トーキング・マイノリティ

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バッド・インフルエンサー インスタ詐欺の顛末(てんまつ)

2021-08-25 21:40:25 | 音楽、TV、観劇

 8月18日放送のBS世界のドキュメンタリー、「バッド・インフルエンサー インスタ詐欺の顛末(てんまつ)」は、ネット時代に相応しいテーマで実に面白かった。著名インフルエンサーの女が実は大ウソつきで、多くのネットユーザーが騙され、数多くのフォロワーがいたのだ。番組HPではこう紹介されている。

末期がんを健康的な食生活で克服したという20代女性がSNSで大成功を収めるも、その過去に疑惑が浮かび上がる。ネット社会の危うさに切り込むドキュメンタリー。
 脳腫瘍で余命数か月と宣告されたというベル・ギブソン。化学療法をやめ健康的な食生活と代替療法で病を克服したとSNSで発信し、ウェルネス界のスーパーインフルエンサーとなった。その後アプリやレシピ本を出版し、起業家としても成功するが、ネットユーザーたちによって、彼女のウソに固められた過去が暴かれていく。原題:Bad Influencer:The Great Insta Con(イギリス 2021年)

 番組で初めてベル・ギブソンの名とウェルネスという用語を初めて知ったが、ベル・ギブソンアのアカウント名はヒーリング・ベル、オートラリア人である。彼女の支持者だった3人の女性が証言者として番組に登場したが、全員が持病を抱えていたり、健康面で不安があったという点は意味深い。

 支持者の1人マキシン・アリさんは十代はじめに慢性潰瘍性大腸炎に罹り、12歳の時は入院を余儀なくされたという。化学療法などで容姿が変わり、劣等感を覚えたのは無理もない。現代は健康関連ライターをしているそうだ。
 もう1人はピクシー・ターナーさん。19歳の時にコレステロールが高いと診断され、心臓病を患った親族もいたので遺伝を心配していた。尤もターナーさんは太ってはおらず、今の職業は栄養士。

 そしてカイリー・ウィリーさんは他の2人よりも年上で、パーソナル・トレーナーとして働いており、夫と子供もいる。そんな彼女が突然ガンを宣告され、医師から身辺整理を勧められるほどの重症だった。
 化学療法が主なガン治療を受けても病状はなかなか回復せず、絶望していた彼女に、親友がベル・ギブソンの話をしたのがきっかけで、ヒーリング・ベルのSNSにのめり込んでいったようだ。

 ウソが発覚する前のベル・ギブソンは朝のワイドショーにも出演、健康的で明るく美しい彼女に司会者や視聴者はすっかり魅了される。雑誌にも取り上げられ、一躍時の人になった。また彼女は事業で得た収入の一部は途上国やガンセンターなどに寄付すると宣言、これもなんて無欲な人、フォロワーの心を鷲摑みする。
 しかしベル・ギブソンの話を疑う人もいた。その1人ジャーナリストのリチャード・ギリエット氏は、脳腫瘍や他にもガンのある人があれだけ活動できるはずがない、と思ったそうだ。実は彼の妻もガンになっている。

 ギリエット氏は様々なサイトを検索したら、2009年のスケボー掲示板で同名の人物の書込みを発見する。その書込みは言葉遣いの悪いツッパリの印象だったので同姓同名と思ったが、腕にあったタトゥーが同じだったので、同一人物だったことが分かったそうだ。さらにこの書込みから、年齢も偽っていたことが判明する。
 2015年、ギリエット氏はカフェで直接ベル・ギブソンにインタビューするが、至って健康体でも年の割に幼い印象を受けたという。質問をしても己に都合の悪い話は逸らしたり、同じ話を何度も繰り返したそうだ。肝心な点になると、病気なので憶えていないと答えたとか。

 ベル・ギブソンは12歳で家出し、以降は友人の家に寝泊まりしていたらしい。学校も15歳で中退、彼氏との間に子供もいる。知人女性のインタビューによれば、昔から彼女は詐病することがあり、腕を吊って教室に現れたこともあったという。両親さえ彼女を擁護しなかったそうだが、12歳で家出していることから、生い立ちに原因があったのだろう。

 ペンギン・ブックのような大手出版社はベル・ギブソン関連の本を出版、女性雑誌コスモポリタンも彼女の特集記事を載せていた。カイリー・ウィリーさんがベル・ギブソンを支持したのも、「皆が支持しているから」だった。ちなみにカイリーさんはガンは再発せず、今はパーソナル・トレーナーに復帰しているそうだ。
 ギリエット氏は出版社もТV局もベル・ギブソンの身元を調査していなかったと語っていたが、メディアがロクな調査もせずに報道するのは豪州でも同じようだ。

 途上国やガンセンターなどに寄付すると言っていたベル・ギブソンだが、これもウソだった。詐欺で25万ポンド(約3,765万円)の罰金を課せられるが、未だに支払っていないそうだ。
 ベル・ギブソンについて、既にexciteニュース「末期がんと偽り克服本まで出版 嘘を重ね大金を得た女ブロガー(豪)」(2017年3月23日付)があったが、日本ではあまり知られていない人物かもしれない。

 ベル・ギブソンに心酔していた頃のピクシー・ターナーさんはオルトレキシア、つまり不健康だと考える食品を避けることで生じる極端もしくは過度な先入観によって引き起こされる摂食障害に陥っていたと振り返っている。これは精神障害の一種でもあり、病は気からという諺は正しかった。
超有名ヴィーガンが魚食べたのバレて大炎上中 原因は長年のヴィーガンによる体調不良」(2019年03月27日)という記事もあり、過剰な健康志向が体調不良を招くのは何とも皮肉に感じる。

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