トーキング・マイノリティ

読書、歴史、映画の話を主に書き綴る電子随想

フェルメールからのラブレター展

2011-11-30 21:12:06 | 展示会鑑賞

 先日、宮城県美術館の特別展『フェルメールからのラブレター展』を見に行った。特別展の副題には「コミュニケーション: 17世紀オランダ絵画から読み解く人々のメッセージ」、フェルメール以外の画家の作品も展示されていた。チラシでは特別展をこう紹介している。

宮城県美術館の開館30周年記念として、世界に30数点しか存在しないオランダ17世紀絵画の巨匠ヨハネス・フェルメールの作品が3点一挙に公開されます。本展のメインテーマは、コミュニケーション。オランダ風俗画で重要な役割を果たした手紙をはじめとするコミュニケーションをめぐる絵画作品を、4つのテーマに沿って構成します。本展では、ヨハネス・フェルメールのほか、ピーテル・デ・ホーホヘラルト・テル・ボルフヤン・ステーンら計27人の作品、世界の18の美術館、機関、個人から出品される約40点を展示します。
 フェルメール作品の中でも日本初公開の《手紙を読む青衣の女》は、このたび入念な修復を終えて本来の美しさをよみがえらせ、本国に先駆けて世界で初公開されます。


 上の画像こそ、特別展の目玉で日本初公開の《手紙を読む青衣の女》。青い衣装の鮮やかさだけで目を引くが、フェルメールブルーと呼ばれるこの色はラピスラズリ(瑠璃)から作られる貴重な絵具が使われ、金よりも高価だったそうだ。この青衣が他の色だったならば、絵の印象はかなり変わっていただろう。
 会場の解説によれば、アジアから手紙を出せば、受け取るのに少なくとも2年間は有したそうな。海洋貿易で富を築いたオランダでは識字率が高く、字の読める女も多かったという。《手紙を読む青衣の女》は装身具も付けず至って地味なおばさんだが、絵画の巨匠に描かれることで後世に姿が遺されることになった。
 女は遠く離れた地の夫からの手紙を読んでいるのだろうか。この体型も一緒に行った友人に言わせれば、「夫不在で緊張感が薄れ、太ったのでは?」とのこと。


 
 展示会は4部門に分けて構成されていた。「1:人々のやりとり-しぐさ、視線、表情」「2:家族の絆、家族の空間」「3:職業上の、あるいは学術的コミュニケーション」「4:手紙を通したコミュニケーション」の順で、各テーマに相応しい作品が飾られている。上の絵は作品№7「眠る兵士とワインを飲む女」(ヘラルト・テル・ボルフ作)で、私のお気に入りの作品のひとつ。
 何やらふて寝した男と、やけ酒を飲む女といった印象だが、この絵に限らず女の飲酒を描いた作品が何点もあったのは意外だった。空になったグラスを突きだした女が描かれている絵もあり、むしろ女の方が飲みっぷりがよい。

 一連の作品で気付いたのは、オランダ17世紀絵画は光と影をくっきり対比させる特徴があること。光と影の画家といえば、今回の特別展に出展はない同時代のレンブラントが有名だが、他の画家たちも同じような描き方をしていたのだ。イタリアやフランス絵画だと、このような手法はまず使われないのではないか?
 そして、当時のオランダ絵画に描かれている人物は王侯貴族ではなく、富裕層にせよ市民階級だった。服装も華美ではなく、女は頭部を被り物で覆い、装身具を付けた者は殆どなかった。むしろ男の方が服装は派手な傾向があったが、それさえ他の西欧諸国に比べれば質素である。当時のオランダには質実剛健を尊ぶ気質があったのか?

 個人的に最も面白いと感じたのは、4部に展示されていた作品№39「手紙を読む女とトリック・トラック遊びをする男たち」 (フランス・ファン・ミーリス(1世)とヤン・ファン・ミーリス(?)作)。トリック・トラックとは西欧すごろくの一種で、すごろくに興じる男たちの傍で、女が手紙を読んでいる絵。ただ、女は他の絵の女と違い服装も派手で耳飾りを付けている。ほくそ笑んだような表情から恋文と思われるが、密会の打ち合わせに見えたのは私だけか?「亭主元気で留守がいい」を謳歌している女のようだ、とは友人の評。 



 《手紙を読む青衣の女》の他に出展されたフェルメール作品は、《手紙を書く女》と《手紙を書く女と召使い》。上はそれらの作品。会場の説明にはフェルメールは11人の子供を儲けたとあったが、wikiによれば妻との間に「15人の子供が生まれたが、4人は夭折した」とある。寡作だった絵画とは対照的に子供は量産している。
 フェルメール作品は僅か3点だけだったが、他の画家たちの作品も優れていたし、とても見応えがあった。このような特別展が仙台で開催されたことは大変うれしい。大きな催しは東北を通り越し、札幌に行ってしまうケースが多いのだから。

よろしかったら、クリックお願いします
人気ブログランキングへ     にほんブログ村 歴史ブログへ



最新の画像もっと見る

2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
静けさ (ハハサウルス)
2011-11-30 22:44:58
フェルメールは特に好きという訳ではありませんが、不思議な魅力の作品を描いていますよね。

以前、絵の鑑賞が好きな友人が、フェルメールのカードを送ってくれ、「真珠の耳飾の少女」「聖プラクセディス」「手紙を書く女」「天秤を持つ女」の4枚が手元にあります。中で一番好きなのは「真珠の耳飾の少女」で、黒い背景に浮かび上がる少女の何とも言えない表情は、とても魅力的です。(「聖プラクセディス」はちょっと異質な感じがします)

一瞬を切り取った静けさ、自然光による透明感、フェルメールならではの魅力だと感じます。レンブラントと並び賞されるにふさわしいオランダの巨匠ですね。

いつでしたか或る番組で、フェルメールの「牛乳を注ぐ女」に描かれている食材を使って料理を作る試みがなされていたのを見て、絵画の見方も視点を変えると様々なのだなぁと思いました。

絵画はやはり本物が見たいですね。結婚前は遠くても見たければ何とか見に行けましたが、今はさっぱり…、時折絵画関係の書物を読む位です。(最近読んだ「怖い絵」全3巻は面白かったですよ)
返信する
RE:静けさ (mugi)
2011-12-01 21:51:18
>ハハサウルスさん、

 私もフェルメールは特に好きな画家ではありませんが、描かれた人物はすべて存在感がありますよね。「手紙を読む青衣の女」「牛乳を注ぐ女」など、何処にでもいそうなおばさん(失礼)ですが、見る者に強い印象を与える作品です。そこが巨匠の技なのでしょうか。
 イタリアのように陽光あふれる南欧の絵画だと、とかく色彩が派手だし動きがあります。それと対照的な静けさや自然光による透明感こそ、オランダ絵画の特徴かもしれませんね。

「真珠の耳飾りの少女」は私も好きな絵です。少女は青いターバンをしており、それが印象的ですね。この絵が「北のモナ・リザ」と呼ばれるのも納得。スカーレット・ヨハンソン主役の映画「真珠の耳飾りの少女」は、この絵から着想を得たものです。

 それにしても、「牛乳を注ぐ女」に描かれている食材を使って料理を作る番組もあったのですか!たまに美術館内のレストランにも、似た様な試みのメニューがあるので、ТV番組にあっても不思議はありません。

 一緒に行った友人にも未成年の子供が2人いますが、既に手がかからなくなっている年頃なので、休みに美術館に行けるのです。子供の成長は早いし、貴女もしばらく辛抱されれば、本物の絵画が見れるでしょう。
返信する