2回に亘り放送された「NHKスペシャル 戦国 激動の世界と日本」を見た。第1集は「秘められた征服計画 織田信長×宣教師」、以下は番組HPからの引用。
―世界各地で「日本の戦国時代」に関する発見が相次ぎ、大航海時代のヨーロッパと日本が強く結びつき、地球規模で歴史を揺るがしていた事実が明らかになってきた。第1集は、織田信長と豊臣秀吉の時代。ヨーロッパの16世紀の文書が公開され、信長・秀吉と、来日したキリスト教の宣教師、そして背後にいたポルトガルやスペインとの深い繋がりが見えてきた。それぞれの思惑と、熾烈な駆け引きを描く。
第2集は「ジャパン・シルバーを獲得せよ 徳川家康×オランダ」、次も番組HPからの引用。
―地球規模の歴史から、新たな日本の戦国時代を描くシリーズ。第2集は徳川家康の天下取りの時代。新発見の文書に記されていたのは、オランダ商人と家康の深い繋がり。オランダは、当時最重要の国際通貨だった「銀」を求めていた。世界の産出量の3分の1を占めた日本銀をめぐり、オランダと超大国スペインの間に激しい攻防が始まる。覇権をかけた両国の争いの最前線となった戦国日本、その実像に迫る。
戦国末期のポルトガルやスペイン、来日宣教師との交渉を知っている方なら、特に新しい内容ではなかっただろう。ただ、今回の特集で17世紀はじめに日本銀が世界の産出量の3分の1を占めていたことを初めて知った。
番組サイトでは「ヨーロッパの16世紀の文書が公開され」たとあるが、既に文書は公開されており、欧州との交易について書かれた歴史書が何冊もあるのはそのためだ。尤も専門がキリシタン史である高瀬弘一郎氏が、バチカンにあるイエズス会文書館所蔵の日本関係資料を翻訳・出版した後、あわててバチカンは日本侵略関係の資料を非公開にしたこともあったという。
今回の特集では、宣教師やスペインによる布教の果ての日本征服を隠さず報道していたのは結構。しかし結局、多数の日本人奴隷がポルトガル商人によって売られてことは一切触れずじまい。番組を見る前から今回も日本人奴隷売買について「報道しない自由」になると思っていたが、案の定だ。
番組最大の売りは「地球規模の歴史から見た戦国」。これまでは日本史の中でしか語られなかった戦国を、グローバル方面から見直すというもの。しかし番組で主張する戦国日本が世界に与えた影響とは、拡大解釈にちかいものが感じられた。影響力は多少あったのにしても、「地球規模で歴史を揺るがしていた」は大げさではないか?
長く続いた戦乱の世ゆえ、日本がアジア屈指の軍事大国というのは買い被りだし、意図的な誤りにも感じられる。地球規模の歴史でいえば、オスマン帝国やムガル帝国の存在を完全に無視しており、西洋中心の世界観の焼き直しとしか見えない。
アジア屈指の軍事大国ではオスマン帝国がそれに当たり、ムガル帝国もまだ英国植民地にはなっておらず強大だった。もし明がムガル帝国と戦えば、到底敵わなかっただろう。日本は朝鮮出兵でそんな明に負けている。
このような描き方では、当時から日本は潜在的な軍事国家であり、何時危険な軍事大国となりかねない等と暗に言っているようにも思える。ほらほら、日本は今に軍事国家に豹変する可能性がありますよ、と他国に向けたプロパガンダ放送?と邪推したのは私だけか?既に隣国の代弁機関と化しているТV局なので、そう疑われても当然なのだ。
“地球規模の歴史”と銘打っているにも関わらず、覇権をかけた国家ではオランダとスペインの攻防が中心であり、それに日本が深く関与していた……と解釈している。しかし、この見方は安易なこじ付けであり、アジア交易をめぐる覇権争いはさらに複雑である。
今回の特集では英国の動きはほとんど触れなかったが、オランダと同じく平戸にイギリス商館が開設されていた。イギリス商館には三浦按針ことウィリアム・アダムスも勤めていた。
しかし日本での貿易は先行していたオランダが有利であり、ウィリアム・アダムスの死も痛手となりイギリス商館は10年足らずで閉鎖された。尤も日本ではオランダ人よりも英国人の方が好かれていたようで、両者が喧嘩をした時、日本人は後者の味方となったこともあった。
1623年に起きたアンボイナ事件でオランダは東と東南アジア貿易支配を確立させ、イギリスの影響力は弱体化、撤退するに至る。但しオランダの覇権も長くは続かなかった。東南アジア市場を失った英国はインド方面に活路を求め、それが国力増強に繋がっていく。
東南アジアでの香辛料貿易を独占したオランダだが、かつては高値だった香料の価格の下落もあり国力は次第に低下していく。1652年、国力をつけた英国とついに第一次英蘭戦争が起きるが、17世紀後半に英蘭戦争はさらに2回も行われた。これでオランダは経済的に大打撃を受ける。NHK式の拡大解釈とこじ付けに倣えば、覇権をかけた英蘭の争いには日本も絡んでいたとなるかもしれないが。
私的にはオランダとスペイン間の攻防よりも、今回の特集からは外れるが英国とオランダという新教国同士の戦いの方が興味深い。
いずれにせよ、西欧人が初来日した頃の日本が戦国時代であったのは大変良かった。2014-12-24付の記事に書いたが日本人クリスチャンの中には、「日本もコンキスタドールに攻めてもらえば良かった」「日本も欧米列強の植民地になれば良かった」という者がおり、戦国時代でなければ確実にそうなっていただろう。
◆関連記事:「カトリックによる日本侵略」
「キリシタンはなぜ迫害されたか?」
「キリスト教会、その信者の歴史観」
精々1国で数万程度の動員力。かつ朝鮮の役や関ヶ原では1国で数十万の動員をなした上に、銃の装備率が3割から5割。同時期の欧州は精々1割前後の火器装備率でした。実際朝鮮の役でも戦場でのキルレート(死傷の交換比率)ではほぼ日本側の方が優位でした。なんというか戦場では常に5倍から10倍の損害を敵に強要していたがベトナム戦争では負けたアメリカ見たいな感じなので・・・・。原因はいろいろありますが
長くなるので今回ははしょりますが・・・。
まあMUGIさんの言う通り当時のスーパーパワー
はオスマン 明 ムガルなのは間違いないでしょう。ただ4位 5位の有力候補は日本だと思います。
でも本題的に日本の軍事力が世界情勢を動かして番組の構成になってないですよね。。。。。。
「地球規模で歴史を揺るがしていた」というなら、オスマン帝国の方が遥かに大きい。あの報道内容では、「皆さーん、日本は潜在的な軍事国家であり、危険な国です。だから常に監視しましょう」と暗に言っているように感じました。
歴史を見るには過大評価も過小評価も問題があります。
「日本は朝鮮出兵でそんな明に負けている」なら明が勝ったのか、といえばそうでもないことは歴史上明らか。あの戦役はどうみても「勝者なき戦役」だった↓
ttps://www.youtube.com/watch?v=Xy9NEkOZ8z4&list=PL2CQepljpOcfnNT9DyIENHHZkjzATDHf4&index=15
>西欧人が初来日した頃の日本が戦国時代であったのは大変良かった。2014-12-24付の記事に書いたが日本人クリスチャンの中には、「日本もコンキスタドールに攻めてもらえば良かった」「日本も欧米列強の植民地になれば良かった」という者がおり、戦国時代でなければ確実にそうなっていただろう。
「戦国時代であった」ではいささか不正確、「戦国時代末期であった」が妥当。スペイン・ポルトガルがもう50年早く(=15世紀・1400年代に)「極東」に来ていたらと思うと、いささか背筋が寒くなる。尤も1492年が「新大陸発見」だったから、50年早くなるというのは考えにくいが。
その後(17世紀・1600年代)の「鎖国」が可能であったのは、これにある通り↓
ttps://www.youtube.com/watch?v=xcM2ZlvAIkA&list=PL2CQepljpOcfnNT9DyIENHHZkjzATDHf4&index=17
あの時代にあって日本=徳川幕府が採った政策は「重武装中立」、今のスイスの政策、戦略の先取りだったとも言える。それもスイスと異なり、自国領だけで当時の人口を養えるだけの生産力があった。400年も早く「サスティナブル国家」を打ち立てていた、ということでもある。
超日本史というサイトと茂木誠氏の名は初めて知りました。それにしても超日本史、本当に面白い。茂木氏の解説から「朝鮮出兵」という表現は的外れであることを遅まきながら知りました。日本軍が朝鮮の人民からは解放軍として迎えられたという話も初耳です。そして以下のコメントに同意した人が多いでしょう。
「朝鮮が衛生状況が悪くて不潔なのでこんな土地は欲しくないと、武将らが秀吉に申し立てたという話には、大笑いしてしまいました」
朝鮮戦役当時の明はかなりガタがきていましたが、秀吉が健在だったら、最悪の場合泥沼化した可能性もあります。コメントには半島・大陸ではなくフィリピンに出兵すればよかったという意見もありましたが、山内昌之氏も↓の見方をしていました。
「当時ルソンはカトリック圏でもミンダナオはイスラム圏。フィリピンに進出していたら日本とムスリムの戦争に発展したかもしれない」
確かに戦国時代といっても長く、正確には「戦国時代末期であった」と書くべきでしたね。スペイン・ポルトガルがもう半世紀早く来たら?という仮説ですが、ポルトガルがマラッカを占領したのがようやく1511年です。
東洋に来るのに時間がかかっていたのは、当時はアジアの方が優勢だったため。西欧人が16世紀にいきなり東南アジア方面に来たのではなく、それ以前から来てはいましたが、アジアの商船に押されていたのです。
「重武装中立」だからこそ鎖国が可能だったし、「強国だからこそできた鎖国ってことだね」というコメントもあります。尤も清水守なる者が「海に囲まれてるって言うアドバンテージを忘れてはいけないと思います」とケチをつけていましたが、それを言えば台湾やインドネシア、フィリピンはどうよ?
清水は日露戦争での米英の支援を挙げていますが、米英に支援されても勝てない国はザラ。もちろん自国の力のみで勝ったという自惚れは慎みたいものですが、この手の自惚れは他のアジア諸国ではフツーですよ。
歴史の評価に独善的な解釈をしてはいけませんね。私もその番組ちらっと見た記憶はあるんですが、すっかり忘れていました(笑)。
戦国日本が「地球規模で歴史を揺るがしていた」に至ってはオーバーすぎます。制作者はかなり「地球規模」に拘っているようですが、歴史好きは意外に少ないので、天下のNHKが放送すると鵜呑みにする視聴者は未だに多いでしょうね。