今月14日の河北新報のコラム「現代の視座」にアメリカの社会学者イマニュエル・ウォーラーステイン氏の論文が載った。『核合意、濡れ手で粟のインド』と題して、インドとアメリカの核合意を辛辣に書いている。その一部を紹介したい。
「ブッ シュ大統領は先のインド訪問で、歴史的とか世界システムの転換点とか評される合意を結んだ。ニクソン訪中に匹敵するとの見方すらあるこの訪問は、しかしそ れほど大層な出来事なのか。第二次大戦後の世界で、インドは米国にとって厄介な存在だった。冷戦期の非同盟勢力の旗頭であり、歯に衣着せぬその物言いを米 国は苦々しく見つめていた。インドの非同盟を事実上の親ソと見なす米国は、パキスタンに肩入れした。
インドの主要な政治勢力である国民会議派はアジア・アフリカ民族解放運動の手本だった。初代首相ネルーとその直系の後継者らは非同盟と反植民地運動支援を政策とし、国内では社会民主主義を採用した。軍備拡張にも熱心だったが米国が支援を拒否したため、兵器と航空機をソ連から買い、それが米国を一掃苛立たせた…
冷戦後の世界で国民会議派は非同盟や反植民地主義的連帯を口にしなくなり、社会民主主義も捨てた。過去5年間に米国とインドは重要な変化を経験した。経済 発展を経たインドは米国にとって情報科学の下請け先となった。在米インド人は各分野で多額の収入を得ながら母国との絆を維持し、保守一大勢力を形成してイ ンド社会に対米緊密化を求めた…
合意でインドが得るものは明白だ。喉から手が出るほど欲しかった核計画促進のための技術支援と、国際安保常任理事国五カ国とほぼ同等の、核保有国としての事実上の認知が濡れ手で粟と転がり込んだ…
こうしたこと全ての結果、どうなるのか。米議会では合意の承認に条件をつける動きが出ている。そうなればインド政府は条件を拒否し、米国に対して抱いた親近感は霧消する。既にギクシャクしている米・パキスタン関係はもっと悪くなるだろう。
インドはどう転んでも利益を得る。ロシアは米国がかつて阻止しようとした核燃料輸出をインドに持ちかけているが、米国にこれを阻止する大義名分はない…合 意の帳尻はインドの大量得点と、米国の更なる外交失点だ。合意は地政学上の米国の地位を一層低下させることになるだろう」
イマニュエル氏を河北新報では世界システム論の 権威と表し、肩書はN.Y州立大学ビンガムトン校付属フェルナン・ブローデル経済・史的システム・文明研究センター所長、とある。“世界システム論”など 私には初耳だったが、wikipediaで検索してみたらイマニュエル氏が提唱者だった。どうりで聞き慣れなかった訳だ。
それにしても、イマニュエル氏の対インド観はアメリカ知識人の思想が分かり面白い。「世界システム論」と銘打ってもアメリカ支配による世界システムを提唱、確立、堅持する目的が露骨に見える。植民地時代のインドにイギリスは盛んに「国際基準」「国際主義」を喧伝していたが、イマニュエル氏の論は名称を変えた焼き直しそのものだ。宗主国の「国際主義」など歪んだイギリス・ナショナリズムに過ぎない、とJ.ネルーは痛烈に皮肉ったが、アメリカ・ナショナリズムは「世界システム論」を打ち出すようだ。
そして日頃は人権主義の特異な例を除きアメリカに批判的な河北新報が、アメリカ・ナショナリズム丸出しのイマニュエル氏のような人物を「世界システム論」の権威、と殊更権威付けするのも不可解だ。
イマニュエル氏は核兵器を米国本土やその基地のある国に向けているのでもないインドに厳格で、核合意がイランや北朝鮮を付け上がらせるのを憂慮する。だが 世界最大の核保有国で、これを削減する動きもないのが他ならぬ自国というご都合主義を他国はどう思うのだろう。氏のような人物ならご都合主義など露思わ ず、アメリカは世界の核を監理する責務があると確信してるだろう。それが「世界システム」なのだから。
わが国の唯一の被爆国としての非核三原則など、いかに空しい理想主義であっただろう。核保有国で破棄する国など一カ国もなく、持たぬ国も持ちたがるようになるのが時代の流れなのだ。核を落とされるのは核を持たぬ国だから。
核廃絶運動をしていた人たちは、平和主義を掲げて核廃絶を夢見ていた夢想家に過ぎず、戦時中八紘一宇を唱えて必死に竹槍訓練をしていた者と変わりない。日 本の非武装化により濡れ手に粟の覇権を手にした国は高笑いが止まらず、意図せずともそれらの国への利敵行為に奔走していたのが平和団体である。
◆関連記事:「一部の偏狭なナショナリスト」
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「ブッ シュ大統領は先のインド訪問で、歴史的とか世界システムの転換点とか評される合意を結んだ。ニクソン訪中に匹敵するとの見方すらあるこの訪問は、しかしそ れほど大層な出来事なのか。第二次大戦後の世界で、インドは米国にとって厄介な存在だった。冷戦期の非同盟勢力の旗頭であり、歯に衣着せぬその物言いを米 国は苦々しく見つめていた。インドの非同盟を事実上の親ソと見なす米国は、パキスタンに肩入れした。
インドの主要な政治勢力である国民会議派はアジア・アフリカ民族解放運動の手本だった。初代首相ネルーとその直系の後継者らは非同盟と反植民地運動支援を政策とし、国内では社会民主主義を採用した。軍備拡張にも熱心だったが米国が支援を拒否したため、兵器と航空機をソ連から買い、それが米国を一掃苛立たせた…
冷戦後の世界で国民会議派は非同盟や反植民地主義的連帯を口にしなくなり、社会民主主義も捨てた。過去5年間に米国とインドは重要な変化を経験した。経済 発展を経たインドは米国にとって情報科学の下請け先となった。在米インド人は各分野で多額の収入を得ながら母国との絆を維持し、保守一大勢力を形成してイ ンド社会に対米緊密化を求めた…
合意でインドが得るものは明白だ。喉から手が出るほど欲しかった核計画促進のための技術支援と、国際安保常任理事国五カ国とほぼ同等の、核保有国としての事実上の認知が濡れ手で粟と転がり込んだ…
こうしたこと全ての結果、どうなるのか。米議会では合意の承認に条件をつける動きが出ている。そうなればインド政府は条件を拒否し、米国に対して抱いた親近感は霧消する。既にギクシャクしている米・パキスタン関係はもっと悪くなるだろう。
インドはどう転んでも利益を得る。ロシアは米国がかつて阻止しようとした核燃料輸出をインドに持ちかけているが、米国にこれを阻止する大義名分はない…合 意の帳尻はインドの大量得点と、米国の更なる外交失点だ。合意は地政学上の米国の地位を一層低下させることになるだろう」
イマニュエル氏を河北新報では世界システム論の 権威と表し、肩書はN.Y州立大学ビンガムトン校付属フェルナン・ブローデル経済・史的システム・文明研究センター所長、とある。“世界システム論”など 私には初耳だったが、wikipediaで検索してみたらイマニュエル氏が提唱者だった。どうりで聞き慣れなかった訳だ。
それにしても、イマニュエル氏の対インド観はアメリカ知識人の思想が分かり面白い。「世界システム論」と銘打ってもアメリカ支配による世界システムを提唱、確立、堅持する目的が露骨に見える。植民地時代のインドにイギリスは盛んに「国際基準」「国際主義」を喧伝していたが、イマニュエル氏の論は名称を変えた焼き直しそのものだ。宗主国の「国際主義」など歪んだイギリス・ナショナリズムに過ぎない、とJ.ネルーは痛烈に皮肉ったが、アメリカ・ナショナリズムは「世界システム論」を打ち出すようだ。
そして日頃は人権主義の特異な例を除きアメリカに批判的な河北新報が、アメリカ・ナショナリズム丸出しのイマニュエル氏のような人物を「世界システム論」の権威、と殊更権威付けするのも不可解だ。
イマニュエル氏は核兵器を米国本土やその基地のある国に向けているのでもないインドに厳格で、核合意がイランや北朝鮮を付け上がらせるのを憂慮する。だが 世界最大の核保有国で、これを削減する動きもないのが他ならぬ自国というご都合主義を他国はどう思うのだろう。氏のような人物ならご都合主義など露思わ ず、アメリカは世界の核を監理する責務があると確信してるだろう。それが「世界システム」なのだから。
わが国の唯一の被爆国としての非核三原則など、いかに空しい理想主義であっただろう。核保有国で破棄する国など一カ国もなく、持たぬ国も持ちたがるようになるのが時代の流れなのだ。核を落とされるのは核を持たぬ国だから。
核廃絶運動をしていた人たちは、平和主義を掲げて核廃絶を夢見ていた夢想家に過ぎず、戦時中八紘一宇を唱えて必死に竹槍訓練をしていた者と変わりない。日 本の非武装化により濡れ手に粟の覇権を手にした国は高笑いが止まらず、意図せずともそれらの国への利敵行為に奔走していたのが平和団体である。
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私にはどうしても理解ができないのですが、大国同士が互いの利益の為に手を握るのが、そんなにもいけないことでしょうか?それは、外交ですので、右手で握手して、左手には何を持っているか分かりませんが。核保有国同士が手を握ることが許せないのなら、中露、中仏、米英など危険な組み合せは多々ですが。最近のところでは、中北とか。
某23という番組では、米国のイラク侵攻よりも東北アジアの方が優先順位が高いといってましたが、果たしてそうでしょうか?某北国なんて、占領しでも何も出てこない。(表現は不謹慎ですが、)占領後の飢餓民を救う方が大変ですね。それに対し、イラクは油が出ますから。そういう米国に追随する我が国の姿勢も批判しますが、油にまみれた豊な生活の為といっては、いいすぎでしょうか?少なくとも、あの時期、日本が手を貸さないことが、油利権に+、-のどちらに加担したか。そこまで総括した意見は皆無ですね。
(他国を侵略して喜ぶとは、仁君のすることではない、という意見には賛成します。が、仁君の支配する国ではなく、日本の土地や財産、人民を掠め取る国は、隣国に多すぎますね)
例え、汚れた手でも、手と手を携えるのが、どうしてダメなのでしょうか?それも、民主国家と非民主国家の組み合わせならば分かりますが。私も含め、インドが我が国の周辺諸国よりも民主国家で、そして、我が国にとっても、親しい友人となれる可能性がある事を知るものは少ないのでしょうね。
(ただ、インドはカレーにしても宗教も関り、美味しいだけではない。一筋縄でいかないのは、外国人だから当然ですね。でも、ラーメンもキムチもイクラやシシャモもそうでしょうね。)
(何故か最近は、某特ア系が関わっているというスーパーでは中○産のタコが多く出回っています。年々、タコの水揚げ高が減ってていても、中○産とは。タコを食べる気が失せてきました(といいつつも、近所のスーパーでのみ、カ○スの干物(中○産)をおいていますので、時々、購入してしまうのですが)。某23では、海産物の危険性を指摘し、タイ産のものをとりあげていましたが。果たして、タイ産のもの程、C国やK国が安全性を考えているとは、とうてい思えないのですが、、、。)
(世界中には、芋虫も生で食べる国もありますし。イナゴも食べますし、蛇も食しますし(日本では貴重)、鮫も鰐も。高級珈琲で、ある動物に珈琲豆を食べさせて、その排泄物を飲むものもあります。同じ、人間以外を食べるのであれば、グロくないとは、私は思えませんが、、、。)
(他のエントリーでのコメントにすれば良かったですね。このエントリーを汚して、申し訳ないです。)
私もイマニュエル氏の説には疑問を感じますが、このような論文を掲載する事自体、河北に限らず日本の新聞姿勢が伺われます。同じ核問題でも米、印に厳しく中露はスルー。外国人学者の意見なら何でも新聞読者はそのまま受け入れると思ってる節がありますね。新聞による世論操作工作の一環かも。
国連によるパレスチナ分割決議の非難の急先鋒だったのがインドのネルーで、ユダヤ系が牛耳る欧米のマスコミには反ユダヤ主義という者さえいましたので、呆れるばかりです。ユダヤ人を受け入れても、迫害はしなかったのがインド。
某23の番組はあの顔も頭も老いたキャスターを目にするだけで不快なのでずっと見てません。あの番組に公正な報道など期待するのが無駄というもの。筑紫サンの元の名が(朴 三寿)というカキコをネットでよく見かけます。
>他国を侵略して喜ぶとは、仁君のすることではない
これを中露にも言えるキャスターがいたらいいのですが、某23に限らず日本では皆無ではないですか。だから私は最近あまりTVも見なくなりました。
きれいな手の国家など地球上何処にもありません。マスコミの中国を持ち上げインドはマイナス面を強調する報道姿勢は、日印離間工作もあると思ってます。事実、中国はインドの国連常任理事国入りを支持する条件として、日本と手を切ることを提案したと、インドのメディアは伝えてました。東南アジアならひれ伏すでしょうが、インドはそう簡単になびく相手ではない。チベットの件を絶対許す訳がないのです。別に親チベットだからではなく、あの地はインドにとっても神々の住む聖地なのだから。
タイの経済を牛耳っているのは華僑ですので、この国も安全とはいえませんね。筍の季節ですが、安い中国産のものが大量に出回っているのは複雑な思いです。タラコも中国産をよく見かけます。
※追伸の件
私はまだ「くさや」を賞味したことはありません。チーズは大好物ですが、ブルーチーズは苦手ですね。
以前のエントリー「寄生虫館物語」で、イタリアのサナダムシ料理の話を取り上げましたが、動物の排泄物珈琲の話は初耳です。本当に世界には様々なゲテモノ食いがありますが、胎児を食べるのは隣国くらいです。