この懐かしき本たちよ!

まだ私の手元に残っている懐かしい本とそれにまつわるいろいろな思い出、その他、とりとめのない思いを書き綴りたい。

#298 カロッサ著「医師ギオン」

2006年06月04日 | ドイツ文学
この文庫本の最後には、この本を私が1955年5月4日に購入したと書いてあります。今から50年ほど前の丁度今ごろです。私が先週クラス会を一緒に過ごした仲間と新しい大学生活を始めたばかりのことです。この本はそれ以来ずっと私の書棚に居続けています。何度も読み返したわけではありません。しかしこの文庫本の背表紙を私は見つづけていました。

私は高校生の頃、ドイツ文学を専攻した義兄船山幸哉の書棚にある黒と赤の表紙のカロッサ選集を覚えていますが、私は高校生の時にはカロッサは読んだことはありませんでした。大学に入った年の5月にこの本を買ったというのは、多分、私が入会した大学のサークル、文学研究会のドイツ文学のグループが丁度読書会で使っていたのがカロッサだったからだったのでしょう。

 ドイツの作家ハンス・カロッサは医師でした。この小説の主人公も医師です。第一次大戦に軍医として従軍して帰還した若い医師ギオンの田園都市における患者や周囲の人たちとの交流や交感を描いたこの作品は私にはどこを開いて読んでもまるで詩を読んでいるような気がします。

 ドイツ文学者高橋義孝氏は、この文庫本の巻末の解説で、この作品「医師ギオン」は、カロッサの作品の中で小説らしい筋と構成を持った唯一の作品であると書いておられますが、私にはストーリーのあるフィクションには思えないのです。どこを読んでもこの作者カロッサの詩情あふれたこころを楽しむことができます。私達まで、この青年医師と同じ山間の田園都市に住んでいるような気になります。

 この本がもし生命があり心もあるのなら、20歳の若者ではなく老人が同じ書物を同じように開いているのを見て驚きながら私をからかってみたくなることでしょう。私自身の心はそのころの若さと変わってないと思うのですが。

 人は年とともに老いますが、書物は何年たって変わらないのです。
 
画像:ハンス・カロッサ著「医師ギオン」石川練次訳 角川文庫 昭和27年9月30日初版 同年6月再版 定価70円


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