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トーキング・マイノリティ

読書、歴史、映画の話を主に書き綴る電子随想

アニばら鑑賞雑感 その五

2016-02-27 21:40:05 | 漫画

その一その二その三その四の続き
 ジェルジェ将軍もアニメ版ではかなり改変されているが、特に第30話では家の体面よりも父親としての愛情が全面に出る展開となっている。父がオスカルにジェローデルとの結婚話を持ち出し、娘が拒むのは原作とは同じにせよ、父の対応はかなり穏やかである。アニメ版ではジェローデルを交えずに書斎で父娘のみの会話だが、いきり立つオスカルに父はこう切り出す。「まあ、いいから(椅子に)かけなさい」。
 原作ならこのような言い方は考えられないし、衛兵隊で苦労しているオスカルを思いやる父。父を気遣い、波風の少ない近衛より余程やりがいがある、と言った娘に、涙ながら謝る父の姿は悲痛そのものだった。
お前を女として幸せに育て上げられなかった父を許せ…こんなことは今さら言えたことではないが…わしの一生の失敗であった…要らぬ苦労をお前に…

 初めて普通の父親らしい愛情を示した将軍を想い、逆に私は父上に感謝している、男として育ったお陰で強く生きることができた、と穏やかに言う娘。この気遣いもまた父を悲しませ、彼は娘に諭し続ける。
女として傷付いたのなら、女として幸せになってほしい。逃げ出してはいかんよ、男などと言って自分を誤魔化してはいかん、お前は女なのだから…とにかくお前は今までの分まで幸せになってほしい

 父が説得している時、オスカルが卓上の花瓶に活けられた白バラの花びらを千切り、掌一杯に集めた花びらに息を吹きかけて散らすシーンがある。原作にないアニメ版のこの映像は美しいが、白バラはオスカルの象徴なのは言うまでもなく、彼女の運命の暗示なのだ。
 誕生時から男として厳しく育て、軍服を着ようとしない娘を思い切りなぐりつけた第1話とはまるで様変わり。そして花嫁衣装を、とまで言う始末。まして三十路を過ぎた娘に、「ジャルジェ家には跡継ぎが必要だ。ぜひ早く、強く賢い男の子を生んでわしを安心させてほしい」等ぬけぬけと言い放ち、謝罪など全くない原作とはこれほど違っている。

 ジャルジェ将軍がオスカルを男として育てたことを後悔し、嵐が来る前にせめてわが子を安全な巣に逃し、唯の女として平和な家庭を持ってほしいと願っていたのは原作も同じ。だが、オスカルが父の真意を知ったのは、母から聞いてだった。だからアニメ版で、将軍がオスカルに涙ながらに謝ったのは予想外だった。
 しかし、今さら女に戻れと言われても、頑なに拒絶するのは無理もない。せっかく準備された婿選びの舞踏会をオスカルがぶち壊したという知らせを受けても、父は何も言わなかった。遅まきながら親として償いたい思いで、家のためではなく娘自身のためによかれと思ってしたことが拒否されたのだ。30話は「私の娘が決して幸せを求める気持ちを失って生きてほしくない」、と涙ながら語る父の止め絵で終っている。

 父曰く、「小さい時からどんな時でも自分の気持ちを抑えてしまう」オスカルだったし、それが己の幸せを求める気持ちを抑えてしまうことになってしまったのだ。父を愛するあまり自分の気持ちを抑え、父の期待に従ってきたのがオスカルの人生だったし、そんな娘を不憫に思って涙する父には、痛ましさと共に情けなさを感じてしまう。洋楽のタイトルではないが「It's Late」、全ては遅すぎたのだ。

 第35話でも原作とは微妙な違いがある。謀反人となった娘を処罰しようとするのは同じでも、「お前を神のもとに送りとどけ、直にわしも行く」と言う父。つまり、後追い自殺宣言である。アンドレが必死に制止するのはアニメ・原作変わりないが、父が処罰を止めたのは、王宮からの勅使がオスカルやジェルジェ家にお咎めなし、と告げたことによって。
 この辺りは既にアントワネットからお咎めなしの勅命を受けながらも、謀反人となったわが子を斬ろうとした原作と違う。原作版の父なら後追い自殺はしないだろう。当時は家父長制絶対だったし、一族の不届き者を処罰する権利を父は持っていた。ただ、娘を成敗していれば返って王妃の不興をかったはずだし、軍部でも信頼を失うのは明らか。自分の子供を殺した者に、ついてくる者はいない。いずれにせよ、革命でジェルジェ家はお終いだったが。

 19話以降、監督交代によりストーリーが劇的に変わったと言われるアニメ版。そしてこれ以降、男性目線が強まっているが、ジェルジェ将軍の描き方にそれが色濃く出ていると思う。但し、現代の父親目線であり、女性原作者との違いは面白い。私的にはジャルジェ将軍は愚かで情けなくとも、アニメ版のほうが原作よりも好ましく感じた。
その六に続く



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