鏡の前で身嗜みチェック。
鼻毛、よし。
寝癖、よし。
ツメ、よし。
服装、うん普通普通。
これなら街中を歩いていても奇異の目で見られること無いな。
よし、出掛けるか。
「ぎっ」
しまった。僕としたことが体臭のチェックを忘れていた。
消臭スプレーをシュー、自分の体臭だけはチェック出来ないけど
これで、消えたと信じよう。
口臭用のうがい薬でくちゅくちゅ。
今度こそ、ばっちりだろ。
「げっ」
今のうがいで口元が少し濡れている。これでは涎と間違えられて
危ない人と誤解されて、通報されてしまう。
口元を拭いて、今度こそ出発。
「ごっ」
今口元を拭いたことで、・・・。
僕はこの2時間後家を出発した。
街角を歩いている僕と男3人組がすれ違った。
「なにそれ」
「うけるべ」
「ぎゃはははは」
キリキリ。
気になる。
今の笑い声僕を笑ったのか。何か僕の身嗜みおかしいかったかのか?
もしかして、この服流行遅れ?
そうなのかそうなのか。もっとファッション誌をチェックしとくべ
きだった。
キリキリ。
うっ今の通りすがりの人、僕の方をチラッと見たぞ。
もしかして頭の後ろで寝癖でもあったのか?
もっと入念に鏡でチェックをするべきだった。
キリキリ。
あの少女あからさまに僕を避けたぞ。
もしかしてやっぱり体臭が臭かった? 今度からもっと強力な消臭
剤を買わないと。
キリキリ、キリキリ。
街に人がいるところに出るといつもこうだ。胃がペンチで締め付け
られるように痛い。
みんな僕のことを見ている。
ジロジロ見ている。
陰口をたたいている。
うっうっ胃が痛い。
親に相談しても、先生に相談しても、誰に相談しても気にしすぎだと
笑い飛ばされるばかり。
そうかもしれない、事実はそうかも知れない。だが。主観である僕は
そう思わない。
ならば、それは僕にとっては真実なのだ。
このままでは、僕は神経をすり減らして死んでしまう。だから、僕は
思い切ってアンダーグランドで噂になっている天使の相談所に行くこと
にした。
なんでも、ピンクの悪魔が今悩んでいることなどどこかに吹き飛ばし
てくれるらしい。
なんで天使の相談所でピンクの悪魔なのか謎なんだが、この際どうで
もいい。
兎に角この胃の痛みを何とかしてくれ、と思っている内にどうやら目
的地についたようだ。
「本当にここか?」
シックなピンクに塗装されたデザインビルに、「天使の相談所」と看
板が掲げられていた。
果てしなく怪しいけど、胃がきりきりするのを我慢してここまで来た
んだ、入るんだ。入るぞ。
勇気を出して重厚なピンク色のドアを開け中に入った。
「いらっしゃいませ」
パステルピンクに塗装された部屋の中、赤毛の少女が笑顔で出迎えた。
笑顔、笑顔、笑い顔。
笑われた、初対面で女の子に笑われた。
僕の鼻がそんなに低いのか?
今度整形手術を受けて高くしなくちゃ。
「どうかしましたか?」
急に胃を抑えて屈み込んだ僕に少女は心配そうに言う。
「いいえ、大丈夫です」
「そうですか。なら、あちらのソファーに座って下さい。
ボクが悩みを聞きますから」
「失礼ですが、あなたのような若い方がピンクの悪魔なのですか?」
「違いますよ。ボクは助手のサキ。まずはボクが話を聞きます」
「そうですか」
何か気恥ずかしいな。同世代の女の子に悩みを打ち明けるのは、格好
悪い。せめて、もっと年上の人だったら言いやすいのに。
「それで、溜息を付いちゃうような悩みなのですか?」
僕の戸惑いを無視して、いきなり明々後日の方向のことを尋ねてきた。
本当に大丈夫かと疑うが、一応相談に来た身、素直に答えておくか。
「いえ、悩みが深刻過ぎて溜息も付けません」
「それは良かった」
えっ今良かったと言ったのか?
「うんうんいいことだ。
なら、ボクから言える事はただ一つ。
これからも、深刻に悩んで溜息なんか付く間もないほど悩んで下さい」
「何を言っているんですかっ!! 巫山戯ているのですか」
「いえボクはまじめにアドバイスしてますよ。
さあ、さっさと帰って悩んだ悩んだ」
「まだ悩みの内容すら言って無いじゃないですか。せめて話を聞いて下さ
いよ」
「だから~、あなたの為にも早く帰ったほうがいいって」
「だから、せめて話を聞いて」
「だから、帰った方がいいって」
「分かった。そうかそうなんだな」
「分かってくれました」
「はあ~」
僕の溜息にサキは驚きの顔をしている。
「鼻毛ですか? 鼻毛が出ていたから僕の話なんて聞きたくないって事で
すね」
「いえ、そうじゃなくて」
「鼻毛じゃない、なら目やにがあったせいですか。
はあ~折角相談に来たのに身嗜みが甘かったばかりに」
「いや、あのねそういう問題じゃなくて」
「溜息が問題りん」
「なんだっ!」
いきなり足下から発せられた声に驚いて見ると、ピンクの女の子がいた。
完璧に可愛い、360°どこからどう見ても可愛い、このくらい完璧に
可愛いなら、他人の視線なんか気にならないんだろうな~。
「お嬢ちゃんは誰だい?
もしかして、サキさんの子供」
「失礼な。ボクはまだまだ新品純情正真正銘乙女だぞ」
「リンは魔女ッ娘天使りん」
「天使?」
「そうりん。
溜息あるところ参上して悩みをズバッと解決りん」
えっまさか。
「もしかして、君がピンクの悪魔なの!!」
「失礼りん。リンは天使りん」
驚く僕に怒るリン。
まさか、折角勇気出して相談に来たのに、その相手がこんな子供?
「疑っているりん。ならリンに溜息の理由を言うりん。
リンがズバッと解決りん」
こんな娘に僕の繊細な悩みが理解出来るのか? 出来ないだろ。
やっぱり噂なんか信じるんじゃなかった。もう帰りたいが。
ああ、僕を純真無垢な目でジーと見ている。僕が言うのを期待している。
言わないと折角張り切っているリンが可哀想かな~。
なら、物は試し、損は無し、簡単に言ってみるか。
「他人の視線が気になって、胃が痛いんだ」
「分かったりん。任せるりん。
くるくるくるくる~くるくるりん」
いきなり踊り出すリン。
リズミカルにくるくる回って、
その背に純白の翼
その頭に黄金に輝く天使の輪が生まれ出てくる。
この神々しさ、本当に天使なのか?
「マジカルペンチ」
リンの手に虹色に輝くペンチが無から表れた。
これで疑いない、リンは天使なんだ。僕を救ってくれるんだ。
「ズバッと突き抜けろ」
ペンチが突き出され、僕の腹をぶち破った。
「うげえ」
痛い痛い、今までに経験したこと無いくらい痛い。
やがて腹を破ったペンチは僕の胃を掴んだ。
「捕まえたりん。
キリッキリッと締め付けて」
胃が比喩表現じゃなくて、本当にペンチで挟まれて痛い。それもキリキリ
なんて可愛いもんじゃない。
全身から汗が噴き出て、視界が涙で歪む。
痛い痛い痛い痛い痛い。
もう死んでしまいたいほど痛い。
「すぽんと引っこ抜きましょう」
リンはまるでむし歯を引っこ抜くように僕の胃を引っこ抜いた。
ああ、光が見える。
僕はあまりの痛みに全てがホワイトアウトした。
気が付くと僕はソファーの上で寝ていた。
「気が付きました。一応願い叶って、もう誰もあなたのことを気にしませんから」
目が覚めるやサキがそんなことを言う。
今まで相談人達みたいに気楽に言ってくれる。
「何でそんなことが分かるんですか」
散々な目にあって気が立っていた僕は皮肉っぽく言ってやった。
「だって、いない(胃無い)人のことなんて誰も気にしてませんよ」
うわっくだらねええーーーーーーーーーーーーーーーーーー。
ちゃんちゃん
終わり
このお話は、完全オリジナルのフィクションです。
存在する人物団体とは、一切関係ありません。
では、感想待ってるリン。
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