精神世界と心理学・読書の旅

精神世界と心理学を中心とした読書ノート

『嘘だらけのヨーロッパ製世界史』02

2007-04-14 21:50:50 | 心理学全般
この本の中心になるのは、ユダヤ人歴史学者マーティン・バナールの、古代エジプト文明の担い手が黒人であったことを論じた話題の書『黒いアテナ』をめぐる論争である。バナールは、近代において古代ギリシアに対するエジプトとフェニキアの影響が無視されるようになったのは、人種差別主義と反ユダヤ主義のせいだという。ヨーロッパの学者は、四大文明のひとつであるエジプト文明が黒人によって担われていたことを認めたくなく、ましてギリシャ文明に多大な影響を与えたことも認めたくない。ここにすでに根深い偏見があるのだが、バナールは、この偏見を鋭い論証によって切り崩していく。しかし、それに対してヨーロッパの学者から、かなりの反論があり、いまだにその論争は続いている。

岸田は、この論争を取り上げ、両方の意見を紹介しならがどちらに分があるかを、彼の唯幻史観にも触れながら論じていく。私にとっては岸田がこの論争と関連させながら、世界史のいくつかの局面を唯幻史観によって論じているところの方が面白かった。

たとえば第4章の「唯幻史観と『黒いアテナ』」では、東京裁判史観批判は、ヨーロッパ中心史観を批判した『黒いアテナ』のバナールの思想に相通じるとし、ユダヤ民族の運命とキリスト教の成立、ローマ帝国におけるキリスト教の国教化、ユダヤ人差別の深層心理、などを論じている。

最近私は、ユダヤ人問題がヨーロッパ史の影の部分、抑圧された無意識の部分と深く重なり合うらしいことをますます感じるようになっている。したがって岸田のこの辺りの分析は、すでの他でも論じられてはいたが、すこぶる興味深かった。次回詳しく紹介したい。