「いらっしゃい」
「オヤジ、竹輪とはんぺん、大根。それと冷酒」
暖簾を掻き分け大神は屋台の席に座ると同時に注文。
「今日はお一人で」
「当たり前だ。漢とは孤独を愛するのさ」
大神は飲む前から自分のセリフに酔っている。
「なるほど」
さて、おでんの屋台の主は、知的さを漂わす静かな応対。
顔もオヤジなどと呼ばれるのは、不似合いな、二十代半くらいで
爽やかな顔立ちをしている。いわゆるハンサム。
しゃれたカクテルバーの方が似合いそうである。
「はい、ロックで」
「うむ」
大神は、グラスに注がれたウィスキーを一気の飲み干す。
「効くな。だが、やはり漢はロックだな」
「今日は、漢に拘りますね。
はい、卵です」
「おお。からしある?」
「どうぞ」
出されたのは緑色をしていて、匂いを嗅ぐとツンと来る。
「まあな。最近現代に生きる殿様がいることを知ってな。
やっぱり自分のスタイルを貫くのは美しい。それでオヤジの
店で飲みたくなった」
ちなみに、大神には自分は現代に生きる漢、ハードボイルドを
貫いていると自分で思って信じている。
「なるほど。それで旦那を唸らす殿様とはどんなかたで」
「そうか聞きたいか。
< 「休みたいならば辞めればいい」――。そう会見で述べたとされる
日本電産の永○重信社長の発言> 」
「へえ~凄いですね。
僕ならその場でぶん殴って辞めてますね」
「まあ、君も己の道を貫く者だから仕方ないな」
「それで、どこいら辺が殿様なので?
僕にはただの資本主義の搾取に見えますが。
はい、昆布です」
「おお、すまんね。
何を言う。彼こそ殿様だよ」
「どこがですか? 無学な僕にはわからないのです」
「つまりだな。
お家のためなら個を消して忠義に生きるのがサムライ。
滅私奉公、会社のために生きる、つまりサムライ。
ここの社員はサムライだよ。
ならばサムライが仕えるのは殿様しかないじゃないか」
「なるほど、見事な論法で」
「最も、流石の彼も現代に合わせて優しいがな」
「優しいのですか?」
「ああ、昔なら。
脱藩者は死刑。
抜け忍も死刑。
新撰組を抜けた奴も死刑。
でも、彼は一応辞めたければ辞めていいといっているじゃないか。
会社の重要秘密を持って条件のいいライバル会社に行っていいと言って
いるんだ男のさりげない優しさだね。
それにこんな発言したんだ。労働基準局に訴えられたらアウトだよ。
社員も辞めるついでに訴えて慰謝料貰いたい放題。
更に更に、一度辛い経験して別のちょっといい会社に行くと天国に思えて、
その後の人生Happyになるぞ。
なんてサムライ想いの殿様なんだろうな」
「なんか後ろ向き」
「何を言う人生の幸せなんて、そんなものだよ。
やはり一度底を経験しないと幸せの価値が分からないものさ」
「そうですか。
他にご注文は」
「いやもういい。
漢とは微酔いで引くものさ」
結局大神が注文した物は一個も出てこなかった。
彼こそ客の注文を全く聞かない我が道を行くオヤジ。
よく潰れないものだと感心。
「ではお勘定」
「ツケで。
漢とはツケの効く馴染みを一件は持っているものさ」
「ちょっと裏来いや」
豹変したオヤジ、底に好青年の顔はない。
うん、世の中甘くない。
「オヤジ、竹輪とはんぺん、大根。それと冷酒」
暖簾を掻き分け大神は屋台の席に座ると同時に注文。
「今日はお一人で」
「当たり前だ。漢とは孤独を愛するのさ」
大神は飲む前から自分のセリフに酔っている。
「なるほど」
さて、おでんの屋台の主は、知的さを漂わす静かな応対。
顔もオヤジなどと呼ばれるのは、不似合いな、二十代半くらいで
爽やかな顔立ちをしている。いわゆるハンサム。
しゃれたカクテルバーの方が似合いそうである。
「はい、ロックで」
「うむ」
大神は、グラスに注がれたウィスキーを一気の飲み干す。
「効くな。だが、やはり漢はロックだな」
「今日は、漢に拘りますね。
はい、卵です」
「おお。からしある?」
「どうぞ」
出されたのは緑色をしていて、匂いを嗅ぐとツンと来る。
「まあな。最近現代に生きる殿様がいることを知ってな。
やっぱり自分のスタイルを貫くのは美しい。それでオヤジの
店で飲みたくなった」
ちなみに、大神には自分は現代に生きる漢、ハードボイルドを
貫いていると自分で思って信じている。
「なるほど。それで旦那を唸らす殿様とはどんなかたで」
「そうか聞きたいか。
< 「休みたいならば辞めればいい」――。そう会見で述べたとされる
日本電産の永○重信社長の発言> 」
「へえ~凄いですね。
僕ならその場でぶん殴って辞めてますね」
「まあ、君も己の道を貫く者だから仕方ないな」
「それで、どこいら辺が殿様なので?
僕にはただの資本主義の搾取に見えますが。
はい、昆布です」
「おお、すまんね。
何を言う。彼こそ殿様だよ」
「どこがですか? 無学な僕にはわからないのです」
「つまりだな。
お家のためなら個を消して忠義に生きるのがサムライ。
滅私奉公、会社のために生きる、つまりサムライ。
ここの社員はサムライだよ。
ならばサムライが仕えるのは殿様しかないじゃないか」
「なるほど、見事な論法で」
「最も、流石の彼も現代に合わせて優しいがな」
「優しいのですか?」
「ああ、昔なら。
脱藩者は死刑。
抜け忍も死刑。
新撰組を抜けた奴も死刑。
でも、彼は一応辞めたければ辞めていいといっているじゃないか。
会社の重要秘密を持って条件のいいライバル会社に行っていいと言って
いるんだ男のさりげない優しさだね。
それにこんな発言したんだ。労働基準局に訴えられたらアウトだよ。
社員も辞めるついでに訴えて慰謝料貰いたい放題。
更に更に、一度辛い経験して別のちょっといい会社に行くと天国に思えて、
その後の人生Happyになるぞ。
なんてサムライ想いの殿様なんだろうな」
「なんか後ろ向き」
「何を言う人生の幸せなんて、そんなものだよ。
やはり一度底を経験しないと幸せの価値が分からないものさ」
「そうですか。
他にご注文は」
「いやもういい。
漢とは微酔いで引くものさ」
結局大神が注文した物は一個も出てこなかった。
彼こそ客の注文を全く聞かない我が道を行くオヤジ。
よく潰れないものだと感心。
「ではお勘定」
「ツケで。
漢とはツケの効く馴染みを一件は持っているものさ」
「ちょっと裏来いや」
豹変したオヤジ、底に好青年の顔はない。
うん、世の中甘くない。