銀河夜想曲   ~Fantastic Ballades~

月が蒼く囁くと、人はいつしか海に浮かぶ舟に揺られ、
そして彼方、海原ワインのコルクに触れるを夢見、また、眠りにつく……

トンボの唄

2006年09月18日 05時22分07秒 | 散文(覚書)
蚊のように

羽音の聞こえない

名もなき明日の

トンボの唄

すこしく止まって

また動き出す



水辺のアメンボに

ルルと言い残し

父が作ってくれた

暁の紙飛行機の羽とは

逆の方へ飛んで行き

おまえはどこから空を見る



畳に寝返り打って

布団は雨ざらし

そんなわたしの鼻に

トンボの唄

その尾のしなやかさが

弱った魚を食ってしまったのか



七輪に焼かれた鱗は

香草よろしく軒先まで這って

わたしの舌にのるけれど

ごうごうと音を立てる夕闇が

おまえをさらうから

舌はまた

なおさら痛む



トンボよ

とある魚がおまえを嘆いていたよ

止まるのは

切り株の上か

軒先の下に広がる空の一点か

どちらかにせよと

とある鱗が焼けながら

昇る煙と袂を絞っていたよ



忙しく羽を震わせ

何ら苛立ちも愚痴も立てない

おまえたちの愛しき言葉に

秋の風が

ただただ一息二息

草を乾かして

乾かして