いま,ケンミジンコの飼い方について書いている.「ケンミジンコの培養」と書いたところ,「培養」ではなく「飼育」だろ,という指摘を受けた.
一般論として,動物なら「飼育」,植物なら「栽培」,細胞や微生物なら「培養」だ.ただし,それは日本語の話.
米国ではケンミジンコの culture(培養,栽培)と呼ぶのが普通だ.日本語で書くなら「飼育」で良いかもしれないが,英語で書くとなると途端に困ってしまう.飼育することをどう表現するか,日本語と英語とで把握の仕方に違いがある.
飼育と培養.以下は私流の「使い分け」方です.
まず,水槽で飼うなら「飼育」.メダカの飼育の延長上にケンミジンコの「飼育」がある.
シャーレで飼うなら「培養」.バクテリアやゾウリムシの「培養」の延長線上にケンミジンコの「培養」がある.
水槽にメダカの餌を入れておけばケンミジンコとか他の生物が殖える.こういう大雑把なやり方が「飼育」.この手法はシャーレ(水の量はわずか15ml)では通用しない.シャーレで「飼育」はムリ.
シャーレで飼うには,純粋にケンミジンコだけにする.餌も1種類にする.たとえば純粋にミドリムシだけを与える.アメーバの「培養」と同じだ.だから私の飼い方は「飼育」ではなく「培養」なのだ.
というのが私説だけれど,あまり賛同を得られそうもない.
写真はケンミジンコ.この個体は腰に2つ,卵の入った袋をぶら下げている.体の前端に赤っぽい点が1つある.これは「眼」です.ケンミジンコの学名はCyclops.ギリシャ神話に出て来る「一つ目の巨人」キュクロプスからとった名前だ.英語読みにするとサイクロプス.
植物食のミジンコと違ってケンミジンコは,けっこう大きな相手でも襲って食べてしまう「ミジンコ界の猛獣」です.しかし,そのぶん行動が面白くて,見ていて飽きない.
ケンミジンコは,たとえばクマムシを食べる.実体顕微鏡で見ていると,クマムシの横をすっと素通りするかに見えたケンミジンコが「あ,めっけ」みたいに反転してクマムシに突進.2匹でぐるぐるぐるっと,もめ合って,1秒後にはクマムシの姿はなくてケンミジンコだけが,文字通り「何食わぬ」顔でたたずんでいる.スローモーションで再現してみたい場面だ.
そういう観察を,多くの人に楽しんでもらえればと思うのだけど,見せる場所や装置などの関係で,なかなか実現できてない.高知に「子ども科学館」ができたら,そのあたりの問題も少しは解決できるかも,と期待している.