トーキング・マイノリティ

読書、歴史、映画の話を主に書き綴る電子随想

平安朝版サディズム

2006-08-11 21:15:50 | 読書/日本史
 品位を欠くエントリーで恐縮だが、サドマゾは現代人特有の歪んだ欲望ではない。この種の趣味は今昔物語にも見えるので、一例を紹介したい。

  時代は平安末期の京の町。夕暮れに一人で町を歩いていた男が、さる家から白く小さな手が差し招くのを目にする。町の女が男を呼び込むのに使うものだ。女の 呼びかけに男が応じ、家に入ると二十歳位の若く魅力的な女が微笑んでいた。内心ほくそえんだ男はひと時の喜びを楽しんでいると、やがて使用人たちが来て、 灯を燈したり食事を用意したりする。食餌は銀の器に盛ってあったので、しがない町の女ではなかった。
 男は一夜ばかりでなく、2、3日そのまま女の元に泊り込むが、外出したいと言えば、新しい衣装の他に馬や共の者までちゃんと揃えてくれる用意のよさ。破格の待遇に、ついに二十日ほどもこの生活が続いた。甘い生活の後に女は切り出す。

思いもかけず深い仲になってしまったわね。こうなったら、私の言うことは何でも聞いてくださるでしょう?
 すっかり骨抜きにされていた男は承諾する。「死ぬも生きるもそなた次第さ
 男の返事の後、女は彼を奥の別棟に連れて行き、男の髪に縄をつけ、織り機のようなものに寄りかからせ、縛り付けた。「さ、着物を脱いで背中をお出し」。女は烏帽子を被り、水干、袴という男装の上、手には笞(むち)を持っていた。「さあ、いいか」と言うなり、女は笞で男の背をしたたかに打つ。そうしておいてから様子を尋ねた。「どう」「いや、大したことはない」と男が答えると、女は「思ったより我慢強いのね」と満足そうに言い、薬を与え介抱する。

  その後は以前同様下へもおかぬ持て成しが続き、3日ほどすると、また例の所に連れて行かれ、皮膚が裂けるほどに打つ。それでも男は我慢した。「大したこと はないよ」と言えば、女はいたく御満悦でますますやさしくなる。現代人もそのような関係の男女がいるのは確実と思われるが、平安朝でも既にあったのだ。
  これが何度も繰り返された後、女は男に黒い水干を着せ、弓矢を持たせ、今夜かくかくのところに行けと命じた。そこへ行って合図すれば仲間がいる、もしそこ から家人が逃げ出したら弓で射よ、と。つまり、男は盗賊団の見張りを引き受けさせられたのだ。だが、男は彼女から離れられなくなっていた。女の言いつけを 大人しく実行する。

 このような暮しが1、2年も続いた後、男は見張りから昇格して押込みまでするようになった。さらに女は鍵を取り出 し、「これをしかじかの所に持っていき、そこにある倉を開け、好きなものを取り出しなさい。近くには車借(輸送業者)がいるから、それに頼んで持ってくる 様に」と言う。指示された所に行った男が見たのは、大きな倉に入った財宝だった。

 かくて2、3年の月日が流れたが、ある時女は涙ぐんでいるのを見た男は、訳を聞く。「人間なんて、何時別れるのかと思うと心細くて…」 女の答えは何時にない態度だったが、さして気にも留めず彼は外出した。男が2、3日後、帰宅すると、家屋敷も妻も跡形もなく消えていた。しばし茫然自失と なった男は、気を取り直し例の倉のある所に行ってみるが、何とそれもない。「俺は長い間夢でも見ていたのか、いったいわが妻はどこへ消えたのか…」。ふ と、男の頭に思い浮かんだことがあった。そういえば、押込みに行く時、いつも色白で小柄な男が指揮を取っていた。してみると、あれがわが妻か…。今にして 男は思い当たる。サディズムまがいの行為は入団試験だったのだ。

 平安末期には盗賊団が横行していたから、女賊がいなかったとは否定できない。それにしても、女の甘言にはまり犯罪に手を染めるのは、平安から平成まで変らない男の性だろうか。

■参考:「歴史をさわがせた女たち-庶民篇」(永井路子 著)

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7 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
行き着く先 (似非紳士)
2006-08-12 21:38:56
いやあ、僕は初日でギブですなw

実は江戸時代の大名家の奥向きでもそういう趣味は流行ったそうで、なんて本だったか忘れましたが、そういう趣味を戒める決まりなどが出されたこともあったそうで…。

奥向きですので、当然女性同士なのですが、人の趣向というのは時代によらないのだな、と。
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日の下に… (mugi)
2006-08-12 22:17:14
>似非紳士さん

女の方も男を見ていたと思いますよ。お互い様、相性のよいカップルだったので、深い関係になった。

男女間だけでなく、いかに大名家の奥向きという閉ざされたところでも、その趣味があったとは面白いですね。

まさに、日の下に新しいものなし、とはこのことです。
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お詫び (似非紳士)
2006-08-12 22:37:58
うちのサブライターの記事で気分を害されてしまったようで、本当にすみませんでした。心より、お詫び申\し上げます。



このコメントはお読み頂きしだい削除ください。お手数をおかけします。
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Unknown (Unknown)
2006-08-13 04:54:45
[見たゾウ]、という怪談が、昔ありました。

旧制高校の寮の各部屋(四人部屋)ごとにある怪談の一つで、今は亡き、辻邦生が居た部屋でした。

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エ○男爵 (Mars)
2006-08-13 20:09:58
こんばんは、mugiさん。



古今東西、男女の差もなく、そういう性癖を持つものは何パーセントかはいるでしょうね(汗)。性癖はさておき、mugiさんの性格的にはエ○でしょうね。でも、意外と、○めには弱かったりして、、、(自爆)。



まぁ、お話的には面白いと思いますが、恐らく実話ではないでしょうけど、そういう営み(というか、楽しみ??)はあったであろうと推測されますね。人間は唯一、子孫繁栄とは別に、そういう行為を楽しむものですから。



エ○こそが人類の発展した要因の一つ、とは、言いすぎでしょうか?

(mugiさんのブログを汚して申し訳ないです。ご不愉快でしたら、削除願います。)

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こちらこそ (mugi)
2006-08-13 20:55:43
>似非紳士さん

「うちのサブライターの記事で気分を害されてしまったようで」とありますが、貴方のブログ記事「帰化娘」へのコメントの件でしょうか?私は別に気分を害したわけではなく、世界の実態はこのようなものだと知ってもらいたくて、コメントしました。

日本が在日外国人への根強い差別があるとの思い込みは、未だに激しいものがありますから。

私の方こそ、辛辣なコメントで申し訳ありませんでした。



ネットではやけに日本の神話や古典を引き合いに出し、自国の文化を知らないと決め付ける在日の方を見かけます。

しかし、追求すると上っ面の知識しかなく、基礎的な事も知らない者がほとんどだったりする。ネット検索した程度の情報を並べているだけ。その類は保守系ブログに多いことから、何とか日本人をやり込めたいのが動機だろうと私は勘ぐってます。

本当に日本の文化に詳しいくらいなら、自らブログを立ち上げ、その教養を知らしめるでしょうね。
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俗物根性 (mugi)
2006-08-13 21:09:06
こんばんは、Marsさん。



今昔物語に書かれた上記の話は眉唾モノですが、それでも面白いと思いエントリーにしました。ムチ打ちごっこに興じなくとも、美人スパイに鼻毛を抜かれ、情報を渡す困った男もいますね。平安時代も平成の世も、人間のやることはあまり進歩がないような。



ビートたけしが「人類がス○ベでなければ、子孫も残せない」とTVで言った事がありますが、まさにその通り。こんな記事を書くこと自体、私の俗物根性が分かりますね。
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