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物語を食べて生きてます

アニメや小説など物語に感謝を込めて

深読み探偵大神空也 ふぁいる三十六 殿様

2008-04-27 22:45:16 | 深読み探偵 大神空也
「いらっしゃい」
「オヤジ、竹輪とはんぺん、大根。それと冷酒」
 暖簾を掻き分け大神は屋台の席に座ると同時に注文。
「今日はお一人で」
「当たり前だ。漢とは孤独を愛するのさ」
 大神は飲む前から自分のセリフに酔っている。
「なるほど」
 さて、おでんの屋台の主は、知的さを漂わす静かな応対。
 顔もオヤジなどと呼ばれるのは、不似合いな、二十代半くらいで
爽やかな顔立ちをしている。いわゆるハンサム。
 しゃれたカクテルバーの方が似合いそうである。
「はい、ロックで」
「うむ」
 大神は、グラスに注がれたウィスキーを一気の飲み干す。
「効くな。だが、やはり漢はロックだな」
「今日は、漢に拘りますね。
 はい、卵です」
「おお。からしある?」
「どうぞ」
 出されたのは緑色をしていて、匂いを嗅ぐとツンと来る。
「まあな。最近現代に生きる殿様がいることを知ってな。
 やっぱり自分のスタイルを貫くのは美しい。それでオヤジの
店で飲みたくなった」
 ちなみに、大神には自分は現代に生きる漢、ハードボイルドを
貫いていると自分で思って信じている。
「なるほど。それで旦那を唸らす殿様とはどんなかたで」
「そうか聞きたいか。
< 「休みたいならば辞めればいい」――。そう会見で述べたとされる
日本電産の永○重信社長の発言> 」
「へえ~凄いですね。
 僕ならその場でぶん殴って辞めてますね」
「まあ、君も己の道を貫く者だから仕方ないな」
「それで、どこいら辺が殿様なので?
 僕にはただの資本主義の搾取に見えますが。
 はい、昆布です」
「おお、すまんね。
 何を言う。彼こそ殿様だよ」
「どこがですか? 無学な僕にはわからないのです」
「つまりだな。
 お家のためなら個を消して忠義に生きるのがサムライ。
 滅私奉公、会社のために生きる、つまりサムライ。
 ここの社員はサムライだよ。
 ならばサムライが仕えるのは殿様しかないじゃないか」
「なるほど、見事な論法で」
「最も、流石の彼も現代に合わせて優しいがな」
「優しいのですか?」
「ああ、昔なら。
 脱藩者は死刑。
 抜け忍も死刑。
 新撰組を抜けた奴も死刑。
 でも、彼は一応辞めたければ辞めていいといっているじゃないか。
 会社の重要秘密を持って条件のいいライバル会社に行っていいと言って
いるんだ男のさりげない優しさだね。
 それにこんな発言したんだ。労働基準局に訴えられたらアウトだよ。
 社員も辞めるついでに訴えて慰謝料貰いたい放題。
 更に更に、一度辛い経験して別のちょっといい会社に行くと天国に思えて、
その後の人生Happyになるぞ。
 なんてサムライ想いの殿様なんだろうな」
「なんか後ろ向き」
「何を言う人生の幸せなんて、そんなものだよ。
 やはり一度底を経験しないと幸せの価値が分からないものさ」
「そうですか。
 他にご注文は」
「いやもういい。
 漢とは微酔いで引くものさ」
 結局大神が注文した物は一個も出てこなかった。
 彼こそ客の注文を全く聞かない我が道を行くオヤジ。
 よく潰れないものだと感心。
「ではお勘定」
「ツケで。
 漢とはツケの効く馴染みを一件は持っているものさ」
「ちょっと裏来いや」
 豹変したオヤジ、底に好青年の顔はない。
 うん、世の中甘くない。

 

深読み探偵大神空也 ふぁいる三十五 日本人の美徳

2008-04-19 01:00:57 | 深読み探偵 大神空也
 昼下がりの大神探偵事務所、それは穏やかに始まった。
「我が探偵事務所の財政レベルは破産企業並みなのだ」
 大神は、突然誰もいない方向に向かってしゃべり出した。
「くくっっく、口惜しい。口惜しいが、それが事実」
「突然大声で独り言言い出して、熱でも出たんですか?」 
大神を不憫と思ったのか、ユリは優しく突っ込みを入れてあげた。
「ああ、済まないユリ君、これは独り言なので気にしないでくれたまえ」
「じゃあ、気にしませんね」
「うん、気にしないで。 あくまでこれは独り言です。 
 経営は苦しいのだ。私の財布も苦しいのだ。 
 分かってくれとは言わないが、どうにもこうにも苦しいのだ~♪」
「あの~、もしかしてその独り言三日後の給料と関係してます」
「おっ流石ユリ君は、大和撫子、美しき日本人の伝統の心があるね」
「そんな美しい伝統はありまえん」
「何を言う。これは美しき伝統の心で、今でも日本人の心に残っているぞ。
 隠語で自分の卑下し訴えて、相手もその心を察してあげる。 
 これぞ日本人の美しき伝統の心」
「回りくどいだけっしょ」
「これだから最近の若い者は嘆かわしい」
「いいえ、所長の方が嘆かわしいのでは。 
 そもそも隠語で卑下というのが、なんとも」
 ユリはもう情けなくて涙でそうっていう溜息を吐いた。
「何を言うこれぞエリートの謝り方ではないか、
 これをみろ。
   << 財務省、国の財政は夕張以下 試算示す>>
財務省は18日、国の財政が財政破綻(はたん)した北海道夕張市よりも
         遙かに厳しい状況
に置かれている、との試算を財政制度等審議会(財務相の諮問機関)に示した。
09年度の予算編成に向けて国の財政が極めて厳しいことをアピールすることで、
地方自治体からの地方交付税増額要請を牽制する狙いがあるとみられる」
「また役人の予算ぶんどり合戦ですか。
 それでこれのどこが、日本人の心なんですか」
「君もこれの隠された卑下を読みとれないのか、ならばこの深読み探偵が
訳してあげよう。

 すいませんすいません、自分達の能力がなくて調子こいて無駄遣いしていた
せいで、国の予算借金まみれになってしまいました。
 全部自分達が悪いです。
 ですから申し訳ありませんが、あなたに予算回せません。
 すいません、全部無能が自分が悪いんです。

となるわけだ、分かったかな」
「どう捻くれればこういう解釈が」
「何を言う、国が借金まみれになったことなど、誰の責任も何も国の役人の所為
だといいことは、深読みしなくても分かる。
 つまりだ、隠語で自分達が無能でしたと言っているのだよ。
 おおこれぞ、日本人の謙譲語の極意。
 自分を落として相手を高めるだ。こんな芸当外人には出来まい」
「全然分からないっしょ」
「これだから、最近の若い者は」
「ちなみに私も分かりません」
 ニッコリ笑ってユリは言った。
「何と言っても私も若いですからね」
 まるで自分は永遠の17才とでも断言する笑顔。
「ああ、そうだね。ユリ君は若いよピッチぴちだよ。
 でも大和撫子我の心はあるよね」
「残念でした~私帰国子女なので」
 ニッコリにっこりユリ。
「え~と、椿君」
 助け船を期待する大神。
「最近の若い者なので、逃げるっしょ」
 椿逃亡。
「さあ、二人っきりになったことですし。
 話し合いましょ。
 それはも~う、外国的に」
「いや~私は日本式が良いな」
「いえいえ、今やグローバル化ですからね」

 この後大神がどうなったかは、ご想像にお任せします。

深読み探偵大神空也 ふぁいる三十四 やはり情報は武器

2008-04-15 00:48:39 | 深読み探偵 大神空也
「椿、これより、現代忍法を伝授する」
「はい」
「忍法、他人のメール盗み見」
 さっさと大神と椿はユリがいないことを確認。
  さっさとパソコンのメールを立ち上げ、読み読み。
「うむうむ、業務以外に、やや友達からメールが数件」
「師匠これは、プライバシー侵害っしょ?」
「違う、こうやってライバルが握る会社の重要情報をゲットするのだ。
 所詮管理なんて甘いもの。パスワードも掛けずに席を離れるなど、間抜け。
 激烈ならサラリーマン社会に生きる資格無し」
「分かったす師匠。
 これなんか彼氏からのメールっしょ」
「どれどれ」
「誰が資格がないのですか?」
 パソコンに夢中になっていた大神と椿、真っ青になった顔で振り返ると
 それはそれは恐ろしい笑顔のユリがいたとさ。
「で、何でこんな事をしたのか一応いいわけを聞きましょうか?」
「それはですね。
 これです」
 死神にでも会ったかのような顔付きで大神は記事を出した。
< 定年後に振り返ると「忍」
 今回調査対象となったのは、2007年に定年を迎えた団塊世代(1947~49年生まれ)の既婚あるいは子どものいる男性サラリーマンで、サンプル数は300名>

「この記事とプライバシー侵害がどう繋がるのかしら?」
 ニッコリ微笑むユリ、げっそりとする大神。
「いやですからね。
 サラリーマン人生を振り返れば「忍」すなわち忍者。
 情報を制する者が出世を制すると言うことで、椿君に会社の同僚の秘密を暴く
忍術を伝授してあげていたのですよ」
「ふ~ん、そうなんですか。
 それで、私のメールを勝手に見たと」
「はい、セキュリティーの甘い奴はサラリーマン社会を生き残れないということ
をですね、椿君の将来のために教えてあげたのですよ」
「そうですか。
 なら私も椿ちゃんに社会で生き残る知恵を教えてあげるね」
「はい、お姉様」
 椿はガクガタブルで肯く。
「それはね。こういう舐めたことをする人がどうなるか、物理的に示すのです。
 そうするとね。あら不思議、自然と一目置かれるわよ」
 ユリはうふっと笑って大神に詰め寄り。
 
 ここからは自主規制です。

「どう分かった椿ちゃん」
「はい、一生ボクはお姉様に付いていきます」
 椿は逆らっちゃいけない人の存在を身に染みて悟ったのでした。





深読み探偵大神空也 ふぁいる三十三 愛の鞭

2008-04-11 23:51:05 | 深読み探偵 大神空也
「断固抗議っす。認められないっしょ」
「ふん、そんな怖い顔してもだーーめ」
 椿の抗議をよそ風に流す大神。
「屁理屈っしょ。所長は大人、大人の対応を求めるっしょ」
「何を言う。私は十分大人さ」
「子供子供子供」
「何を二人で言い合っているのですか」
 見かねたユリが仲裁に入ってきた。
「うわ~ん、ユリ姉さん聞いて欲しいっす」
「どうしたの?」
 胸に抱きつく椿の頭をいい子いい子で撫でるユリ。
「今日、おやつにケーキ奢るって言ったのに、奢れないって言うんすよ。
 ひどいっしょ、約束破りっす」
「何意地悪してるんですか」
 背筋も凍り付く視線で睨むユリ。
「待て待て人聞きの悪い、私は約束を破ってないぞ。
 私は、こう言ったのだ。
『明日、私人 大神 空也がケーキ奢ってあげよう』
 だが、ここは事務所、ここにいる私は公の人、探偵大神空也なのだ。
 つまり、ここにいる限り、奢りたくても奢れないのだ」
 大神、胸を張って大威張り。
「なに子供の屁理屈言っているんですか」
「そうっす。てっきり詩人かと思ったっす」
「何で探偵たる私が詩人なのだ」
「いや、所長スーパーフリーマンだし」
 しれっと言い切る椿。
「絶対に奢らん。今日は残業、事務所から一歩も出ない」
「所長、言いたくないけど大人になって下さい」
 ユリは大きな溜息を付いた。
「ふん、私は鍛えてあげているのだよ。
 これを見た前、大人の世界は子供の屁理屈に満ちている。

<路上喫煙防止条例あるのに… 草津市役所庁舎入り口に灰皿>
  4月から県内初の路上喫煙防止条例を施行した市役所庁舎入り口に、
灰皿が設置されたままになっている。
 市は「市役所の敷地は条例の対象外」と説明しているが、多くの市民が
出入りする場所で、「路上が駄目で、ここがいい理由が分からない」と
疑問の声も上がっている。

 分かるかね。これぞ大人の対応なのだよ。
 重箱の隅を突いて、言い逃れる。
 決して道徳や倫理など通用しないのだよ。これから、こういう感じで
もっと悪質な屁理屈の被害に遭わないように鍛えてあげたのだよ。
 これぞ親心。
 この市役所も市民の皆さんにそれを教えてあげようと親切にも鍛えてく
れたのだよ。
 決して片付けるのが面倒とか、片付けるの忘れ引っ込みが突かなくなっ
たとかではないのだよ。
 あくまで市民を思う愛の鞭」
「分かりました」
 と納得した顔で時計を見るユリ。
「ん?」
「3時になりました」
「ああ、なったね」
「確か、規定では休み時間ですね」
「ああ」
「つまり、会社の束縛から離れる時間、つまり私人ですね」
 ニッコリ、ユリさん。
 脂汗たらたら、大神さん。
「約束は守りますよね、大神 空也なら」
「もちろんだとも。
 椿君、これが私が鍛えてあげた結果さ」
「いい椿ちゃん。駄目な男といると自然と女は鍛えられるのよ」
 大神の声を塗りつぶすユリ。
「分かったっす。ユリ姉さんに付いていくっす」
「じゃあ、行きましょう」
 二人して仲良く腕を組んで事務所を出て行こうとする」
「あれ、俺は?」
「大丈夫ですよ。ちゃんと請求書は持ってきますから。
 約束には一緒に食べるとはなかったんでしょ」
 ぱたん。
 一人残された大神でした。
「また、このパターンかよ」
 大神の絶叫が木霊した。




深読み探偵大神空也 ふぁいる三十二 宰相は誠実な人

2008-04-04 00:03:21 | 深読み探偵 大神空也
 春の日差しが窓から差し込む、大神探偵事務所。
 窓を開ければ、気持ちいい風が吹き込んでくる。
 そっと耳を住まえば今日も今日とて、所員の会話が響いている。
「商売で一番大事なことは何か、分かるかな」
「はい」
「ではユリ君」
「信用では」
「おしいが違う。
 まあ、綺麗事はいいです」
「はいはい」
「元気だね、椿君」
「金っっしょ」
「うん、ストレートに核心突きすぎ。
 まあ金がなくては、商品も仕入れないない現実があるが」
「では、なんですが」
「ズバリ、古来よりの格言に集約されたこと言葉に尽きる。
 『羊頭狗肉』」
「え~と何が言いたいのですか」
「言葉が難しすぎて分かんないっす」
 意味が分かって頭を悩ます者と分からなくて悩む者、それぞれ一人づつ。
「難しいことはない。
 ズバリ商売は看板が大事だと言うことだ。
 中身が何であろうが、看板が良ければ商品は売れる。
 これは、こういった商売の含蓄が込められた格言なのだよ」
「はあ~それで最初の話とどう繋がるのですか?」
 そもそも、この会話。
 春の日差しに大神が宰相は誠実な人だな~と発言したのに始まる。
「なに、これだけ言ってもまだ分からないのか。
 ≪ <長寿医療制度>宰相が名称の変更指示 ≫
 この記事を見ても分かるとおり、宰相も看板の大事さが分かってらっしゃる。
 すなわちこれはだな、わざわざ後からいいイメージの名前を言うことで、敢えて
国民の皆さんに、これは狗頭苦肉だと悟って貰ったのだよ」
「名称と中身は関係ないのでは~」
「それは甘いぞゆりくん。
 もし宰相がイケメンで、
 毎日毎日毎日毎日テレビに出て爽やかに
 長生き出来て良かったね健康保険、始まります。
 おばあちゃん長生きして下さいね。
とでもいって見ろ、ころっと騙され洗脳されて喜んで保険料払うか知れないぞ。
 所詮、石もメッキで金となるのが、この夜の摩訶不思議。
 メッキが剥がれなければ、それは金なのだ。
 マスゲームの原理」
「また、屁理屈を」
「壮大すぎるっす」
 呆れ顔一つに、感心しすぎて放心顔一つ。
「なのに、宰相は敢えてイメージを悪くなるようになるように振るまい。
国民に真実を悟って貰おうとした。
 彼こそ、歴代宰相No1 誠実くんかもしれんな。
 さあ、宰相を誠実な人とを崇め奉ろう」
「知ってます?」
 ユリが問いかけた。
「何をだいユリ君」
「そういうのって、褒め殺しって言うんですよ」

深読み探偵大神空也 ふぁいる三十二 踊るポンころりん

2008-03-29 11:14:56 | 深読み探偵 大神空也
ズッズずーーーーーーーー
 カップラーメンを啜る音が事務所に響く
カリッコリッ
 チョッコレートを砕く音が事務所に響く
「こらっ二人とも」
「ん?」
「なんすか」
 麺が口から伸びる大神
 チョコを加えたままの椿
「なんだじゃないでしょ。
 そんな昼間から、好きなようにカップラーメン食べたり
  チョコ食べたり。
 メタボになって健康に悪いですよ」
「「ふっ」」
 二人はユリの注意に恐縮するどころか、
  同時にユリを哀れむような眼差し。
「なんですか、その目は」
「今健康に悪いと言ったのかね」
「そうですよ」
「悲しいな椿君」
「悲しいっしょ所長」 
「悲しくなんかありまえんっ」
 折角注意してあげたのにこう言われてはユリも頭来た。
 机をぶっ叩き、髪を逆立て怒髪天をつく。
「君は美人で聡明な人だ」
「そうそう、ユリさん優しいし頼れるし」
「尊敬していた」っしょ」
「ああらそう」
 髪は一気に枝垂れ、頬ちょっと緩む。
「何も君までもが、踊らされる大衆だったとは」
「なんですか、その言い方」
「これを見た前、
 『コレステロール、低い方が危険=男性は高いほど死亡率減る』」
「あらこんな説が出たんですね」
「どうだ驚いただろ。
 アレだけない方がいいと言い、健康ブームなので騒いでも、
 暫く立てばこのざまだ。
 思えば、今まで何度こうやって大衆は騙されてきたことか。
 大豆しかり、ワカメしかり」
「そうっしょそうっしょ。
 その内、チョコレート食べ過ぎたら虫歯予防にいいとか、
  ダイエット効果があるなんて説もでるっしょ」
「すなわち。我々は悟った」
「悟ったしょ」
 大神と椿、手を取り合いくるくる回ってはいストップ。
「人間食べたいもの食べた方がいいと言うことだよ、ユリ君」
「なのっしょ」
「人間はうまくできている。
 必要な食べ物は体に聞けば教えてくれる」
「教えてくれる」
「だから目を瞑り」
「閉じて」
「静かに耳を澄ませれば」
「胸に手を当て聞きましょ」
 大神と椿は胸に手を当て、黙祷をしているみたいに静かになる。
「私はラーメンが食べたい」
「ボクはチョコが食べたいと」
「「体が教えてくれた」」
「だから?」
 ユリは全力で呆れた顔で静かに問いかける。
「まあ、食べたいものを食べた方がいいという説をだな」
「科学的根拠は」
 ユリの目がスッと細まる。
「その科学的根拠が二転三転するから~」
「自分の好きなようにすると」
「まあ、そのように前向きに検討したんですよ」
 しどろもどろになりながらも、必死に自説を政治家のように述べる大神。
 椿は、さっさと逃げていた。
「分かりました。
 折角たまにはとお弁当作ってきましたが、所長はラーメンが食べたいそうだから
いらないんですね」
 ちなみにユリ、その気になると料理はうまい。
  ただ滅多にその気にならないけど。
「いやそんなことはっ」
「踊らされた私は健康に良さそうなレパートーリーをチョイスしたので、
当然所長はいらないですよね」
「いや、健康にいいものは本当にいいのかもしれなくて」
「折角近くの公園で桜を見ながらでもと思いましたが、分かりました。
 椿ちゃん」
「はい、お姉様。
 ご免なさい、椿が間違ってました。
 そこの変なおじさんに騙されただけです」
 椿は素直に頭を下げて謝り、ちゃっかり大神の所為にする。
「あっきったねーー」
「じゃあ、行きましょうか椿ちゃん」
「いくっす。
 嬉しくて椿の胸はドッキドキのワックワクだー」
「あら、嬉しい事言ってくれるのね」
「あちょっと」
 バタンと無情にドアの閉まる音が響く。
 一人残った大神、その前には伸びたカップラーメンだけがあった。 

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深読み探偵大神空也 ふぁいる三十一 政府の陰謀を暴く

2008-01-23 15:59:20 | 深読み探偵 大神空也
「自由の対価は幾らだと思うかね?」
 あの大神が、哲学者の如き皺を額に刻んだ顔で問う。
「どうしたんですか、新年一発目から真剣な顔して」
 パソコン画面から顔を上げるユリ。
「ボクはいつでも、ゆるゆるフリーダムっしょ」
 椿が得意気に返答。
 その顔を大神は悲しそうに見詰め、問う。
「椿君は、幾つだっけ?」
「女性に年齢聞くのは失礼っしょ。
 でも、特別に教えてあげるっしょ。
 花も恥じらう、ぴちぴちセブンティーン」
「可哀想に、・・・・・・・・・・・・・・・・
 うぷうぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷ」
「なっなっ何がおかしいっす。
 ムッカムカだぞー」
 椿が手を振り上げ抗議。
「いやすまんすまん。
 もう成人している私やユリ君には関係ないが」
「それは暗に私が年を取っていると言いたいのですが」
 絶対零度の魔眼、ユリの瞳が大神を震え上がらせる。
「ちょちょっとユリ君。そんなどこかの永遠の17歳自称する
ような人のような怒りを。
 ねえ、ちょっとそんな怒らない。
 ユリ君は若い、もう若い。うん、ぴちぴちだよ」
 必死に命がけでユリを褒める大神、威厳無いな~。
「まあいいでしょう。
 で今度は一体どうしたんですか」
「まずは、ビルの窓から街を見下ろしたまえ」
 ユリが窓から見ると、街には高校生くらいの若者が生き生きと
青春を謳歌していた。
「これが?」
「あの若者達は、親の庇護下、青春を満喫している。
 時には、社会に反抗したりして酒や煙草を吸うときもあるだろう」
「ボクはお酒飲まないっす。以前飲んで酷い目にあったっしょ」
「それは、鎖に縛られたことに対する反抗」
 大神、椿は無視。
「だが、その鎖が今なくなる。
 これを見よ。

<成人>18歳から? 法務省が法制審に諮問へ
  「成人」の年齢を20歳から18歳に引き下げる民法改正の是非について、法務省は2月に法制審議会へ諮問する方針を固めた。07年の通常国会で成立した、憲法改正手続きのための国民投票法が投票権者を原則18歳としたことに伴うもので、約1年かけて議論し、結論を出す予定。改正されれば契約や結婚のほか、飲酒、喫煙など他官庁が所管するさまざまな分野に影響しそうだ。(毎日新聞)

「あらそうなんですか?」
「ボク来年には大人っすか」
「その通り、椿君君は来年には、未成年ということで縛られていた
鎖から解き放たれる」
「スーパーフリーダムっしょ。
 フリーフリーフリー、ボクは自由だ」
「と喜ばせといて、これぞ政府の陰謀。
 煙草と酒を飲める権利を得る変わりに」
「変わりに」
「当然。
 年金治めないとね」
「絶対貰えない年金払わないといけないっすか」
 椿顔面蒼白。
「その通り。
 貰える年齢が上がり、払う年齢が下がることになる。
 これぞ自由を与えるという名の元に隠された、政府の増税計画なのだ」
「そんなっしょ」
「しかも、これで高校の卒業式に記念に馬鹿をやろうものなら」
「やろうものなら」
「即刑務所だな。
 今までは未成年で大目に見て貰えてたのに。
 これで伝統行事、お礼参りはなくなるな」
「それ、伝統行事なんですか?」
「今までは、高校を出てあっちこっち散っていた者達を集める意味で
 成人式は地元の役所がやっていたが。
 今度はみんな高校在学中に成人式だから。
 高校でやるんじゃないか、地方自治体も予算削減。
 親も学校の制服でいいから予算削減、あっでも着物業界は反対するかもな。
 しかも成人式で馬鹿をしたら、進学に響くから出来なくなるだろうし。
 まあ、政府もいつまでも子供の面倒を見てられないから、
 さっさと大人になってくれということだな」
「しかし、未成熟の若者を守るという建前は?」
「さあ、そんなの時代の都合だし。
 第一、今の時代30過ぎたって未成熟な奴はいっぱいいるからな。
 いっそのこと、グローバル時代に合わせて、
 大人と子供はボーダレスの方がいいのでは。
 おおっ今凄く学術的な事言った。
 早速本にしてしゅっぱんだーー大儲け」
 早速デスクに向かう大神。
「まあ、こんな人がいますからね」
「ううっボクらの権利は?」
「泣かない椿ちゃん、いいこともあるわよ」
「なんすか?」
「そうね。
 ティーンエイジャーで大人の女性と呼ばれるわよ」
 なぜかいじわるそうに言うユリ。
「うれしくないっしょ」
 
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深読み探偵大神空也 ふぁいる三十 研究成果は?

2007-12-19 23:14:28 | 深読み探偵 大神空也
「研究成果がフィードバックされてないようだな」
 新聞を読んでむむと顔を顰める大神。
「それとも、これもまた何かの実験なのか?」
「どうしたんですか?
 何か新商品開発の記事でも」
「おお、ユリ君か、まあこの記事をまずは見てくれたまえ」

T○Sが視聴率低迷にあえいでいる。テレビの週間視聴率では、ベスト30に2番組しかなく、看板のドラマは平均視聴率が1ケタ台に落ち込むほどだ。
 これには、TB○の井上弘社長が、12月5日の定例会見で、「今クールは早く終わってくれないかなと思っている。視聴率表を見るのが憂鬱」と嘆いた。


「T○Sと言えば、ミク騒動なのでも、世論誘導実験をしていると推測したが。
 その大衆操作に長けているはずなのに、この体たらくはどうしたことだ。
 どう読む?」
「え~と、ただ単に面白くないのでは」
「浅い、浅すぎるぞユリ君。
 それでも深読み探偵の助手か。
 ならば、バイト、君はどう読む?」
「ボクッすか。
 う~ん、わかいないっす」
「少しは考えてよ」
 椿にはあっさり肩透かし、ちょっと落ち込む大神。
「で、洞察力に優れた所長はどう読むんですか?」
 可哀想に思ったのか、やっぱり助け船を出すのはユリ。
「仕方ない、教えてやろう」
 す~ぐ、誇らしげになる大神に、可愛い人だと思ってしまうユリでした。
「例えばこんな例がある。
 日本一まずいラーメン屋。
 普通なら流行らないのだが、逆に興味を持たれて流行った」
「え~と、つまり」
「日本一つまらないテレビ局だと、名を売ることで却って視聴者を惹き付け
見て貰おうとする。
 これもまた、民衆心理を逆手に取った戦略なのだよ。
 説くにあの社長の言葉。
 如何にも、負けましたと同情を誘う言い方。
 間違いないな。
 つまり、金を掛けなくても視聴率を稼ぐぞ計画なのだ。
 恐ろしい、連続で使える手ではないが、たまに使うことで、話題を攫い、
 お金も節約出来る。
 やはり、○BSは恐ろしい。
 漫然と見ていると誘導される。
 視聴者は、常に疑いと対決姿勢を持ってテレビを見ないといけないな」
「はいはい。テレビくらいはリラックスしてみたいもんですね」
「ボクは、元々テレビ見ないっすから関係ないっす」
「「えっ」」
「テレビ見るより、現実の方がワックワク」
 椿は、にっと笑うのでした。

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深読み探偵大神空也 ふぁいる二十九 夢と浪漫の仕事

2007-12-18 23:28:53 | 深読み探偵 大神空也
「政治家になる」
「いつもながら突然ですね」
 毎度の大神に冷静に受け止めるユリ。
「今まで政治観なんて探偵に比べて何て夢や浪漫がない職業
だろうと思っていたが、私の勘違いだったようだ。
 いやいや、この歳になって認識を改める羽目になるとは、
人生は奥が深い」
「そうなんすか?」
「そうだとも、椿君。
 君も今から政治家を目指しなさい。
 政治家は、金だけじゃない」
「一体何があれば、そんなに認識が変わるんですか?」
「これだよユリ君」

「UFOは存在しません」政府がUFO存在を否定
12月18日14時15分配信 産経新聞

 UFOは存在しません-。政府は18日、「地球外から飛来してきたと思われる未確認飛行物体」は存在しないと、閣議決定した答弁書で見解を示した。政府がUFOの存在を正式に否定したのは初めて。
 民主党の山根隆治氏の質問主意書に対する回答。「UFOを目撃したという情報が後を絶たない」との前提で行った質問に対し、「情報収集、外国との情報交換、研究などを行っておらず、わが国に飛来した場合の対応についても特段の検討を行っていない」としている。
 航空自衛隊は領空の上空に侵入するおそれのある正体不明の物体には「戦闘機を緊急発進させ、目視による確認をする」としているが、UFOを確認したことは「事例として承知していない」とにべもない答えだった。

「どうだ凄いだろ。
 普通なら、鼻で一蹴されてしまう質問を、まじめに答えているんだぞ。
 まさに、権力は夢を現実に変える。
 ふっふ、マニフェストも決めてあるんだ。
 ①ツチノコがいるのか?
 ②政府がマーダーライセンスを発行しているのかどうか?
 ③超能力者はいるのか?
 ④ガンダムの開発はどこまで進んでいるのか。
 これらの疑問に対して、私が皆を代表して質問する」
「なんか、スポーツ新聞の見出しみたいですね」
「それだけに、皆の関心を集められる。
 そして、当選。
 子供の頃から抱えていた、夢の疑問をすっきりさせる。
 まさに、夢と浪漫に溢れた仕事じゃないか。
 私はやるぞ~」
「なんか知らないけど、ワクワクしてきたよ。
 ボクも東京の地下には、地下世界があるのかとか聞いてもいいかな」
「いいだろういいとも。
 この大神議員に任せたまえ。
 次の選挙はいつだ?」
「はあ~」
 次の選挙までに大神の熱が冷めていることを願うユリであった。

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深読み探偵大神空也 ふぁいる二十八 個性の時代

2007-11-13 22:20:28 | 深読み探偵 大神空也
「ここまで来たか」
 驚愕の表情を浮かべる大神。
「どうしたんすか」
「椿君は、高校生だっけ」
「そうっすよ」
「ギリギリセーフだったな」
「だから、なにがっすか」
「椿君が椿でいられると言うことだよ。
 ゆとり教育の次は、個性教育が来たのだよ」
「何言ってるんですか、そんなの前からじゃないですか」
 ユリも会話に加わってきた。
「ふっ。生徒の個性ではない、学校の個性が大事にされるんだよ」
「「学校の???」」
 ???、顔ではもる二人だった。
「これを見ろ」


教員にもFA制、教育再生会議が素案
11月13日9時7分配信 読売新聞


 政府の教育再生会議(首相の諮問機関、野依良治座長)が、特色ある小中学校づくりに向けた校長の権限強化策の素案が12日、分かった。

 校長の学校運営方針に基づき、教員を公募し配置できる「公募制」導入を盛り込んだのが特徴だ。教員の側から自分の得意分野をアピールし希望校へ転勤できるようにする「フリーエージェント(FA)制」も導入し、魅力ある学校づくりを進める校長の下に意欲ある教員が集まる仕組みとする。

 素案は、13日に首相官邸で開く合同分科会で提示される。年末にも取りまとめる同会議の第3次報告に盛り込む見通しだ。素案はこのほか、校長の発案に基づき、一定の裁量で使える予算を配分するほか、校長の1校当たりの在職期間(現在は2~3年程度)を最短5年程度に延長することも記している。

「へえ~。こんなことしたら、学校の格差が広がって、生徒が困らないかしら」
「まともな意見ありがとう。
 だが、深読み探偵は、更に奥を読む」
「その心は」
「これからの生徒の個性は、学校で決まる」
「学校で決まる?」
「いままで生徒は、色々な個性の先生を見て影響を受けていたが、
これからは校長の下、統一された個性の先生の下で教育を受け。
 結果、生徒の個性は学校に染められる」
「よく分かりませんが」
「具体例を挙げれば。
 男塾が好きだった校長の下には、暑苦しい先生が大集合
 生徒を暑苦しく教育、染めていく。
 破廉恥学園が好きだった校長の下には、破廉恥先生大集合
 生徒を破廉恥に教育、染めていく」
「それでどうするんですか」
「つまり、今までのように安易に学区の小中学校に通うのは自殺行為。
 子供をどう育てたいかで、学校選びは慎重に。
 そこで、転入転校サイトを設立すればヒット間違いなし。
 よーし、先手必勝だ。
 椿君、早速小中学校に潜り込んで校長先生の個性を調べるんだ」
「ちょっと、僕高校生っす。小中学校は無理っしょ」
 大神、椿の胸をチラ。
「問題ない」
「カチンときたっしょ。
 ユリねえ、ムッカムカでボッコボコにしていいすか?」
「許す」
「ちょっちょっと。女性は若く見られるとよろこぶものだろう」
「問答無用っしょ」
 大神の悲鳴が事務所に木霊する、昼下がりの出来事でした。

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