社長ノート

社長が見たこと、聞いたこと、考えたこと、読んだこと、

東京新聞 筆洗

2014-01-27 03:15:32 | 日記
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 百六十一億円。驚くより先に怖くなる。田中将大投手が米大リーグのヤンキースと結んだ契約総額である。
 これだけ巨額になるとうらやましいとさえ思わない。想像もつかぬ数字で実感できないのである。むしろ米紙が報じている契約の一部の「引っ越し費用は約三百万円」「住宅手当は年間約一千万円」の方に驚いたりするものだ。
 「二十四勝無敗」。米国報道を見ると、これが田中投手の枕詞(まくらことば)になっている。「二十四勝無敗の田中」「直球はまあまあだが二十四勝無敗で…」。
 どんな小説や劇画にも「二十四勝無敗」の投手はまず登場しない。非現実的だし、面白くないからだ。『巨人の星』の星飛雄馬でさえ、公式戦通算成績は「四十七勝五敗三セーブ」という。漫画データ研究の豊福きこうさんの本にある。
 「夢の数字」と巨額投資への期待はそのまま田中投手には重圧になる。「本拠地でビジターを応援すれば言葉の暴力を受ける。ヤンキースタジアムなら本物の暴力を受ける」。こんな言い方があるそうだ。それほど熱狂的な声援の一方、期待外れだと容赦ないファンを思えば尻込みしたくもなるが、田中投手は逃げなかった。
 「(契約した田中投手の)覚悟と自信に敬意が払われるべきだ」。こう言ったのはイチロー外野手。ヤンキースの怖さと「神の子」の心の強さを「天才」はさすがに分かっているようだ。