ホロドモール その一

　2月24日のロシアのウクライナ侵攻以降、ウクライナ情勢の話題には「ホロドモール」という言葉がネット上でよく見られるようになった。
　私が初めてホロドモールを知ったのは数年ほど前、ブログ『ブルガリア研究室』管理人さんから教わったためだった。いかにスターリンによる「大粛清」が行われていた時代にせよ、欧州のパン籠と呼ばれた沃土の国ウクライナで、このほどまでの惨事があったことにはショックを受けた。

　ロシアのウクライナ侵攻後、ウクライナ人民族主義者が登場するF.フォーサイス作『悪魔の選択』を再読した。本にはソ連時代の仮借ないロシア化政策が描かれていたが、ホロドモールへの言及はなかった。発表が1979年なので、フォーサイスも知らなかったらしい。ホロドモールに関し、以下のコメントを頂いた。

ホロドモール (スポンジ頭)
2022-03-26 12:59:34
　ホロドモールについてウクライナ語のウィキの履歴を見たところ、2004年の5月から掲載が始まっています。ロシア語版は2005年。ウクライナ語版ウィキにある2004年の5月の掲載内容はホロドモールと言う言葉を記したタイトルだけで、2004年の12月から具体的な内容が記されました。

　戦後ソ連でホロドモールに関して言及されたのは1987年のウクライナ共産党の70周年記念での書記長の演説です。ただし、原因は干魃とされたといいます。いずれにせよ、ソ連で公に語っても処罰されなくなったのはこの時期からなのでしょう。

＞さすがのフォーサイスも執筆時点では知らなかったかも。

　1950年代（？）にホロドモールの研究書が出ましたが一般には知られず、1985年にアメリカでホロドモール調査の特別委員会が設立されたそうです。資料として集めるのは分量が足りなかったのかもしれません。

　こちらにはTBSでウクライナでの戦争特集が放映した際、ホロドモールに触れた話が掲載されています。小泉悠氏はウクライナに行った際、高官からホロドモールに関する本を渡されたと述べています。こんな経験がある上、今でもロシアはウクライナ人の誘拐をしていると言いますから、降伏などできる状況ではないでしょう。
https://news.tbs.co.jp/newseye/tbs_newseye6009572.htm?1648265929755　

　私はこのTBSのウクライナ戦争特集は未見だが、4月3日放送のNHK特集「ウクライナとロシア 決別の深層」は見ており、番組HPもある。実はNHK特集にはさして期待していなかったが、ウクライナとロシア決別の背景や歴史に迫る、と宣伝していながら、番組では最後までホロドモールへの言及は皆無だった。HPには以下の文章がある。
「今回NHKは、プーチン大統領の思惑を探るために、世界の研究論文や学術書を1億本以上集めたデータベースに注目。その中で、ウクライナとロシアの政治的な関係について書かれたものを探ると、およそ5000本の学術文献が浮かび上がりました。
　さらに、ニュースやSNSで注目されている文献のランキングをはじき出すと、第2位にプーチン大統領の思想に迫る論文が見つかりました。」

　世界の研究論文や学術書を1億本以上集めたデータベースに、一切ホロドモールの用語がなかったはずはない。NHK特集の解説によれば、ウクライナとロシア決別の背景は全て、2014年のマイダン革命に端を発しているというのだ。
　番組HPには載っていないが、二松學舎大学の合六強准教授（※専門は欧州安全保障）が解説者として出演しており、合六氏もマイダン革命が根底にあると言っていた。

　マイダン革命がウクライナ侵攻の原因になったことは考えられるが、それだけとは到底言えない。マイダン革命に起因するというなら、それが起きた背景にも触れるべきだが、放送時間が限られているためか、皮相的な特集に終わったとしか見えない。暗にロシアを刺激したウクライナにも非があるとも聞こえる。

　今やネットで「犬HK」とまで呼ばれるNHK、ロシアシンパもいるのは確実だろう。それ以上にロシア最大の友好国シンパが蔓延り、それらの国々に忖度、意図的にホロドモールの用語を使わなかったのではないか。ホロドモールを知り衝撃を受けない日本人はいないから。
　何かと偏向やヤラセが非難されるTBSさえホロドモールに触れた話を紹介しているのに、NHKはそれ以上酷かった。
その二に続く

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