マレーシア、やぶれたり――。こう書いては、ナジブ首相らに厳しすぎるだろうか。金正男氏の殺害事件をめぐる北朝鮮とのつばぜり合いが一段落しての、評価である。事件からおよそひと月半。主犯は法の網の外に。そして真相はやぶの中に。そんな気配がただよう。
駐北朝鮮大使館員と、子供を含むその家族を事実上の人質にとられての交渉。マレーシア側は苦しい立場だった。おまけにナジブ首相の足元がこころもとない。金銭をめぐる疑惑で批判を浴びながら、強権でしのいできた、というのが実情だろう。「人質」の救出をもとめる世論を重く受けとめざるを得なかった面がある。
そんなこんなで何とも後味の悪い幕引きとなりそうだ。国際政治、とりわけ国家の関与が疑われる犯罪をめぐっては、ありがちな展開といえるかもしれない。とはいえ、これで終わりではない。これから北朝鮮とどうつきあっていくか、マレーシアは問われている。たとえば、ビザなし渡航をまた認めるかどうかの問題だ。
そもそも、北朝鮮との間でビザなし渡航を認めていたこと自体が驚きだった。さすがに今回の事件のあと、マレーシアはこの仕組みを一方的にとりやめていた。両国政府は今後、改めて認めるかどうかについて「前向き」に話し合っていくのだという。いかにも外交的な言い回しではある。先行きに目をこらしていきたい。