日本列島旅鴉

風が吹くまま西東、しがない旅鴉の日常を綴ります。

北陸近畿縦断ツアー 三日目

2013-10-14 21:28:54 | 居酒屋
京都で一人静かに呑みたいと申したのは、より具体的にはこの店で呑みたいということでした。河原町二条の「きのした」を再訪します。

この店に初めて立ち寄ったのは、二年前にやはり北近畿を旅したときのことで、10月の三連休の最終日だったのも同じです。丹後に終日滞在してから移動してきたため、京都へ着いたときには10時を回り、呑み屋の看板が刻一刻と近づいてくるという状況でした。宿を探して荷物を置く間も惜しまれたため、とりあえず中心街から離れた安いコインパーキングに車を止め、そこから呑み屋が集まる三条四条まで急行しようとしたとき、すぐ近くでたまたま目にとまったのがこの店だったのです。事前に何の情報も持たなかったとはいえ、店構えや品書きからしてひらめくものを感じ、一か八かで飛び込んだところ、これが大当たりというのがそのときの顛末でした。
このようにして、旅の途中でたまたま探り当てた名店というのは、下手な有名店などよりはるかに愛着が湧くものです。弘前の「はすや」に福井の「紋や」など、その後何度か再訪を重ねるうちに、旅の目的そのものと化してきた店もあります。そしてこの「きのした」も、心底満足したという点ではこれらの双璧に勝るとも劣らぬものがあったため、いつか再訪の機会をうかがっていたのでした。

それでは何がそこまでよいかといえば、まずはその佇まいです。薄暗い二条通りに灯る店の明かりは、陳腐な言葉を使えば「隠れ家」ということにはなるものの、それ以上に京都らしい上品さ、奥ゆかしさというものが感じられます。もちろん敷居が高いということではなく、一人でも気軽に入れて、居酒屋使いができそうな店構えです。そればかりか、少し進んで角を曲がると、そこには骨董品屋などが軒を連ねています。翌日明るくなってから近辺を歩いたときは、こんな趣のある町並みだったのかと感心させられたものです。
そんな佇まいからして期待を裏切るはずもなく、店内の造りもまことに上々。「紋や」のような高級感あふれるゆったりしたものではなく、壁と天井はクリーム色、床とカウンターとテーブルは焦げ茶というツートンカラーで統一された、明るくてこざっぱりして清潔な店内とでもいえば収まりがよさそうです。カウンターの向こうにあるグリル、コンロ、フライヤー、蒸し器、洗い場という順で機能的に配置された仕事場は、当然ながらきれいに磨き込まれ、なおかつ店の年季相応の味わいを放っています。

佇まいと造りだけでなく、酒と肴の充実ぶりも見事なものです。まず酒は、有名どころをあえて外し、通好みのする銘酒を店の規模に合わせた数だけ揃えているという印象があります。「風の森」に初めて出会ったのもここで、本日の一杯目にも迷わずこれを選択。わずかに発泡した舌触りに、そのときと同じくこの酒の持ち味が表れています。突き出しには奇しくも丹波の黒枝豆が、目の前の大皿から気前よく盛られ、一杯目を受けるにはこれだけでも必要にして十分です。
A4一枚にまとめられた日替わりの品書きは、お世辞にもきれいな字とはいえません。しかし、ここは京都、今は秋だと瞬時に分かる品書きは、ざっと眺めるだけでも心躍るものがあります。たとえば、秋刀魚を柚庵焼きにしたり、柿を白和えでなく湯葉で和えたりするなど、季節感を織り込みつつ京都らしさを感じさせる演出は心憎いばかりです。

酒は厚手の片口に注がれ、しかも一合ごとに違うものが出てくるという凝りようです。この酒器を含め、伝統的な和食器というより、気の利いた器を使ってくるのが「紋や」にも通ずるこの店の特徴でもあります。最後に注文した小鍋はこれまた意表を突き、土鍋でもステンレス鍋でもなく、錫を叩いて造ったとおぼしき平たい鍋で出てきました。安物だと店主は謙遜するものの、これだけ小洒落たものを取り揃える感性だけでも大したものだと思います。

以上は前回の印象とほぼ同様だったのに対し、やや異なったのが店主の客あしらいです。口数少なく受け答えもあっさりしているところは、「はすや」の店主に少し似ており、こんな店主だったかというのが今回の印象でした。もっとも、同じ店へ通い続けることによって打ち解けてくることは往々にしてあり、ここの店主はその手の人物なのかもしれません。これからも季節を変えて何度か訪ねてみたいと思う名店です。最後は店主の見送りを受けつつ立ち去ります。

旬味きのした
京都市中京区二条通河原町西入ル榎木町92-7 佐野ビル1F
075-213-2929
1730PM-2200PM(LO)火曜定休

風の森二合・竹生嶋
突き出し
柿とこんにゃくの湯葉和え
揚げぎんなんと栗唐揚
秋鮭・豆腐・小かぶらの小鍋

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