悪霊の存在を信じる人々 その一

　終戦特集が組まれる今日は、月遅れのお盆真っ最中の日でもあるのだ。今時この時期に先祖の霊が戻ってくると、本気で信じている日本人は意外に多くないかもしれない。それでも先祖供養や墓参りは日本人の心情に訴えるものがあり、この先も廃れることはないだろう。霊魂を信じるのは自由だが、中には悪霊の存在を信じる者もいる。私の母方の伯母もその1人なのだ。

　脱会して久しいが伯母は若い頃の一時期、創価学会に入信していたことがある。なぜ伯母が学会に入ったのか、直接聞いたことはないが、母の話では離婚が原因だろうとのこと。今でこそ離婚は珍しくもないが、半世紀近く前、しかも宮城県岩出山町のような小さな地方の処では大変なことだった。例え悪い夫だったにせよ、「出戻り」呼ばわりされるのは当たり前の時代。伯母は故郷を出て、東京方面に向かった。以降首都圏で暮らしているが、学会に入信したのは故郷を離れて新生活を始めた頃らしい。

　離婚後、伯母が1人見ず知らずの地で自活しているのは立派だと思うが、十年近く前の帰京時に伯母と話したことがあり、その時の発言には唖然となった。話の内容は殆ど忘れたが、伯母はなんと悪霊の存在を口にしたのだ。「何々すると、悪霊が～」と言ったのは憶えている。都会暮らしも長く、世間ずれしているはずの伯母の言葉とは到底思えなかった。
　その場にいた母と共に早々、「何言ってるの？悪霊なんていないよ」と言い返したが、伯母は納得いかない様子だった。さらに私は、「お釈迦様はそんなこと言ってなかったでしょ？悪霊なんて、カルト宗教の脅し文句だよ」と畳み掛けた。もし惨たらしい死に様で、この世に恨みを残して死んだ者が悪霊化するならば、世界は至る所悪霊だらけではないか。

　伯母が首都圏に戻った後、母は「○ちゃんはバカだ。だから宗教団体に騙されたんだ」と言っていた。母自身も学会から勧誘を受けたことがある。私は憶えていないが、赤ん坊時に入院したことがあり、病院で信者から勧められたという。「拝んだところで子供の病気が治るものでもない」と、母はきっぱり断ったそうだが、信者はなおも勧誘したらしい。
　姉(私には伯母)のこともあるのか、母は学会だけでなく布教する宗教信者を毛嫌いしている。この見方は私にも受け継がれており、悪霊はもちろん浮遊霊だの背後霊やらを言う類を私は決して信用しない。心身を病み、宗教に救いを求めカルト信者になった者による勧誘が殆どだと見ている。

　宗教の勧誘は公共の場や職場、個人の家庭訪問の他にネットでも盛んに行われている。宗教組織の実態を暴くサイトもある一方、信者による宗教の素晴らしさを喧伝するHPも多い。異端若しくは敵対視する宗教信者に成り済まし、標的にする宗教団体を貶す者までいる。
　また悩み事相談のかたちをとり、一見すると宗教と無関係らしきサイトと思いきや、実は新興宗教の一種だったといったケースもあるそうだ。特に孤独な若者がネットで親切に応対され、すっかり信用してしまいのめり込むケースも。おそらく出会い系サイトの宗教版もあるだろう。

『霊と金-スピリチュアル・ビジネスの構造』(櫻井義秀著、新潮新書)という書がある。私はまだ未読だが、ネットで知った新書なのだ。この本のアマゾンでの説明やレビューは興味深い。アマゾンから内容の説明にはこうある。
―信じる者は救われぬ。スピリチュアリティ(神霊・心霊)を騙れば簡単に金儲けはできる。ほんの少しだけ「不安」を煽り、安易な「癒し」を差し出せば判断能力は歪められ、人は喜んで搾取され続けるのだ。その危険性について現代人はあまりに無防備である。神世界、統一教会、テレビ霊能者から仏教、神道、キリスト教など既存の宗教まで、霊と金、宗教と経済の関係を対応させながら現代社会を鋭く読み解く意欲作。

　レビューにも、「前世」「霊界」「先祖の因縁」等の「スピリチュアル」を応用したビジネスが蔓延り、「スピリチュアル」に対し懐疑的な態度をとろうとすると、「頭の固い人」「心の貧しい人」と思われてしまう風潮があることが載っている。特に女はこのような風潮に弱く、「悪霊」を持ち出す脅しには弱い。だからこそ宗教団体は女を標的にした布教活動に力を入れるし、女を使った活動を精力的に行う。
その二に続く

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　 「宗教に救いを求める人々」

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