。昔からの源泉は、日帰り入浴施設「秀明館」が有名だ。

 湯に溶け込むホウ酸は、市販の目薬の成分と同じ泉質。「湯に、炭酸入りの目薬が溢れ出てくる感じ」(中澤さん)だという。そこで、源泉の湯口に手をかざして目を洗う人もいるようだ。

 箱根ロープウエーの姥子駅下車。

2010.07.28 ZAKZAK

野中氏の「勘違い」に反論

2010年07月30日 | 情報一般
野中広務氏の公共の電波を使った"華麗なる勘違い発言"に反論す

 永田町を取材していると時々、理解不能な人種にめぐり合うことがある。その種の人々は時に微笑ましくもあり、時に呆れてしまうこともあるが、まぁ、いずれにせよ、同じ人間のやること「変人」ぶりに驚いてもいられない。

 野中広務、森喜朗、安倍晋三の3人の共通点は、物忘れと思い込みの激しいことにある。何らかの病気であるならば仕方ない限りだが、不幸なことに、この3人は今なお政治家(ひとりは評論家)として国政に関わっている。被害が、国民や国家に及ばないことを祈るばかりだ。

 この3人の健忘症と思い込みの被害者のひとりが、何を隠そう、この筆者である。
きのう(7月28日)、関西テレビの情報番組「ニュースアンカー」に野中氏が生出演した。そこで、またしても野中氏の健忘症と華麗な勘違いぶりが発揮されたのだ。

 〈私はね、この上杉さんというのは無責任だと思う。あの人、私に、いっぺんもですね、インタビューなんかしたことがないですよ。それに、その「週刊ポスト」とか「フライデー」とかこういうところでね、電車のつり革に「野中激白」とかこういうのでですね、みなさん、その中を読んだら、私の名前なんか一回もないですよ〉

 これは、評論家の宮崎哲弥氏が筆者と週刊ポスト編集部が取材している「マスコミに渡った機密費問題」について質問した時の野中氏の回答である。

■取材依頼を断り続けながら「取材を受けていない」とは…

 安倍氏も同様だが、この3人の共通点は「繰り返しの取材を断っておきながら、取材を受けてない」と強弁する点だ。野中氏は1999年から20回以上、安倍氏に関しては2001年から30回以上、インタビューか取材を依頼しているがすべて断ってきている。せっかくの機会だから、この2人には僭越ではあるが、正しい日本語の使い方をお示ししよう。

 その場合は「インタビューを受けていない」「取材を受けていない」と言うのではなく、「取材を断った」「取材を拒否した」というのだ。国会議員であるのだからもう少しきちんとした日本語を使用していただきたい。

 ついでに、また、残念なことではあるが、官房機密費について、筆者は「フライデー」に寄稿したことは一切ない。野中氏はなにか大きな勘違いをされているようだが、ぜひとも、よく調べてから発言をしてもらいたい。

 さらに、驚くべきは、「野中激白」という「週刊ポスト」の記事についての野中氏の言及部分だ。官房機密費マスコミ汚染問題についての追及キャンペーンの第1回目、「週刊ポスト」にそのような記事が載っていたのは確かである。

 だが、それは筆者の記事ではないし、そもそも、筆者はその週の「週刊ポスト」を手に取るまで、一切、その記事の存在すら知らなかったのだ。逆に、手に取った瞬間に「週刊ポスト編集部」に電話して、「大丈夫だろうか、この記事。野中氏の〈激白〉とは言えないんではないか」と、親切にも心配の電話を入れてあげたくらいだ。それはそこに知らぬ間に筆者のコメントが使用されていたということもあるが、その点では野中氏とまったく同感であったのだ。

 さて、筆者の記事ではあるが、それは「評論家たちに渡った官房機密費のリスト」というまったくこの記事とは別の記事である。

 自分のまったく知らない記事が理由で、公共の電波を使って批判されるのはたまったものではない。ただ健忘と思い込みの激しい野中氏であれば、それも仕方ないのかもしれない。野中氏には、速やかな訂正と謝罪を求める。それができないようであれば、番組で筆者に投げつけた「無責任」という言葉をそのままお返ししようではないか。

■昨今の評論家は物忘れの激しい方が多い!?

 さて、野中氏の驚愕の発言はまだ続く。司会者の「取材を受けたことはないんですか?」という問いに対して、こう答えたのだ。

〈ないですよ!顔もみたこともない〉

 三宅久之氏ではないが、昨今の評論家はもの忘れが激しい人物が多いようだ。ちなみに1994年以来、野中氏とは何度も顔を合わせている。とくに1999年には名刺交換までしてインタビュー取材もしている。

 もしかして、筆者があまりに存在感がないためにお忘れになっているかもしれない。そこで、手っ取り早くその証拠を示そうではないか。

 2年ほど前、筆者は「久米宏のテレビってやつは」(毎日放送)という番組の準レギュラーであった。長い収録の最中、筆者の隣には野中氏が座っていた。そこで繰り返し会話を交わしたものだった。

「上杉さんね、いろいろと、がんばっておりますな」

 こう話しかけられて、改めて挨拶したのを覚えている。打ち合わせのための控室でも話をした。もちろん放送では筆者と野中氏が一緒に映っている。政治がテーマということもあって、掛け合いもある。

 しかし、早とちりはいけない。あれは野中氏ではなく、野中氏によく似た代理だった可能性もある。

 幸いなことに今週末の土曜日、TBSラジオの「久米宏のラジオなんですけど」に筆者は生出演することが決まっている。

 テーマはもちろんマスコミに渡った官房機密費、VTRよりもより確実な証人である久米氏が司会だ。これは確認してみる必要があるだろう。

 さらに関西テレビの番組で、野中氏はこうも語っている。

 〈非常にね、あの人がジャーナリストで、あーいうようにね、ポストを通じてこられるというのはね、みんな中身見てください、私の言葉がどこに出ておられるのか〉

 そうだ、是非ともみんな中身を見てほしい。筆者の記事がどこにあるのか。

■野中氏の妄想はさらに暴走

 さらに野中氏の無責任な妄想は止まらない。

 〈都内の電車のつり革にはですね、『野中広務激白』とかみんな私の名前が出てくるんですよ。迷惑至極ですね。やっぱり私はああいう記者の方も自らモラルを持っていただかないと非常に残念に思っております〉

 まったく野中氏は非常に残念である。公共の電波で何百万人もの前で話すのなら、事実を確認するくらいのモラルを持っていただかないといけない。繰り返すが無関係の記事で名前を出されて迷惑至極である。

 こうしたことは「ラジオ日本」の番組で、「上杉とは会ったこともみたこともない」と言い放った森喜朗氏にもある。その発言の少し前、筆者は森氏の永田町の個人事務所で相対して座り、1時間あまりのインタビューを行っていたばかりだ。

■変人たちの巣食う楽しい町――それが永田町

 また自身のHPに「上杉は逃げ回っている」と書いている安倍氏も同様だ。繰り返しの取材依頼にも関わらず、自分が逃げ回ったことは棚にあげて、「一度も取材を受けていない」と話すのである。

 門を閉じて、繰り返し、繰り返し、追い返しておいて、「何で会いにこないで、逃げるんだ」と言われても、それは返す言葉もないというものである。また、それを真に受けて自身のブログに書き込む、ヒマな産経新聞の政治記者についても同様だ。そしてまた、さらにそれを鵜呑みにしてウィキペディア等に懸命に書き込む人々――。

 じつは、こうした理解不能な「変人たち」がいるからこそ、永田町は楽しい場所なのかもしれない。

2010年7月29日 ダイヤモンドオンライン
上杉隆 [ジャーナリスト

1993(平成5)年7月29日

2010年07月29日 | 情報一般
【写真で見るきょうは何の日】7党1会派が細川連立政権で合意

 1993(平成5)年7月29日、非自民連立政権づくりを模索してきた社会、新生、公明、日本新党、民社、新党さきがけ、社民連、民主改革連合の7党1会派が政治改革実現などで最終合意し、細川護煕日本新党代表を首相候補として推すことを決めた。38年続いた自民党政権に代わる細川連立政権は、8月9日に誕生した。

 細川連立政権は驚異的な高支持率をバックに「政治改革」最大の目玉である選挙制度改革に取り組んだが、社会党内で意見が割れ、連立政権だけでは法案成立に持ち込めなかった。そこで新生党の小沢一郎代表幹事は、下野した自民党に着目。協力を取り付け、小選挙区制導入を実現した。

 細川首相は政治改革に次ぐ課題を行財政改革とし、「国民福祉税」導入をブチ上げるも、与党内から猛反対を受け、連立政権の絆は急速に弱まった。

2010.07.29 ZAKZAK

中国人観光客争奪戦にアフリカ諸国も参戦

2010年07月29日 | 情報一般
中国人観光客争奪戦にアフリカ諸国も参戦

 このコラムの第9回で、済州島による中国人観光客誘致の工夫に触れた。その工夫の一つは、済州島に50万ドル以上の投資をした外国人が5年以上滞在すれば永住権を付与されるという思い切った奨励策である。これが海外に拠点を作ろうとする多くの中国人の背中を力強く押した。

 こうした済州島の努力は、数字にも表れた。済州道が最近明らかにした統計データによれば、今年7月25日までに済州島を訪れた外国人観光客は昨年同期比35%増の40万0723人となったという。

 そのうち、中国人観光客が20万人で、昨年同期の2倍である。この成績に済州道側は、このままでいけば今年通年70万人の海外訪問客の誘致目標を繰り上げで実現できる可能性が出てきたばかりでなく、うまくいけば80万人の大台にも届きそうだ、と鼻息が荒い。

 中国人観光客を誘致するために韓国は、今年1月から済州島を訪れる中国人観光客に対してビザ免除という思い切った措置に踏み切った。これも中国人観光客を大幅に伸ばした理由の一つとなっている。

 このビザ政策はもちろん済州島振興のための措置として実施されたものだが、韓国の中国人観光客に対するビザ発給政策は日本をかなり意識した一面がある。

 今年7月、日本は中国人の個人観光客に対するビザ発給条件を大きく緩和した。すかさず韓国法務省も同27日に、さらに緩和されたビザ発給措置を発表した。

 中国側の報道によれば、韓国は8月1日から、フォーチュン・グローバル500にランキングされている外資系企業に勤務する中国人社員、学校教師、著名大学卒業者などに対して、1年有効のマルチビザ(期限内なら何度入出国しても有効なビザ)を発給するようになった。

これまで1年マルチビザの発給は弁護士、医師、教授など社会的地位の高い職業に限られていたが、今度は小中学校の教師、名門大学の卒業生などにも範囲を広げる。さらに韓国を経由する中国人観光客に2次ビザ(有効期間中に2回の入出国が可能なビザ)を発給し、仁川国際空港を利用しやすいような条件を作り出す。団体旅行の最少人数も現行の5人以上から3人以上に引き下げる方向で検討するそうだ。

 さらに、ビザの申請を簡素化する方向へも踏み切った。在中国韓国大使館によれば、ここ5年以内に韓国を含む経済協力開発機構(OECD)加盟国を2回以上訪問した人や北京戸籍を持つ人は、ビザ発給申請書と身分証の写本だけを提出すればよい。銀行の預金残高証明書と住宅・車両の保有証明書などの書類の提出は不要となった。

■世界中に広がる中国人観光客争奪戦

 こうした中国人観光客争奪戦は、日本韓国間で繰り広げられているだけでなく、アフリカにまで広がっている。

 南アフリカ共和国と国境を接するナミビア共和国も中国を観光市場重要開発国として位置づけ、中国人観光客を誘致するための一連の措置が取られた。同国の野生動植物管理公社は今年から、在中国大使館と共同で北京、上海、広州などの大都市で同国の主要観光資源を紹介するイベントを開催することになっている。野生動植物管理公社傘下の22の野外キャンプも中国人観光客向けの特別サービスを開始するとしている。

 赤い砂漠という別称で知られるナミブ砂漠、カフェやショップが並ぶ人気のビーチリゾート・ワルビスベイ、海岸沿いに高級ホテルが並ぶ美しいリゾート地・スワコプムントなど同国の観光資源を積極的に売り込む。

 中国人観光客を誘致する同様の動きは、太平洋に浮かぶ島国などの国々にも見られる。

 たとえば、済州島と同様に、ビザ免除で中国人観光客を誘致する国は、紅茶と宝石の国といわれるスリランカ(滞在期限30日)、太平洋西部で赤道のすぐ上にあるミクロネシア、南太平洋のエリス諸島に位置する島国のツバル、南太平洋の美しい海に囲まれた330個もの島々からなるフィジー、海の美しさで観光客を虜にするパラオ、かつてはインド商人の貿易中継地になっていたインド洋に浮かぶモーリシャス、オーストラリア大陸の東方にある南太平洋西部の島国バヌアツ、「島々の花輪」を意味する国名をもつモルディブ、アフリカ大陸東海岸の東方でインド洋西部に散在する115の島群からなり経済が観光業に依存するセーシェルなど、である。

 ヨーロッパでは、シェンゲン加盟国のメンバー国のビザを取得すればその他の加盟国を自由に移動できる。

 これまで中国人に対して厳しいビザ発給施策をとってきた日本がビザ発給条件の緩和に踏み切ったということは、こうした中国人観光客争奪戦に参入することを意味する。すでに熾烈に展開されている中国人観光客争奪戦はこれからますます激しさを増すことだろう。

2010年7月29日 ダイヤモンドオンライン
莫邦富 作家・ジャーナリスト

参院選の直後、辻元議員から相談された

2010年07月29日 | 情報一般
田原総一朗の政財界「ここだけの話」
参院選の直後、辻元議員から相談された

 社民党の辻元清美衆院議員が7月27日に離党届を出し、その日の記者会見で「無所属議員として新たな挑戦に進みたい」と語った。

 実は私は、参院選直後の7月13日、辻元さんに直接会って相談を受けていた。「離党届を出したいが、どう思うか」という内容だった。

■連立離脱をめぐり、福島党首と考えの食い違い

 なぜ離党したいのか。辻元さんに尋ねると、彼女はいくつかの理由を挙げたが、きっかけになったのは米軍普天間基地移設問題をめぐる動きにあったようだ。

 民主党の鳩山由紀夫前首相は当初、「国外、最低でも県外」に普天間基地を移設すると言っていた。社民党の福島瑞穂党首も辻元さんも、民主党に賛成だった。

 ところが紆余曲折の後、移設先は沖縄県名護市の辺野古と決まり、これに対して社民党は反対を唱えた。結局、鳩山さんは政府方針への署名拒否を表明した福島瑞穂消費者・少子化担当相を罷免し、社民党は連立政権から離脱した。5月末のことである。

 社民党の少なからぬ人たちは、確かに普天間問題は反対だが、外国人参政権や夫婦別姓、子ども手当など福祉問題については、社民党と民主党の政策は一致する点が多くあり、連立離脱をすべきではないと考えた。辻元さんもその一人で、ここで福島さんとの間に大きな違いが生じたのである。

 しかも、福島さんが連立離脱を決める直前まで、辻元さんは日本にいなかった。国土交通副大臣としてドイツで開かれた国際交通フォーラムに前原誠司国土交通相の代理で出席していたからだ。辻元さんは急きょ日程を繰り上げて帰国したものの、福島さんの罷免から連立離脱への流れの中で党の議論に参加できず、忸怩たる思いがあったに違いない。

■問題を解決するのが政治、そこに自分の使命がある

 だが、辻元さんの心情的な変化は、もっと別なところにある。

 社民党は民主党と連立する前は、ずっと野党だった。野党とは、現実に関わりなく純粋正論を言っていればよい。もっと言えば、政権政党を批判していればよく、批判する理屈を考えていればよかったのである。

 ところが、辻元さんは副大臣になって、「この国をどうすべきか」を考えざるを得ない立場になった。野党のときとは全く違い、積極的かつ前向きに様々な問題を解決していかねばならないという思いが強くなっていった。

 だが、いずれも容易には解を見いだせない難問ばかりである。苦労しながら国内外で交渉を重ねて解決しなければならない。そうした仕事をやる中で、辻元さんの意識は次第に変わっていった。

 日本は様々な難問を抱えている。例えば、各都道府県にある空港。そのほとんどが赤字を抱えているが、それはなぜなのか。しかも、経済大国である日本には国際的なハブ空港がない。日本の地方空港を出発した航空機は韓国の仁川国際空港へ飛び、そこで乗り換えて欧米へ行く。一体どういうことなのか。

 ハブ港湾もない。韓国の釜山にはハブ港湾があり、そこに貨物がどんどん集まり、日本の港湾の地位が低下していくばかりだ。どうすればよいのか。

 日本航空(JAL)の再建問題、中国人観光客のビザ緩和、生活困窮者のサポートといった問題に、辻元さんは積極的に取り組んできた。そして彼女はこう感じるようになった。「おびただしい難問を解決していくのが政治ではないか。そこにこそ自分がやるべき使命があるのではないか」

■「純粋に応援してくれ人が離れてしまうのではないか」

 ところが、社民党の書記局や支持基盤である労働組合の人々は、相変わらず「反対!」を繰り返す。権力政党に対して「反対!」と唱えるのは気持ちがいい。その気持ちよさが好きなのである。しかし、問題を解決する姿勢は見せない。

 辻元さんは、現実離れをした政権政党批判を繰り返すことに疑問を感じ、政治の面白さに気づいてしまったのだ。

 何とかこの国の問題を解決しなければならないと取り組む辻元さんを、他の大臣や政治家、それに官僚たちが「大変、優秀である」と評価し、辻元さん自身も政治家としての仕事に生き甲斐を感じてきた。私も彼女の仕事ぶりを見ていて、その交渉力や行動力、責任感はすごいと感じている。

 辻元さんは自分自身の選挙についても悩んでいた。昨年の衆院選では小選挙区(大阪10区)で再選を果たした。民主、社民両党の選挙協力によって民主党は同選挙区に候補を立てていなかったため、辻元さんは彼女の支援者と民主党支持者の両方の支援を受けて当選しているのである。

 しかし次回の選挙では、民主党の選挙協力は得られない。それどころか、もし民主党が同じ選挙区に候補を立てれば、彼女は落選する可能性が高いのだ。とはいえ、社民党を離党して民主党に入れば、「辻元清美を純粋に応援してくれた人は、なんだ民主党かと思って、離れてしまうのではないか」と悩んでいた。

 こうした悩みを打ち明けてきた辻元さんに、私は「せっかく政治とはどういうものか気づいたのだから、やるべきではないか」と言った。

■辻元氏の意識変革は政治家に共通する大きな課題

 私は、辻元さんの意識変革はほかの政治家たちにとっても大きな課題だと思っている。なぜなら、民主党はずっと野党でいたため「政権政党になった」という意識がまだないからだ。

 鳩山さんは昨年の衆院選を戦うとき、普天間問題で「国外、最低でも県外」と主張した。だがそれは、自民党が政権政党であったときに辺野古と決めていたため、「反自民」的発想で主張したに過ぎない。もし、本当に選挙で勝って政権政党になる意識があれば、どこに移設するか具体的な案を持って言わなければならない。だが、何もなかった。

 つまり、残念なことだが、鳩山さんは野党的意識のままで、与党の意識になりきれていなかったのである。その結果、普天間問題は混迷をきわめた。

 それに比べると、辻元さんのほうがずっと早く意識変革を行い、政権政党として問題を解決していく気持ちが芽生えていたように思える。

 翻って、自民党はどうか。やはり、まだ「野党」という意識がない。野党は与党を攻め続けるものだ。「反対!」と攻める論理をつくればよい。逆に政権与党は、攻められたときの守る論理を持っているものである。

 自民党は長い間、ずっと守る論理ばかりを考えてきた。野党になった今も相変わらず与党のつもりでいるから、攻める論理が何にもない。谷垣禎一総裁は礼儀正しいだけで、もっと下品に攻めてもよいのに、全く民主党を攻めきれていない。

■いずれ何らかの形で民主党と組むことになるだろう

 菅直人首相もまた政権与党の意識がない。谷垣さんが消費税10%と言っているから自分も10%と言ってしまう。「何で同じ10%なのに、谷垣さんは批判されず、自分ばかり批判されるのか」と言わんばかりだ。

 だが、それは違う。谷垣さんは野党なのだから何を言おうといい。純粋批判をしていればよいのだ。菅さんにはその認識が欠けている。民主党、自民党それぞれに政権与党、野党の意識がないのである。

 こうした状況の中で、辻元さんは政治の面白さを覚え、意識改革を行い、それゆえの悩みを抱いた。そして、離党という決断に至ったのである。

 近い将来、辻元さんは何らかの形で民主党と組むことになるだろう。民主党に入党するかもしれないし、何人かの議員と協力し、民主党と統一会派をつくるのかもしれない。

 民主党はその辻元さんにどう対応するか。「ぜひ、いらっしゃい」と引き取るのか。あるいは、政策ごとに辻元さんと協力する過程で民主党に取り込んでいくのか。それはこれからの問題である。

2010年7月28日 日経BP

1984(昭和59)年7月28日

2010年07月28日 | 情報一般
【写真で見るきょうは何の日】ロス五輪開会式 ソ連・東欧は不参加

 1984(昭和59)年7月28日、ロサンゼルス五輪の開会式が行われた。

 ソ連や東欧諸国は不参加だったが、中国が32年ぶりに夏季五輪に復帰。台湾問題をめぐって58年にIOCを脱退し、国際スポーツの舞台から遠ざかっていた中国は、いきなり金メダル15個を獲得して驚かせた。

 東側諸国の選手が出場しなかったことで、射撃の蒲池猛夫選手(日本)、体操女子個人総合のレットン(アメリカ)など、その競技でメダルに縁のなかった国に金メダルをもたらされた。

 なかでもレットンの金獲得によるインパクトは強烈で、米国内に体操ブームを呼んだ。レットンに影響されて多くの子供たちが体操を始めたことで、後の強豪アメリカが築かれた。なお、この大会から、女子マラソンが公式競技となった。

2010.07.28 ZAKZAK

日本の反対で「金融規制強化」の「G8合意」が見送りに

2010年07月28日 | 情報一般
菅内閣は「危うい」。「日本の反対」で「金融規制強化」の「G8合意」が見送りに。「本家・英国」で「金融バブル」を招いた「第3の道」は「不吉なシナリオ」!

■「第2自民党」に成り下がった民主党
 
 今月(2010年7月)の本コラムでは、先月6月8日に発足した菅内閣および民主党執行部の「危うさ」について論を展開してきた。

 振り返れば、6月以降の政治の世界の変転は誠にめまぐるしい。

 鳩山由紀夫・前首相と小沢一郎・民主党前幹事長の「ダブル辞任」に始まり、それに続く菅内閣の発足(6月8日)、そして参議院議員選挙(7月11日)での民主党の「敗北」――。

 一連の流れを追いながら、改めて実感したことがある。

 今月たびたび言及してきたように、前原・野田グループ(前原誠司・国土交通大臣、野田佳彦・財務大臣を中心とする2つのグループ)ら「政権右派」が菅内閣の実権を握ったことで、民主党政権が大きく変質した、ということだ。

 菅直人首相の消費税増税発言に象徴されるように、現政権は昨年(2009年)の衆議院議員選挙(総選挙)で民主党が国民に約束した社会民主主義的なマニフェストを覆そうとしている。

 政権右派の政治理念はもともと、新自由主義的な政策を推進した「小泉構造改革」と共通するところが多い。

 そのせいか、もはや民主党そのものが「第2自民党」に成り下がってしまった感すらある。

■大連立は「国民の選択肢」を奪う暴挙だ!
 
 実際、民主党と自民党がともに参院選で「消費税10%」に言及するなど、両党の政策の違いが分かりにくくなっている。

 その上、菅首相が所信表明演説で消費税率引き上げを視野に超党派の「財政健全化検討会議」を設置するように野党側に提案したことに如実に表れているように、民主党はいまや昨年の総選挙であれだけ批判した自民党との「談合」さえ辞さない構えだ。

 当然その先には、「消費税問題」「普天間問題」「年金・医療問題」など積年の懸案の一挙解決という大義名分の下での自民党との「大連立」が視野に入ってくることも想像に難くない。

 参院選での与党(民主党、国民新党)過半数割れによる「衆参ねじれ」で、菅内閣の今後の政権運営が困難になることを考え合わせれば、そうした大連立シナリオはいっそう現実味を増す。

 そうなれば、それこそ「国民の選択肢」を奪う暴挙である。

 残念ながら、菅内閣および民主党執行部には、常にそうした危うさがつきまとう。なぜなら、彼らには自民党と政治理念・政策上の共通点が多いからだ。

■菅首相は政権右派に近い言動を弄している
 
 こういうと、確かに前原・野田グループはそうかもしれないが、少なくとも市民運動家出身の菅首相はどちらかといえば「政権左派」に属するのではないか、といった指摘もあるかもしれない。

 しかし、菅首相が必ずしも政権左派とはいえず、むしろ政権右派に近い言動(少なくとも首相就任後の言動)を弄しており、だからこそ「菅内閣は危うい」という事実を紹介して、今月のコラムを締めくくることにしよう。

 先月6月25日にカナダで開かれたG8サミット(主要国首脳会議)でのこと。

 周知のように、先のG8サミットの大きなテーマは、先進各国が経済成長と財政再建をいかに図るか、ということだった。

 リーマン・ショック(2008年9月)以降、大規模な財政出動で景気失速を防いできた先進各国は、いつ財政を引き締めたらよいのかという共通の悩みを抱えていた。

 この議題については結局、経済成長と財政再建とのバランスが大切という無難な結論に落ち着いた。

 一方で、参加国間の深刻な対立によって合意ができなかった議題もあった。

 世界的な金融規制に関する議論がそれだ。

■欧米は金融規制強化にいち早く舵を切った
 
 そもそも、世界経済を深刻な不況に追い込んだ金融危機は、投機マネーが生み出したバブルとその崩壊がもたらしたものだ。

 だからこそ、投機そのものを抑えなければ、世界経済は再び危機に直面しかねない。

 欧米諸国は、いち早く動いた。

 サミットの3日前、6月22日に、英仏独の3カ国は、新たな銀行税を導入して金融機関が破綻したときの処理費用を負担させるという共同声明を発表した。

 先の金融危機では、各国とも経営難に陥った銀行の救済・破綻処理のために多額の公的資金を投入した。3カ国の共同声明には、今後そうした事態を避ける狙いがある。

 裏を返せば、各国政府は銀行側に投機の失敗などで経営難に陥らないように経営上の圧力をかけているわけだ。

 同様に、米国もサミット当日の6月25日、銀行による投機を原則禁止するとした金融規制改革法をまとめ上げた。

 そのため、欧米諸国は当然、G8サミットでも金融規制の強化で足並みをそろえていた。

 ところが、あろうことか、日本が金融規制強化に反対して参加国間の合意ができなかったのだ。

■菅首相がG8サミットで放った「KY発言」
 
 実際、菅首相は6月25日のメルケル独首相との会談でも、こんな趣旨の発言をしている。

 「金融規制は各国の実情に即して議論すべきだ。経済への影響にも配慮する必要がある」

 要するに、日本には欧米と同様の金融規制を行うつもりはないし、その実施を日本に強制しないでもらいたい、と述べているに等しいのだ。

 金融危機とその再発防止策(金融規制強化)に関する各国指導者と菅首相との認識の違いをこれほど如実に物語るものはなかった。

 米国のオバマ政権をはじめとする各国政府はいずれも、自国の金融界の強硬な反発に遭いながらも、危機再発防止のために金融規制強化を断行しているのだ。

 そうした中で、ひとり菅首相だけが日本の金融界(ひいては財界)におもねるような発言(場の空気を読めないKY発言とでもいおうか)をしているのは、どういうことか。

 これでは、自民党政権の首相と何ら変わりがないではないか。

 菅首相が市民運動家出身であれば、本来なら率先して(市民生活を脅かす金融危機の再発防止のための)金融規制強化に取り組むべきではないか。

■小泉内閣が誕生したとき以来の「嫌な予感」
 
 菅首相はいつから「市民派」から「財界寄り」に転向したのか。

 それとも、菅首相は元来、巷間言われているような「野心家」であり、権力を握るためなら政治理念・政治姿勢を180度変えることすら厭わないマキャベリスト的な政治家なのか。

 実は、菅首相が「第3の道」を唱え始めたときから、私はすごく嫌な予感がしていた。その嫌な予感は、小泉内閣が誕生したとき以来のものだ。

 周知のように、「第3の道」とは、英国でブレア元首相率いる労働党政権が誕生したときに、盛んに唱えられた政治スローガンだ。

 一言で言えば、新自由主義的でもなく社会民主主義的でもない政策の追求・遂行である。

 ところがブレア政権は、表面的には新自由主義政策を推進したサッチャー政権を否定したかのように見えて、実のところは同政権と類似の政策をとっていたのだ。

 その結果、英国では製造業が衰退する一方で金融バブルがみるみる膨らみ、後任のブラウン政権下では国家税収の3割近くを金融業が占めるまでに至った。

■「本家・英国」と同じ轍を踏まないことを祈る
 
 この2代の労働党政権下(の大部分の期間)で英国経済は好調を維持し、ブレア政権が提唱した「第3の道」は一見うまくいったかのように映った。

 しかし、水面下では金融バブルの矛盾がどんどん積み上がり、その矛盾が一気に噴き出したのがリーマン・ショックだった。

 そして、リーマン・ショックで大打撃を受けた金融業に代わる「牽引役」が見当たらないため、英国経済はいまやエコノミストらの間で先行き不安視される存在にまでなっている。

 前述の菅首相のG8発言も念頭に置くと、日本の菅首相率いる民主党政権と英国のブレア元首相率いた労働党政権とは、なにやら共通するところがあるのではないか。

 もっとも、菅首相自身、英国の政治に範をとっているわけだから、そうなるのは当然といえば当然なのだが……。

 いずれにせよ、菅首相の目指す「第3の道」が本家・英国と同様の結果(惨状というべきか)を招かないことを祈るのみである。

2010年 7月27日 日経BP
森永卓郎(もりながたくろう)
1957年東京都生まれ。東京大学経済学部卒。日本専売公社、日本経済研究センター(出向)、経済企画庁総合計画局(出向)、三井情報開発総合研究所、三和総合研究所(現:UFJ総合研究所)を経て2007年4月独立。獨協大学経済学部教授。テレビ朝日「スーパーモーニング」コメンテーターのほか、テレビ、雑誌などで活躍。専門分野はマクロ経済学、計量経済学、労働経済、教育計画。そのほかに金融、恋愛、オタク系グッズなど、多くの分野で論評を展開している。日本人のラテン化が年来の主張。