精神世界と心理学・読書の旅

精神世界と心理学を中心とした読書ノート

生きる自信の心理学(岡野守也)

2010-06-11 22:35:17 | 心理学全般
◆『生きる自信の心理学―コスモス・セラピー入門 (PHP新書)』岡野守也(PHP新書)

この本は、入門的なハウトゥーものかなと購入を少し迷ったが、読んでたいへん面白かっ た。現代日本の教育の根源的な問題について非常に大切なメッセージがこめられた本だ。

前半は、「身体感覚をとり戻す」「自己能力感を確立する」「自己価値感を確立する」 「認め合う人間関係を作る」等の観点から、シンプルだがなるほどと感じさせるさまざまな ワークが紹介されている。

後半は、現代科学の宇宙論の視点から、宇宙には自己進化、自己組織化に向かう方向性が あり、その方向性の中にその一部として人間も存在するというコスモロジーを提示する。

近代科学の還元主義的な世界観を暗黙のうちに押し付ける現代日本の教育のあり方に対し、 自分の命の意味を納得できるような新たなコスモロジー教育の妥当なあり方を示したと言え よう。もちろん今、自信をもてない若者が読んで自分でワークをすれば自信が取り戻せるよう工夫 されて書かれており、むしろそのように読まれることを主眼としている。

著者が大学生に以下三つの質問をすると、
1)人間は死んだらどうなると思うか?⇒70~90%が、死んだら無になる、灰になると答える。
2)自分がいちばん大切と思うか?⇒70~90%が、ハイと答える。
3)自分に自信があるか?⇒70~90%が、ないと答える。

つまり「自分がいちばん大事だ」と思っているが、「その自分は死んだら無になる」と思 っている。とうことは、自信をもちたいと思っても、その自分はやがて死んで無になるから 頼りにできない。これが現代の若者の自信のなさの一般的な構造だと著者はいう。

死ねば無に帰するという考え方の背景にあるのは、学校教育の暗黙の前提となっている 「物質還元主義科学」、すべてのものは物質的な要素に還元して理解されるという世界像だ。 人間の生命も死ねば、ばらばらな原子に還元されて無となる。これが唯一正しい真理であるかのように教えこまれる。  

「いちばん大事な自分も、死んで無になる」、つまり「最終的に意味がなくなる」、とい う究極の自信喪失=ニヒリズムが、現代日本人の心理の背後にあるというのが著者の推測であ る。

この分析は、構造的に的確だと感じる。かなり確かな事実だと思う。問題は、しかしどう すればよいのかということだ。近代科学的な世界観に対抗できる世界観=コスモロジーをどこに求めればよいのか。たとえそれがあったとして、宗教的なものにアレルギーをもつ公教育の現場で、どう教えればいいのか。

そこで著者が提示するのが、現代科学の最先端の成果をもちいて、ビッグバンから人類の 出現までの宇宙の進化を一貫した流れとして学習することである。そうすることで、コスモス・宇宙の進化は偶然の産物ではなく秩序と方向性がある、その方向性の中に私たちひとりひとりも生きていることを示すことだ。

ワークとしては、宇宙進化の壮大なドラマをイメージ豊かに感じ取るなどの練習が行われ、著者は全体としてこれらをコスモ・セラピーと名づける。その成果にはめざましいものがあるようで、自信がないといっていた参加者たちの90%が自信が湧いて来たと答えるそうだ。

これは、基本的ないくつかのワークを土台にし、「物質還元主義科学」の世界観をくつが えすような宇宙像を実感してもらうワークで、若者の心の中の構造的な自信喪失が克服される結果だろう。

宇宙進化の背後にある大いなる意図のようなものを現代科学の成果をもとにした体系的な 宇宙進化論を通して感じ取ってもらうというのがこの試みだ。私などは、物質還元主義 世界観を超える世界観の提示としては、今ひとつ物足りない。たとえば「死後」というよう な問題には立ち入らないところなど。

しかし、教育現場で宗教的なものに足を踏み込まずに、若者がニヒリズムを打ち破るため には、非常に有効な第一歩だと思った。

現代日本の教育にとってもっとも欠けている面、それゆれに若者の心を蝕んでいる問題を 克服するために、多くの人が受け入れやすい重要なメッセージと素晴らしい方法を提示した本だと思う。


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