バタンッ
教室のドアを閉め、みんなの視線が遮られた。
やっやちゃったよ僕、調子こいて女の子の唇まで奪っちゃった。
どっと全身から汗が噴き出し、膝に力が入らない。
「まだ、まだへたりこめない」
僕は膝関節を掴んで無理矢理伸ばして、自分を立たせた。
ここまでやったんだ、この勢い殺しちゃ駄目だ。というか、もうこん
な思いしたくないので一気に終わらせたいです。
僕は、ふらふらとよろけながらも、大勝負の仕掛けをすべく歩き出す。
放課後の鐘が鳴り、帰宅部は家へ
運動部はグランドへ
文化部は文化棟へ
それぞれ、輝く青春を謳歌すべく足早に向かっていく。
一気に人口密度が減っていく一般校舎、僕はある教室のドアの前に立った。
「すう~はあ~、すう~はあ~」
深呼吸、深呼吸、ラマーズ法じゃないよ、深呼吸で気持ちを落ち着かせる。
ポケットから、鏡を取り出し、覗き込んで自己暗示。
俺は、大胆不敵、唯我独尊、漢の中の漢、本多 隆司だ。
覗き込む鏡に、不貞不貞しい面構えをした漢が映った。
よし、やれる。
「オッス」
ドアを叩き壊す勢いで開けた。
中には、男女10名ほどの生徒達。
良かったいた。いなかったらどうしようかと思ってた。
でも、みんなの突き刺さる視線にハートを抉られる。
ひるんじゃ駄目だ。
視線何て気にしなければ、ない。
「良く来てくれた諸君。集まってくれて嬉しいよ」
よし、胸を張って偉そうに言えたぞ、掴みはグー。
僕ってもしかして演劇の才能あるかな?
隠れた才能発掘にぷち喜んで教壇まで歩いていく。
「偉そうにするな、こんなもので人を呼び出しやがって」
黒縁眼鏡に7:3と如何にもまじめそうな奴が、手紙を取り出し文句を言ってきた。
え~と、僕は脳内ファイルを検索開始。
この人は去年葵さんと生徒会長の座を争って負けた、3年A組 上条 堅。
兎に角堅い人、だから3年を差し置いて2年の葵さんが生徒会長に成っていること
に反感を持っているらしい。
ちなみに、彼が持っている手紙は僕が出した招待状。
来ないと、どうなるか分からないぞと締めくくっておきました。
「来てくれたということは、我がZ組に興味がるんだろ?」
「無視すると何をされるか分からないから来ただけだ。
時間がもったいない、さっさと用件を言え」
予想通り、昼間立花さんにしたことが、いいダシとなって効いている模様。
いつつつつ、胃が胃が軋む、この僕がちんぴら紛いに脅しをするなんて。
死んだ母さんに顔向け出来ない。でも、悪に徹しないと墓参りも出来なくなってしま
うんです、許して下さい。
どうしても祟るなら、馬鹿オヤジにして下さい。
「では、単刀直入に言う。
君達に、我がZ組に入って貰い、共に打倒 東条院 葵を目指してもらいたい」
「断る」
「いやよ」
「馬鹿らしい」
「めんどくせえ」
etcetc 種類は豊富でも、みんな拒否の返事。
まあ、予想通りの反応です。
ならこちらも用意しておいたセリフが無駄にならないってもんだ。
前向き前向き。
「黙れ!!!
お前等、一生負け犬のまま過ごす気か」
想定シナリオ通り、教壇を叩き付ける大見得を切った。
「……」
迫力は十分だったらしく、静かになった。
よし、この場の主導権を握った。
「もう一度言う。
お前等、一生負け犬のまま過ごす気か?」
一転静かに、言い聞かせるように言った。
「まっ負け犬って」
おっ反論してくるが、多少自覚はあるのか弱々しい。
なら、駄目押しをするか。
「例えば、お前」
黒髪の三つ編み、丸眼鏡、化粧気なし、全くの地味地味な少女を指した。
「えっえ、私ですか?」
自分が真っ先に指名されたのが信じられない様子で、面白いように狼狽えてます。
「西条 百合。君は中学時代は学園一のアイドルだったらしいね」
「えっそうなの?」
「嘘だろ」
他の生徒達が驚きの視線で見る。
まあ、そうでしょうね。こんな地味な人が学園のアイドルだったなんて、僕だって
資料見なきゃ信じられなかったよ。
「翠蘭学園でもアイドルになろうと、意気揚々気合い入れて入学式に出たはいいが」
「いや言わないで」
西条さんの泣きそうな顔に心が痛むが、ここは鬼になる。
「入学式の間中、みんなの注目は葵に集中、ちらりとも見て貰えなかったのが始まり。
その後もアイドルになろうと、服に凝り化粧に凝り髪型に凝りと頑張ったらしいけど、
泣かず飛ばず。その反動なのか、いつの間にか地味キャラになっていたと。
何か間違ってるかな」
「いいえ」
俯いてしまった西条さん。
確実にトラウマを抉られ弱まっている。
押すなら今。
「君は、そのままでいいのか?」
僕は優しく言う。
「そっそれは。
でもでも、東条院さんには敵わない」
西条さんは、それ以上は口を開かなくなった。
あ~嫌だ嫌だ。何で、人の暗部をほじくり返すようなことしないといけないんだ。いい
じゃんねえ、地味に生きる。僕は幸せだと思うけどな。
なんか、一気にブルー、嫌になってきた。
でも、辞めるわけにはいかない。
次は、あんまり心が痛まない奴にしよ。
「そっちのお前」
僕は、ロン毛の茶髪甘いマスクの如何にも女の子にもてそうな奴を差した。
「おっ俺かよ」
「風間 小太郎。
お前、女の子にもてることが自慢、いやそれだけがお前の存在理由。
なのに、葵にはアプローチされるも全く相手にされなかったらしいね。
それって、存在理由否定されてね」
「うぐっ」
「くやしくないの?」
うん、心が余り痛まないや。
君の存在は僕の救いになったよ、感謝。
「後は」
ぐるっと見渡し、残ったメンバーがビクッとするのが分かった。
「ここまでにしておくか。
お前等、残りの人生負け犬のまま、いじけて過ごすのか?
それより、どうよ俺と共に葵にリベンジして、残りの人生すっきり生きようぜ」
ここまで言われりゃ、一人くらい勢いで仲間になってくれないかな。
僕は、期待の眼差しで一同を見る。
誰もが僕の視線を外す中、一人だけ視線を合わせてきた。
氷のような眼光を、伊達眼鏡で隠した銀髪の少年。
「なかなか、面白い話だけど、それもこれも君に実力があればだろ」
今まで一言も口を開かなかった八神 雪が、とうとう口を開いた。
思わず、握り締める手に力がこもる。
来たか、こいつ、こいつだけは別格。
なぜなら今回集められたメンバーの中で唯一、葵さんにコンプレックスを持ってない。
「ふん、まるで俺に実力がないみたいじゃないか」
「どうかな、案外その威勢の良さもハッタリじゃないのか」
ギクッ、すっ鋭い。
流石、この翠蘭学園で、葵さんと互角に戦える可能性のある人物と小菊さん&土方に
言わしめた少年。ただ葵さんとの接点がないので、二人は仲間にするリストから外した
ようだけど、僕は彼のプロフィールを読んで何か引っ掛かった。その引っ掛かりに賭け
て、僕は今回の集まりをぶっ壊される可能性があるにも関わらず呼んだ。
「ハッタリかどうか、ここで白黒つけるか?」
「いいや、来週のマラソン大会で君の真価は見せて貰うよ。
そこでもし君に何か感じたらZ組に入ろう」
「ほう、俺を試す気か」
「まあ、大将を見定めるのは部下の権利だろ。
みんなもそれでどうだ?」
やっぱり、やっぱりだ。
これがあったから、葵さんにコンプレックスが無くても仲間になってくれる可能性が
あると思えたんだ。
僕の勘は的中。
こいつは、自分にコンプレックスがある。
それを、もしかしたら僕がコンプレックス克服の切っ掛けになると思っている。
「私も」
「僕も」
「俺も」
付和雷同的に雪に賛同するみんな。
いいよ、いいぜ。こうなら一挙に吊り上げてやるよ。
「いいだろう、その話し乗った。
存分に俺を見定めるがいいさ。
だが、その代わり部下になったら扱き使ってやるからな」
「楽しみにしてるよ」
それだけ言うとみんな席を立ち、教室から出て行く。
僕もこれ以上は引き留めない。
後は結果を出すだけ。
さあマラソン大会、本気で負けられなくなりました。
つづく
このお話は、完全オリジナルのフィクションです。
存在する人物団体とは、一切関係ありません。
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