ハードボイルドで行こう!

本人はハードボイルドじゃないんですけどね。憧れってところですかね。

~ ハードボイルドで行こう ~ Vol.5

2006-07-15 | 小説
 フィゲラスの街並みは相変わらず乾燥していた。ダリ美術館へ向かう際には全く気がつかなかったが、二階がホテルになっている一軒の小さなレストランを見つけた。来る時の道からは少し脇に外れた細い通りでは見つかるわけはなかった。ちょうどお腹も空いてきたようで、都合のいいことにバルセロナへ帰る列車が来るまでには、まだ時間があった。たいしたものは出てこないだろうと思いながらも、思い切って入ってみることにした。

 木製のドアを押し開けると、そこは小さなBARになっていた。昼間にも関わらず、赤い顔をした男性が数名こちらを見やり、そしてまた自分の世界に戻っていった。レストランではないのかもしれないという不安を拭い、BARの奥の方へ更に進んでいくと、薄暗い中にもいかにもレストランらしいテーブルが数台置いてあった。店内のテーブルや椅子は、全て木製で、壁には先ほど見てきたような前衛的な絵画ではなく、いわゆる印象派と呼ばれるような油絵が飾ってあった。

「Ora!」

それまでその場を支配していた空気(そう感じていただけかもしれないが)を打ち破るような甲高い声が店内に響きわたった。


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