日本列島旅鴉

風が吹くまま西東、しがない旅鴉の日常を綴ります。

この季節の楽しみ 2011(16)

2011-07-11 22:27:12 | 野球
開幕式が終わって戦いもいよいよ本番、昨日は西東京と神奈川を新たに加えた29大会で今季最多の336試合が戦われました。今日も紙面を眺めて思いつくまま綴って行きます。

・旅した土地に思いを馳せる
マスコミがこぞって書き立てる今、あえて触れないという選択も考えはしたものの、やはり一度は触れなければならないでしょう。宮城大会では11試合が戦われ、南三陸の6校がこぞって初戦に臨みました。被災の三週前に眺めた夕凪の志津川湾の穏やかさは、荒波と強風が寄せる津軽の海とは対照的でした。信じがたいことにその内海は全てのものを呑み込み、そのとき誓った再訪も、今では何年先になるのか分からなくなってしまいました。しかし、その震災から立ち直り、さしたる欠場校もなくこの大会を迎えられたのはよいことでした。一部の球場がいまだに使えないなど困難な状況は続くものの、東北人はマスコミが伝えるよりもはるかに前向きでバイタリティに満ちています。

・遠距離対決
定番の長野大会もさることながら、この日の注目はお隣の新潟大会です。広い県土に散らばるチームが入り乱れて戦う長野大会に対して、県内を4つに分けて同じ地区のチーム同士が仲良く戦う新潟大会は、このblogでも「ご近所同士の練習試合」と酷評してきた、全国屈指の凡庸な大会の一つでした。ところが驚いたことに、今年はそれが長野と同じ他地区同士の組み合わせに一変しているのです。昨年の中盤戦あたりからそのような節があったとはいえ、初戦からここまで劇的に変わるとは思わなかっただけに、紙面に並んだ試合結果を見るやいなや刮目したというのが率直なところです。東西南北にくまなく広がる長野に対し、南西から北東にかけて300kmにも及ぶ細長い県土をもつ新潟だけに、上越と下越のチーム同士が当たったときにはかなりの見応えがあります。突出した組み合わせこそないものの、試合結果を見れば昨年までとの違いは一目瞭然です。分かる人にしか分からない違いですが、それはまあそれとして…
この2県には及ばぬものの、隠れた遠距離対決の宝庫として挙げられるのが静岡です。こちらは東西200km近くに及ぶ長い県土で、東端の伊豆と西端の遠江が当たったときなどはかなりの距離になります。くまなく町が散らばることも、この手の対戦が出やすい条件で、この日でいうなら「田方農×遠江総合」、「引佐×御殿場南」など、直線距離でも100kmを超えるような対戦が出現しています。しかし、数字ほどの遠距離と思わせないのは、南北方向の広がりがほとんどなく、なおかつ東西方向を新幹線と高速道路が貫くというこの県の特徴のせいなのでしょう。
もう一つの定番である離島勢としては、東東京の大島海洋国際に新潟の羽茂と、東日本の2校が初戦で散っています。鹿児島に次ぐ離島の宝庫である長崎では、橋で地続きの平戸島を含めて全11校の離島勢から一挙6校が登場、しかも2試合は離島同士の直接対決でした。今年度限りで廃部となる宇久は初戦で散り、五島列島最北の島から出たこのチームにとって最後の夏が終わりました。鹿児島では昨年県8強に進出した屋久島が二戦目を突破しています。

・接戦にほくそ笑む
開会式直後の1試合のみだった神奈川大会を除き、全大会で2桁得点の試合が出現してこの日は該当なし。ワンサイドゲームが地方大会にはつきものとはいえ、全大会でこれだけ差がつく日もそう多くはありません。

・お前らゼロか!
20点差以上がついたのは埼玉で2試合、群馬で1試合、兵庫で1試合の計4試合で、負けたチームはいずれも0点。300試合を超えるとこの手の試合が片手で数える程度は出てくるという経験則が如実に表れています。普段は結果のみたった一行書かれて終わるこの手の試合が、この日は全国の注目を集めました。兵庫大会で71-0というスコアが出たためです。大差で勝つのは特段強豪校ではないと昨日申したばかりですが、勝った姫路工は春3回、夏2回の全国大会出場経験をもちます。直近でも6年前の選手権で代表の座を勝ち取っており、例年もかなりの確率で4回戦から5回戦あたりまで勝ち進む実力校です。打っては56安打、守っては3投手の継投で相手打線を1安打無四球に封じる完勝でした。5回コールドとはいえ、これだけの得点を叩き出すための労力は半端でなく、姫路工の一番打者にいたっては、10打数9安打8打点いう、大当たりを2試合分繰り返したかのような成績になっています。思えば昨季一試合最大の55点をとった上尾も、甲子園出場経験を有する強豪でした。上尾は疲れが出たのか次戦で不覚をとりましたが、今回の姫路工はどうなるのでしょうか。ちなみに、上尾が属する埼玉大会は、昨年20点差以上の零封試合を一日4試合、三日連続で合計9試合も出した大量得点差試合の宝庫でもあります。

・伝統校にほくそ笑む
愛知では時習館、明和、成章、福岡で修猷館、明善、伝習館の藩校御三家が奇跡の揃い踏みを果たしました。九州では他にも大村、高鍋と藩校出自の伝統校が登場しています。中国地方と九州地方には江戸時代の藩校ゆかりの伝統校が多く、「××館」と名乗る高校が多いのも、これらにあやかってのことなのかもしれません。

・鳶が鷹を生んだ
接戦と並ぶ希少ネタだけに、昨日はズバリこれといったものがなく、しいていうなら西武の石井一を生んだ東京学館浦安あたりでしょうか。全国大会の出場経験がないにもかかわらず無名校という感じがしないのは、例年4回戦、5回戦あたりまでは勝ち進むそこそこの実力校であることと、他にもスポーツ選手や芸能人を輩出していることによるのでしょう。

・よい地名にハァハァ
京都の鴨沂、菟道に東舞鶴、奈良の高円、畝傍などの真打ちが登場。気品の高さは他県を寄せ付けません。

・鶯鳴かせたこともある
この日は該当多数で、27年前の選手権を制した取手二高、選抜勝率10割の珍記録をもつ大宮工、春夏合わせて6回の全国大会出場と2度の8強を経験しながら四半世紀ご無沙汰の熊谷商、春夏合わせて21回の全国大会出場を誇り戦前の高校野球界に君臨した大阪の古豪市岡、1990年代に4度の選抜出場を果たした神戸弘陵、同じく4度の選抜出場経験をもち20年ご無沙汰の三田学園、春夏合わせて9回の全国大会出場と3度の8強を経験して16年ご無沙汰の広島工、そして夏の甲子園勝率10割という空前絶後の記録をもつ三池工と、全国各地でオールドファンには懐かしい名前が登場しました。その中で注目するのは取手二高です。
桑田、清原を擁する全盛期のPL学園を討ち果たしたことであまりに名高いこのチームも、その夏を最後に名将木内監督が去って以来、何の変哲もない公立校として現在に至っています。最近では年により春と秋にも出場はするものの、毎年参加するのは選手権大会のみ、それも過去5年中4年が初戦敗退と、かつての栄華も今は昔です。いつまでも語り継がれるであろうPLとの名勝負もさることながら、翌年夏の甲子園の開会式、県大会であっさり敗退した取手二高の主将が、優勝旗を掲げながらたった一人で淋しげに行進する姿は、四半世紀を過ぎた今でもこの瞼に焼き付いています。その優勝旗を次に掲げたのは、前年に苦杯をなめたPL学園でした。常総学院に転じ、我が国の高校野球史上に残る名将の座をほしいままにした木内監督も今年で齢八十歳、この夏限りの勇退を表明しています。桑田、清原のごとく有終の美を飾ることはできるのでしょうか。

・職業高校にハァハァ
木更津、沼津、岐阜、呉、久留米、有明と全国各地で高専が登場する中、昨日は産業技術高専、大阪府大高専、熊本高専熊本という変わり種が初戦に臨みました。産業技術高専と大阪府大高専は全国に3校しかない公立高専のうちの2校です。両校がいずれも敗退したことにより、残る神戸高専が公立高専最後の砦となります。熊本高専熊本は、これも全国に3校だけ存在した電波高専の後身です。「熊本高専熊本」なる表記をするのは、他に「熊本高専八代」があるからで、熊本電波高専と八代高専が2年前の統合により熊本高専と名を変えたため、このような表記になったという経緯があります。名前を変えたとはいえ、かつて存在した3校はいずれも健在です。初戦を突破した熊本高専熊本を含め、旧電波高専の戦いはまだこれからです。
ちなみに、産業技術高専を初戦で一蹴したのはあの帝京でした。過去5年間公式戦未勝利の無名校が、春夏合わせて25回の甲子園出場と3回の優勝を誇る全国屈指の名門に初戦でぶつかるという、まさに「スクール★ウォーズ」の相模一高戦のごとき対決が出現したのは、例年なら夏のシード校を決めるはずの春季大会が震災の影響で一部中止となり、結果として今季に限りシード校を設けないフリー抽選になったからだそうです。産業技術高専の立場からすれば、噛ませ犬にされてしまったという点では気の毒ともいえ、滅多に戦えないような強豪と対戦できたという点ではよい経験になったともいえます。当の球児たちはどんな思いでこの試合を戦ったのでしょうか。
余談の余談で、大阪ではPL学園が1回戦を難なく突破しています。こちらは震災の影響などではなく、そもそも大阪では連盟の方針によりシード制がとられないからです。その結果として、大阪では初戦でいきなり強豪と無名校が当たったり、あるいは強豪校が星をつぶし合ったりするという現象が出てきます。昨日の関大北陽×大阪桐蔭などがまさにそうで、どう見ても8強以降としか思えないような戦いが初日からいきなり出現しました。結果は優勝候補筆頭の大阪桐蔭が順当勝ちを収め、大阪桐蔭をも上回る春夏合わせて14回の全国大会出場を誇る関大北陽は、過去5年で一度もなかった1回戦敗退に終わっています。
この他、南安曇農、焼津水産、大阪農芸といった心惹かれる職業高校もいくつか登場しており、この日の対戦は本当に盛り沢山です。列島の北と南でひっそりと戦われた三週間から一転、いきなりピーク到来といった感が漂う昨日の試合結果でした。

本日も最後は番外編で締めくくります。没収試合に続き、昨日は埼玉大会で不戦勝が出現しました。昨年1試合だけ出現した不戦勝は、一方のチームに故障者と病欠者が出て9人揃わなくなったための棄権だったのに対して、今回は部内の暴力事件により抽選後に出場辞退という少々痛い話です。百花繚乱の名勝負・迷勝負に彩られて見所満載だったというのに、最後の最後をこんな話題で締めくくらなければならないというのが残念ではありますが、出場辞退の憂き目に遭った球児たちはなおさらでしょう。次があろうとなかろうと、この悔しさを胸に心機一転頑張ってもらいたいものです。もちろん、自分も心機一転これからの試合結果を追いかけたいと思います。

★宮城大会1回戦(7/10)
中新田4-8仙台南
志津川7-3岩ヶ崎
南郷0-10x築館
柴田農林4-13東北学院榴ケ岡
石巻9-1気仙沼西
古川黎明3-0石巻好文館
本吉響5-8大河原商
黒川2-6気仙沼向洋
仙台商1-0仙台西
東北学院9-8東北生文大
利府12-6宮城工
★茨城大会1回戦(7/10)
太田一7-2取手二
★埼玉大会1回戦(7/10)
熊谷商16-5鴻巣
与野7-1大宮工
★千葉大会1回戦(7/10)
木更津高専2-6柏井
東京学館浦安14-0富里
★東東京大会1回戦(7/10)
産業技術高専1-20帝京
六郷工科12-5大島海洋国際
★新潟大会1回戦(7/10)
糸魚川白嶺4-9加茂
羽茂0-11直江津
新潟東4-7高田北城
巻総合4-5x十日町総合
塩沢商工1-3新潟県央工
三条商12-1高志
新潟西9-10村上桜ヶ丘
小千谷西8-3新発田南
新津2-3x帝京長岡
新発田農0-6新潟
正徳館7-12新潟工
新潟北3-9白根
三条11-0阿賀黎明
新潟産大付6-0阿賀野
柏崎総合7-8x豊栄(延長11回)
★長野大会1回戦(7/10)
上田千曲1-3松代
岡谷東4-11x丸子修学館
松本美須々ヶ丘10-2上田
中野西2-6松本工
箕輪進修0-10x松本蟻ヶ崎
阿智9-0南安曇農
梓川4-8岡谷工
坂城1-11x飯田風越
飯田9-0蘇南
飯山北11-0高遠
北佐久農1-8中野立志館
犀峡1-11下伊那農
★静岡大会1回戦(7/10)
田方農2-1遠江総合
焼津水産4-1沼津城北
相良1-2沼津高専
引佐3-7御殿場南
★愛知大会1回戦(7/10)
日本福祉大付4-1明和
時習館5-4小坂井
犬山1-6成章
★岐阜大会1回戦(7/10)
岐阜高専6-8岐阜
★京都大会1回戦(7/10)
鴨沂1-7大谷
東舞鶴3-5須知
菟道10-1洛西
★大阪大会1回戦(7/10)
大阪農芸14-5住吉商
堺0-5PL学園
市岡7-2枚方津田
三島5-3府大高専
★兵庫大会1回戦(7/9)
尼崎稲園2-12x神戸弘陵
氷上西0-71姫路工
三田学園3-4明石西
★奈良大会1回戦(7/10)
高円8-6山辺
奈良朱雀12-4榛生昇陽
畝傍3-1生駒
★広島大会1回戦(7/10)
舟入13-6呉高専
福山0-10x広島工
★福岡大会1回戦(7/10)
朝倉光陽8-9x久留米高専
修猷館7-0三池
明善2-6西日本短大付
古賀竟成館4-1有明高専
三池工2-4福島
糸島7-5伝習館
★長崎大会1回戦(7/10)
五島海陽0-4壱岐
上五島1-2x対馬
諫早商2-9x長崎西
長崎商18-0宇久
川棚6-2北松西
壱岐商4-3大村
★熊本大会1回戦(7/10)
熊本高専熊本11-2松橋
★鹿児島大会2回戦(7/10)
末吉0-7屋久島

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