薫コーヒーを楽しみ
優雅に私は新聞を読む
紹介しておこう
私は 探偵 大神 空也
今日も迷える子羊が救いを求めて我が探偵事務所のドアを叩く。
「所長、10時に予約していた有月さんが来ました」
私の優秀なる助手ユリ君が来客を告げた。
「うむ、通してくれたまえ」
ユリ君に連れられ、スーツに身を固めた男が入ってきた。
「初めまして、有月といいます」
有月は、折り目正しく一礼をする。
「私は、深読み探偵 大神 空也です」
「先生のご高名はいつも聞いています」
「まあ、そうでしょう。
自慢話は後でたっぷりするとして、まずは座って下さい」
「・・・はい」
失礼な有月は呆れ気味な顔を一瞬だけだけどした。
ふんっ私は無意味な謙遜などしないのだよ。
なぜなら、私は自分に自信がある真の探偵だからだ。
「今日は是非先生に暴いて欲しい陰謀があるのです」
「ほう、なんですかな」
「これです。
<車離れにスタンドも悲鳴…ガソリン200円時代現実味か
ガソリン200円時代がいよいよ現実味を帯びてきた。
石油元売り各社が6月からガソリンの卸売価格を大幅に引き上げたこと
を受けて、レギュラーガソリンの価格を1リットルあたり170円超と
するガソリンスタンドが登場してきたのだ。原油価格は依然高い水準に
あり、1バレル=150~200ドルを予想する金融機関もある。ガソ
リン高騰は収まる気配がない。>」
ほうっこの記事で来たか。確かにこれは私も最近注目していた。
なかなか、やるな有月、ただの堅苦しい奴じゃないな。
感心しつつも、そんな内心を悟られないように私はクールに先を施す。
「これが」
「おとぼけを、先生なら分かっているはずです。
ガソリンが200円なんて異常です、これは何かの陰謀に違いない。
是非先生の深読みで、この陰謀を暴いて頂きたい」
「陰謀はいいとして、なぜです? あなたはただの一般人でしょ」
「何を言っているのですが、善良なる一市民として陰謀に気付いてしまった以上
気になってしょうがない。いやいや、正義心が許しません」
今、ちらっと本心が出たか。
まあ兎角群衆は陰謀が好きなもの、珍しくない。
「その正義感感心しました。この依頼引き受けましょう」
「ありがとうございます先生」
「感謝するのはまだ早いです。では、深読みを開始します」
私は目を瞑り深く深く読みを始める。
原油高騰
そうなるとどうなる?
アラブの王様うはうは。
違う、こんなのは浅い、全然深読みじゃない
原油とは何か?
原油が無くなるとどうなる?
車が走らなくなる。
石炭会社うはうは。
まだまだ浅いぞ大神。
ミサイルも飛ばない。
数分に及ぶ深読みの後、私はゆっくりと目を開けた。
恐ろしい。
恐ろしい陰謀に気付いてしまった。
これを目の前の一般人に言っていいのであろうか?
「分かりました。確かに秘密結社の陰謀です」
「やはり。それでその秘密結社とは」
「答える前に確認したい、敵はあまりに強大。
知ればあなたの身に危険が及ぶかも知れない、それでも知りたいですか?」
私は真摯に質問した。
数秒の間、有月は答えた。
「危険でも教えて下さい。私はもう無知ではいられない」
「分かりました。
これは、日本とアメリカ、2大秘密結社の陰謀です」
「なんですって、というとフリーメーソンとか?」
「違う、そんなもんじゃない。もっと骨がある組織です。
原油が無くなればどうなると思います」
「う~ん、車が走らなくなるかな」
「そうです、それです。
車が走らなくなる→代わりが必要→ガソリンいらないもの→馬」
「馬?」
「そう馬です。そして馬と言えば、カウボーイ。
これは車に破れたカウボーイ達の陰謀なのです」
「ホントですか?
そんなしかし」
有月はよほど驚いたのか自問自答している。
こんなことでは、もう一つの組織を聞いて大丈夫だろうか。
「落ち着いて下さい」
「すいません、驚愕の事実だったもので、それでもう一つの組織とは」
「原油が無くなって動かなくなるのは車だけではありません。
船飛行機なども動かなくなり、日本人は海外に行けなくなる」
「つまり、日本の海外進出を妨害する外国の陰謀?」
「浅い、浅すぎますぞ有月さん。
日本の海外進出を好ましく思わないのは外国だけじゃない。
つい数十年前にもあったでしょう」
「ありましたかな」
「あるでしょう。
サムライですよ」
「さっさサムライ」
有月から血の気が引いた。
「そうかつて攘夷を唱え鎖国を守ろうと戦ったサムライ達ですよ。
彼らは敗れ地下に潜りはしたが、今この機会に鎖国を達成すべく動き出したのです」
「カウボーイだけでなく、サムライが敵だなんて」
「そうです。
これぞ真の日米同盟。
サムライとカウボーイ、敵はあまりに強すぎます。
悪いことは言いません、今日聞いたことは忘れてしまいなさい」
「我々はもう終わりなのでしょうか?」
「いや、救いはあります。
サムライとカウボーイ、これに勝てるたった一つの希望。
それは」
「それは」
「ヒロインですな」
「ヒロイン!?」
有月は何とも言えない顔になった。
「古来より、サムライもカウボーイも女には弱い。
すなわち、可愛い女の子。
すなわち、美少女。
すなわち、萌え萌え。
すなわち、アキバ産業。
そう世界の命運は、アキバ産業に掛かっているのです。
アキバ産業が、サムライとカウボーイを虜にするヒロインを生み出すのが先か、
日本が鎖国するのが先か。
我々は、残念ながら傍観するしかないのです」
「納得しました」
有月は入ってきたときと違い、憑き物が墜ちたすっきりした顔になっていた。
「私も微力ながら応援する意味を込めて、帰りに美少女コミックを勝って帰ります」
「ええ、そのささやかな応援が奇跡を産むのです」
「では、失礼します」
こうして、私の深読みが今日も一人の迷える子羊を救ったのであった。
このお話は、完全オリジナルのフィクションです。
存在する人物団体とは、一切関係ありません。
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