トーキング・マイノリティ

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サスケ

2007-01-28 20:19:12 | 漫画
 子供の頃、白戸三平の漫画『サスケ』が大好きだった。『サスケ』はアニメにもなっており、雷門ケン坊がサスケの声をやっていたが、実に合っていた。少年忍者が大人顔負けの活躍するストーリーなので、子供が見て面白かったのだろう。

  『サスケ』の原作では、忍術などに著者の解説も所々入っているので、より分かり易かった。いかに忍者になるためといえ、すごい訓練が必要とされる。本では 「オリンピックで金メダルを取る以上の」との説明が添えられていたので、子供の頃は何の疑いも感じず、ただスゴイ、くらいに思ったものだ。もちろん、これ はかなり誇張だ。白戸漫画における忍者社会におけるヒエラルキーも、かなり怪しい。
 それでも手裏剣を投げる忍者はカッコよく、まさに絵になるのだ。白戸は人物や動物の動作を描くのが巧みだが、この絵に魅せられてファンになられた方も多いだろう。

 サスケは最愛の母を敵の女忍者に殺され、父も敗残した真田忍軍の大物だったゆえ、徳川配下の服部半蔵から追撃を受ける。父と共に流浪の旅を続けるというストーリーで、子連れ狼とも似たところもある。主人公が元公儀介錯人と いうエリートと忍者であるサスケの家庭は異なるが、旅先で様々な人物や出来事に遭遇する物語は共通している。決定的に違うのは少年であるサスケが主人公 で、父の大猿はそれほど息子と密着しておらず、影で成長を見守るかたちが多い。逆境にも屈せず、常に明るく強く成長していくサスケ。当時の漫画はサスケの ように正義感が強いヒーロータイプが主流だった。

 サスケの父・大猿がまたゴツくてよかった。平成の現代なら想像つかないが、この父も星一徹同様かなりワンマンで、息子の思惑など全く聞かず、我が子の過ちには容赦なく拳固を振るう。隠れ家を去ろうとする際、玩具をまとめようとするサスケに、「ばか、こんな時に玩具など持って行かれるか」と叱りつける。「プン、子供の気持を全然理解してくれない」と愚痴るものの、玩具を置いて父と家を出るサスケ。厳しい父だが、それでもこれからの男は飯炊きでも洗濯でも出来なければダメだ、と語っていたのは面白い。

 大猿も後に知り合った女性と再婚する。サスケには「スガル谷のおばちゃん」と呼ばれる女性も娘が一人いる未亡人だった。母が忘れられないサスケには父の再婚がなかなか受け入れられず、「母ちゃんを忘れてしまったのか」と父を責める。子連れ再婚など当り前となった現代だが、'60年代後半はまだ一般的でなかった。漫画も時代を映しているのだ。
 しかし「スガル谷のおばちゃん」は立派な女性であり、彼女の娘とも親しくなったサスケは父の再婚を受け入れる。TVアニメはここで終わっていた。父も再婚し、サスケも新しい家庭で幸福になれると予想されるエンディングで。

  だが、原作はそこで終わりではなかった。「スガル谷のおばちゃん」は実はキリシタンだった。おばちゃんばかりでなくスガル谷はキリシタンの住むところであ り、スガル谷の人々は公儀に追いつめられるようになる。谷にはパウロという名の西洋人宣教師もおり、彼は殉教を説くが、大猿は猛反対する。何処までも逃げ て生き延びろ、と。
 服部半蔵はスガル谷の人々を殲滅しようとし、谷のキリシタンを救おうとして大猿は命を落とす。既に臨月だった「スガル谷のおばちゃん」は彼の子を産み落として絶命した。生まれた弟に小猿と名付け、必死に弟を育てるサスケ。

  まだ子供だった私は、アニメ化されなかった箇所は面白くなかった。子育てに苦労するサスケばかりでなく、悪代官と虐げられる百姓の話が出てきたりする。一 揆の鎮圧に当たり、女子供も容赦なく殺害され、サスケの女友達「梅ちゃん」も首が晒されるシーンがあるので、惨いと思った。小猿も行方不明となり、放心状 態のサスケが弟を探している場面で幕、という終わり方も尻切れトンボの印象を受けた。

  『サスケ』ではとにかく武士イコール抑圧者に描 かれている。彼らは意味もなく百姓を斬ったり虐待するから、昔の武士はろくでもないことをしていたのだと思った。これに対し、登場するキリシタンは皆温和 な人々ばかりだ。スガル谷以前にもキリシタン母娘が出てくるが、彼女たちは火炙りで処刑される。一頁全面を使い、無残に母娘の黒焦げになった遺体が描かれ ていた。娘の「糸ちゃん」はサスケと仲良しだったが、この母娘も絵に描いたような善人だった。
 この漫画で圧巻なのは忍者同士の死闘だろう。忍術を駆使して戦うシーンは素晴らしいが、マルクス史観丸出しの支配層と非支配層の描き方はいただけない。

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4 コメント

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コメント、ありがとうございます (mugi)
2007-02-01 21:24:22
初めまして、熊蔵さん。
拙ブログを読まれて頂いて、ありがとうございました!

元寇の文永の役の対馬がいい例ですが、朝鮮人は大国に擦寄っては、派兵、虐殺するのが十八番なのです。
ベトナム戦争時も韓国軍はベトコンではなく、民間人対象に蛮勇を大いに発揮しました。ベトナム人は米軍より彼らを憎んでいる。

日本のマスコミ界は西に顔を向けた連中が多すぎますからね。
ただ、フェミニスト連中ですが、必ずしも同性に支持されているわけではないですよ。以前私のブログにコメントされた主婦の方など、「彼女らは「女性」を強調しますが、同性から見て「女性」を感じません」と書かれてました。同性から見ても魅力なしということで。
http://blog.goo.ne.jp/mugi411/e/e598947dff664ca36075db27b45f61fe
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Unknown (熊蔵)
2007-02-01 00:38:53
どうも初めまして。
知足さんの所からやってまいりました。
前エントリーと合わせて興味深く読ませて頂きましたが、『赤目』の”若殿”一派って、なんだか「韓国軍のベトナム派遣部隊」の様な残虐さですね(苦笑)。

最も今では、”南京大虐殺”を描いてブッ叩かれた本宮ひろ志の様に、下手な事は描けないでしょうが・・・・

今なら、石坂啓や倉田真由美みたいにTVや雑誌にしゃしゃり出て、フェミ思想を撒き散らす連中こそ要注意って所でしょうか。
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TB&コメント、ありがとうございます (mugi)
2007-01-30 21:21:43
>知足さん
仰るとおり'60年代はこのような「マルクス史観丸出し」の描き方で通りましたが、現代はどのようになっているものやら。
'80年代末に見た劇画で戦争時の上海が舞台の作品がありましたが、日中友好が強調されてましたね。
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Unknown (知足)
2007-01-30 10:39:07
「マルクス史観丸出しの支配層と非支配層の描き方」とは懐かしい。今はもっと巧妙な手口の漫画が流行っているのかも知れない。
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