精神世界と心理学・読書の旅

精神世界と心理学を中心とした読書ノート

ワン・テイスト(ケン・ウィルバー)

2010-04-10 10:57:44 | K.ウィルバーとトランスパーソナル心理学
◆『ワン・テイスト―ケン・ウィルバーの日記』(コスモス・ライブラリー、2002年)(本書は上下本だが、ここでは全体の書評をする)

1997年1月から7月までのウィルバーの日記という形の本だが、ウィルバー自身によるウィルバーの世界への良き入門書になっている。初めて読む人にとっては、彼の基本的な思想が、日常の活動や瞑想実践への言及のなかに散りばめられ、それほどの努力なしに興味をもって読み進むことができる。

また、すでに彼の本を何冊か読んだ人には、それらとは少し違う文脈のなかで、またウィルバー自身の平易な言葉によって、その壮大なヴィ ジョンの要所を復習できる。そして彼が私たちにもたらした成果の意味を「再発見」させてくれる。  

読者は、日記を読み進むうちにウィルバーの統合的アプローチの意味を再確認するだろう。ウィルバーは言う、「私は人間の知性が100%の間違いを犯すことを信じない。だから、どのアプローチが正しく、どれが間違っているかを問う代わりに、すべてのアプローチが部分的には正しいと仮定する。そして、ある一つを選択し、他を排除するのではなく、そうした部分的な真実をどうしたら一つにできるか、どうしたら統合できるかを明らかにしようとするのである」   

ある評者は、ウィルバーのヴィジョンが「歴史上のいかなる他の体系よりも多くの真実をもたらし、それらを統合するもの」と語る。ウィルバー自身は自分の仕事が「純粋に東と西、北と南を包含する最初の信用できる世界的哲学の一つ」たらんことを願うという。少なくとも私たちは、そういう可能性を担う思想家として、彼を真摯に読む必要がある。  

ウィルバーの他書にない、この本の魅力の一つは、彼自身の瞑想体験が、かなり詳細に語られていることだ。瞑想に関心をもつものとして、この部分からもかなり影響を受けた。さらにウィルバーの思想を、彼の瞑想体験と関連付けて再認識することができる。    

さらに興味深い点の一つは、アメリカの精神状況へのラディカルな批判が随所に見られることだろう。「これまでは純粋な霊的(スピリチュアル)研究にとっての 真の脅威は還元主義者たちであったが、より大きな脅威がニューエイジ運動、いわゆる引き上げ主義者たちから表面化した。これらの人々は、善良かつ慎み深い意図をもっているにもかかわらず、幼児的、幼稚的、自己中心的な状態を取り上げ、単にそれらが『非合理的』であるという理由で、『神聖なもの(セイクレッド)』あるいは『霊的なもの(スピリチュアル)』とラベルを張り替えする。これは明らかに問題である。」  

もちろんここではニューエイジ運動における「前/超の虚偽」が指摘されており、これがウィルバーによる批判の基本的な構図である。具体的にはたとえば「ダイヤモンド・アプローチ」がどのように「前/超の虚偽」を犯しているかを論じている。  

ダイヤモンド・アプローチは心理療法のひとつで、「誰もが生まれたときには、そもそも霊的(スピリチュアル)なエッセンスと接触しており、しかし成長する過程において、そのエッセンスが抑圧され、締め出される」と主張するという。ウィ ルバーはこれを、「前―自我的な衝動と超―自我的なエッセンスを混同している」と批判する。たとえば子どもが無邪気に遊んでいるのを霊的な喜びと混同してはならないという。

しかし、そう言い切ってしまってよいのか。次に書評で取り上げる『光を放つ子どもたち―トランスパーソナル発達心理学入門』などを読むと、このあたりがいちばん議論を呼ぶところと感じる。少なくともすべてを「前/超の虚偽」で整理しようとすると「輪廻転生」などは視野に入りにくくなるのではないか。  

ともあれこの本は、ウィルバーを取り巻く交友関係や内面世界に触れつつ、しかも彼の統合的ヴィジョンがコンパクトに語られており、興味尽きない。


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